言うまでもなくエロです
でも最初はほのぼのです




































その熱に惹かれてる



昼休みに、古泉に宛ててメールを送る。
『今日の活動が終ったら、お前のところに行ってもいいか?』
短いそれを打つのに、俺がどれだけ悩み、葛藤し、苦しんだかを細かく言い表せば、原稿用紙の5枚や10枚、簡単に埋まったに違いない。
それくらい、勇気がいることだったのだ。
少なくとも、俺にとっては。
何しろ、古泉のところへ行くということは、古泉とヤることと同義語に等しいような状況だからな。
それを分かってて古泉にそんなメールを送れば、どうなるかなんて考えるまでもない。
赤ズキンちゃんが服を脱いで、シャワーを浴びて、ついでに塩やクリームまで全身満遍なく塗りたくった挙句に、オオカミさん召し上がれとばかりに皿の上に乗るようなものだ。
……途中、別の童話が混ざっている気もするが。
それなのに、そんなメールを送ったのは、古泉に会いたいと思ったからだ。
SOS団員じゃない、ただの古泉に。
あるいは、恋人としての古泉に、無性に会いたくなったんだ。
それを発情したとか解釈するのは古泉だけで十分だ。
ヤるヤらないはともかく、古泉と一緒にいたいだけだからな。
そんな俺の葛藤に対して、古泉からの返事はいたって簡単なものだった。
『お待ちしてます』
の一言だ。
肩透かしを食らわされたような気分になる。
だが、まあ、いい。
変態染みたことを言われなくてよかったとでも思っておこう。
なんとなく違和感があるような気もしたが、その時の俺は、とりあえずそれでほっとした。

今日の活動は長門の部屋で行われた。
活動と言っても、部室でやってた頃となんら変わりはしない。
長門が黙々と本を読み、ハルヒがパソコンをいじりながらよからぬ企みをし、朝比奈さんが甘露の如きお茶を淹れて下さる。
俺と古泉が、古泉持参のボードゲームに勤しむのも同じだ。
違うことがあるとすれば、長門の部屋でやる時はちょくちょく朝倉が顔を出すくらいのものだが、ナイフさえ持ち出してこなければ朝倉はただのクラスメイトなので別に構わないと言えば構わない。
それだけ顔を出しているのに、未だに準団員扱いさえ受けないのが不思議ではあったが。
いつも通りの日常だと、俺もやっと素直に思えるようになってきていた。
違和感が全くないと言えば嘘になる。
それでも、こちらの方がホームグラウンドのように思えるようになってきていることは偽りでもなんでもない事実だ。
新しいSOS団が、微妙に前とは違うこの場所が、俺は愛しくなっていた。
多分、それでいいんだろう。
いつか、改変される以前の世界なんて自分の妄想だったんだと思える日が来るかもしれない。
むしろそれを楽しみにしながら、俺はこのいささか風変わりな、しかしあくまで平凡な仲間たちを見遣った。
「キョン、どうかしたの?」
俺の視線に気がついたのか、ハルヒが言い、俺は小さく首を振った。
「いや、なんでもない。……そろそろ帰る時間かと思っただけだ」
「そうね。そろそろ帰りましょうか。有希、今日はありがと」
長門は小さく微笑みながら首を振り、
「いい。また月曜日に」
長門が笑うということにやっと慣れてきた俺も笑みを返し、
「ああ」
古泉と共に、広げていたバックギャモンを片付け、長門の部屋を出る。
外はまだ薄っすらとは言え明るく、春らしい色に空が染まっていた。
マンションの前でハルヒたちと分かれ、古泉と歩きだす。
古泉とはSOS団での活動以外でも親しくしているということを、ハルヒたちにも認識されているので、特に怪しまれることもない。
薄暗がりに紛れて、古泉の手を握ると、小さく笑われた。
「今日は積極的ですね」
「…悪いか?」
「いいえ、嬉しいですよ」
握り返された手の暖かさにほっとしながら、
「泊まってっていいんだよな?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
「夕食の材料くらい、あるんだろうな?」
俺が聞くと、古泉は不自然に目を逸らした。
「……ないのか」
「すみません。……スーパーに寄って帰りましょうか」
そうするしかないだろうな。
呆れながらため息を吐くと、古泉は楽しげな笑い声を立てた。
「なんだ?」
「いえ、……普通の恋人同士のようだなと思いまして」
「…普通の恋人同士じゃなかったのか?」
「そんなに怖い顔をしないでくださいよ」
と古泉は苦笑した。
「ただ、分からないんです。普通と言ってしまっていいんでしょうか? あなたと僕は男同士で、恋人らしいことも余りしてなくて……それでも、普通だと言ってしまえるなら、それは喜ばしいことですが」
「……じゃあ、明日、どこか出かけるか?」
「え」
「行き先は……そうだな。――今、面白い映画でもしてたか?」
俺はちょっと思いつかないんだが。
「あの、」
「なんだよ」
「それ、もしかしてデートに誘ってくれてます?」
「……他のなんだと思うんだ」
「いえ……ちょっと驚いて…。あなたは人前で恋人として振舞ったりすることを許してくれない人だと思っていたので…」
「人前でべたつくのは、やるのも見るのも嫌だぞ。だが、手を繋いで歩いたり、一緒に出かけるくらいはしてもいいというか…」
赤くなってきた顔が見えないように祈りながら俺は言った。
「…したいと、思わないでも、ないからな」
「…ありがとうございます」
抱きしめる代わりのように、手をぎゅっと握りこまれる。
「さっきより手が暖かくなってますね」
それは遠回しに顔が赤くなっていることを指摘しているのか?
「ドキドキしてくれてるんですよね? 言葉より何より、そのことが嬉しいです」
そういう古泉の手も、さっきより暖かい。
表情も顔色もほとんど変わってないくせに、流石に体温は誤魔化せないということなんだろうか。
「スーパーに寄って、買い物をして帰ったら、夕食を作ってくれるんですよね? その間に僕は楽しめそうな映画がないかとか、どこかにいいデートスポットでもないかとか、色々探してみることにします」
「ああ」
「あなたとデートだなんて、なんだかくすぐったいですね」
「今更だからな」
「そうですね。……すみません」
本当に済まなさそうに謝りながらも、古泉の声はどこか嬉しそうだった。
「あなたの優しさに甘えて、いつも好き勝手にしてしまって。でも、あなたの体だけが目当てだとかそういうことじゃなくて、本当に、あなたのことを愛してますからね?」
唐突だな。
「不安に思ってたんでしょう?」
「それは……そうだが…」
気付いてたのかと驚くと共に、見透かされていたことが恥ずかしくなる。
「だから、自分からメールを下さったり、デートに誘ったりしてくださったんだと思ったんです。当たってますよね?」
「……」
黙り込んだ俺を抱き寄せて、古泉が囁いた。
「疑わなくていいです。むしろ、自惚れていいくらい、僕はあなたが好きで、あなたに夢中ですから」
「……恥ずかしい奴だな」
そう言いながらも手を離せず、手を繋いだまま、歩き続けた。
その手の熱を感じながら。

夕食の後、風呂から上がり、寝室に向かうと、ベッドに横になった古泉が既に寝息を立てていた。
珍しいこともあるもんだ。
驚きながらも布団にもぐりこむと、俺自身風呂から上がったばかりなのに、暖かく感じられた。
もぞもぞと擦り寄ると、古泉の匂いがした。
暖かくて、嬉しくて、眠くなる。
明日、目を覚ましたら古泉はどんな顔をするんだろうか。
そんなことを思いながら眠りかけたところで、
「ん……あれ…」
古泉が目を開けた。
「…すみません、眠ってしまっていたようですね」
「そのまま寝てよかったんだぞ」
「いえ、そうはいきません」
と古泉は笑みを浮かべ、
「あなたから泊まりに来てくださったんですから、期待を裏切るわけにはいかないでしょう。ねぇ?」
その、「ねぇ」ってのはなんだ。
俺は別に期待なんかしてない。
むしろ、あのまま寝てもらいたかった。
「その割に、距離が近いですよ」
古泉がそう言いながら俺を抱きしめても、それ以上距離は縮まらなかった。
それくらい、俺が古泉にひっついていたからだ。
「少しくらい、期待してくださったんでしょう?」
そう尋ねてくる古泉に、俺は諦めて頷いた。
「期待って言うと語弊があるがな」
こうなる可能性くらいは考えてた。
「ありがとうございます。嬉しいですよ」
古泉の手が服の中に入り込んでくる。
胸の突起を探り当てられ、体がびくりと震えた。
「んっ……古泉…」
「どんな風にして欲しいですか? 言ってくださったらその通りにしますよ」
「どんな…って……」
その言葉だけでいつもされている諸々のことを思い出す。
痛いくらいに抓られて、赤くなるほど押し潰され、引っ張られ、そのくせ優しく舌先で転がされる快感を。
どんなにされても感じるような浅ましい体なんだと、思い知らされたのはほんの少し前のことだ。
それでも、痛いのは好きじゃない。
「…胸…舐めて……」
小さな声でそう訴えるのが精一杯の俺に、古泉は意地悪く笑い、
「舐めるだけでいいんですか? そうしたら片方しか可愛がってあげられませんよ。反対側は放っておいていいんですか?」
そう言いながら、胸が露わになるよう服を捲り上げる。
その舌が、見せつけるように乳首を舐めた。
「っ、反対…は……指で、触って…くれ……」
恥ずかしさで死ねる、と思いながら目先の快楽に負けてそう言った俺に、
「よく言えました」
と古泉はキスを寄越した。
貪るような、そのくせ優しいキスを。
「はっ……ん、ぅ…」
「可愛いですね」
そう囁きながら、古泉が俺の言った通りのことをする。
「もっと言わせてみたいですけど…これ以上は無理でしょうね」
「あ、たりまえ…だ…っ、っあ、無理、言うなぁ…!」
「いつか、言ってくださいね。あなたの言う通りに、あなたの好きにしてさしあげますから」
「ひあ、あぁ…っ」
古泉の手が体の上を這う。
布団は完全に床に落ち、脱がされた服がその上に積み重なる。
ぼうっとしてくる頭で、なんとか古泉の服を脱がせると、
「いつも肌を合わせることにこだわりますね」
指摘されたことで顔が真っ赤に染まったのが分かった。
気付いていやがったのか。
「恥ずかしがらなくていいですよ。僕も嬉しいですから」
疑わしいと言ってしまうには古泉の顔は本当に嬉しそうで、俺は、
「…くそ……」
と呟くのがやっとだった。
腹いせのように古泉の背中に爪を立てて、受け入れる痛みに耐える。
痛みが次第に快感に変わるのが腹立たしいくらいに感じられるのは、俺がマゾだと言うわけではなく、快感に引き摺られて体を重ねているだけなんじゃないかと思ってしまうからだ。
古泉を好きだと感じることさえ錯覚なんじゃないかと思ってしまう。
それは多分、始まりがああだったせいだ。
古泉の馬鹿野郎。
「何を、考えているんです?」
「何、って、…っぁ、ああ…っ」
「気になりますね」
「ひっ、ん、ア、お、お前のことなんだから、あっ、…許せ…よ…!」
というか、話をしたいんだったら止まれ、動くな。
「僕のこと、ですか…」
薄く笑った古泉がキスしてくる。
「嬉しいです」
「んんあ、あ、…っ、こいず、み…ぃ…」
「愛してます」
「…れも、好き…っ! だから…、もっと……」
「もっと? なんですか?」
「……っ抱きしめて、好きって…言えよ…!」
そうしたら、不安を感じなくて済むから。
悲しくもないのに流れ出る涙を、古泉は甘い言葉を囁きながら舐め取った。
俺を慰めるためというよりもむしろ、そうしなければ自分の方がどうにかなってしまうかのように、熱っぽく。
繰り返し、何度も。