このシリーズですから当然エロです
鬼畜風のエロです
義務教育の終ってない方、エロ嫌いな方などは来ちゃいけません
「お前最近付き合い悪いよな」 と谷口が言ったのは、帰りの坂道を下り始めた頃だった。 そうでもない、と思っちまうのは俺がまだ元の世界での感覚から抜け切れないせいだ。 放課後いっぱい部室で過ごしていた頃と比べると、こうやって一緒に帰ったりする分、谷口と国木田と過ごす時間も長くなっているんだが、こいつらの感覚でいけば、他校の生徒とつるんで何かやらかし始めたこの冬以来、俺の付き合いが悪くなったということになるんだろう。 「それにあの妙な活動だ」 と谷口は大袈裟にため息を吐いて見せた。 「お前が涼宮の同類だったとは思ってもみなかったんだがな」 ほっとけ。 「でも、本当にびっくりしたよ」 と国木田は控え目ながらも笑い、 「キョンがいきなりおかしなことを言い出したかと思ったら、数日経たない内に他校生と一緒になって何か始めたんだからね。キョンって、そんな風に積極的に何かするタイプじゃないと思ってたから、余計に驚かされたよ」 それについては俺も驚いている。 が、多分、必死だったんだろうな。 自分で選んだとはいえ、結果として自分の居場所ってものを再構成しなけりゃならん状況だったから、形振りに構っているような余裕もなかったし。 そう考えると、ほんの数ヶ月前のことだってのに、やけに遠いことのように思えてくるな。 小さくため息を吐いたところで、突然国木田が言い出した。 「ねえ、キョン、もしかして彼女でも出来た?」 「はっ!?」 なんでいきなりそうなるんだ。 「このところ、どうも物思いに耽ったりすることが増えてたし、ニヤニヤしながらメールしてたりしただろ」 そんな覚えはないんだが、そんなことをやっちまってたのか、俺は。 ……くそ、腹立たしい。 「それで、彼女が出来たの?」 「いや、そんなんじゃない」 とこれは嘘ではない。 何しろ、彼女じゃなくて彼氏だからな。 ……本当に、何でこんなことになっちまったんだろうな。 などと嘆いてみるも、それほど悔やんでいないのもまた事実だ。 あいつの変態プレイに付き合わされるのは未だに慣れないし、慣れたくもないが、一緒に過ごすだけならあいつといるのは心地いい。 道具だのなんだのを持ち出されないのであれば、気持ちいいことを拒めるほど俺も老け込んでないしな。 だからと言ってこのままずるずると変態の仲間入りだけは避けたいのだが、あいつが許してくれるとも思えん。 何かと言っちゃあ無駄な嫉妬に狩られて無体をしてくるのは、付き合いはじめて二ヶ月ばかりになる今も変わらない。 この前なんか、妹を優先させたばっかりに拘束プレイに持ち込まれたくらいだからな。 どれだけ余裕がないんだ、あのアホは。 ――ということは、何か。 こうやって谷口と国木田と帰ってるだけでも、バカみたいに嫉妬しやがるんだろうか、あいつは。 笑顔で猥褻極まりないことを口にする古泉の姿を思い浮かべただけでげんなりした。 もう少し自重してくれないもんだろうか。 はぁ、とため息を吐いた時だった。 古泉が、「噂をすれば影」ということわざが真理であることを証明したのは。 正確に言うならば、噂をした記憶はないのだが、それでも意味するところに大した違いはない。 重要と思しき箇所は、古泉がいきなり登場したという点だけだからな。 「こんにちは、今お帰りですか」 角からひょっこり顔を出した古泉に、俺はげ、と小さく呻いた。 しまった、と思ってももう遅い。 古泉の表情が一瞬ピクリと引きつったのを見ちまったからな。 自分で攻撃される種を作ってたら世話ねえよなぁ……。 だが古泉は、見慣れない他校生にきょとんとしている国木田と谷口に如才ない笑みを向けると、 「初めまして、光陽園学院の古泉と言います。彼の同級生の方ですか?」 「そうですけど」 古泉に釣られるように敬語になりつつ、国木田が言った。 「あ、もしかして、キョンと一緒になんとか団って活動をしてる人かな」 「ええ、そうです。その関係で彼にいくらか話したいことがあるのですが、彼をお借りしてよろしいでしょうか?」 「勿論構わないよ。僕たちは学校でいくらでも話せるし。ね、谷口、キョン」 「ああ」 と谷口は頷いたが、俺は頷く気にさえなれなかった。 国木田はフォローか何かのつもりで言ったんだろうが、それは全くの逆効果だ。 学校が違うってのは古泉を不安にさせている要素のひとつだからな。 それを持ち出されて古泉が平静でいられるはずがない。 さらば、俺の平穏なる時間。 「じゃあね、キョン」 「また明日な」 明るく健全な奴等が立ち去るのを力なく見送った俺に、古泉が囁いた。 「仲がよろしいんですねぇ」 「…別に」 「隠さなくてもいいんですよ? むしろ、隠される方が気になりますね」 ミニスカ生足より絶対領域に魅力を感じるタイプだな。 「あなたがしてくださるならどちらでもいいですよ?」 俺がやるわけないだろ。 「それより、」 と俺はため息を吐きつつ、 「わざわざ待ち伏せまでしてなんだ」 「ちょっとした雑用を涼宮さんに頼まれましてね。あなたにご協力願えないかと思ったんですよ」 「またか…」 ハルヒがいきなり妙なことを思いつき、そのために俺や古泉を扱き使うのは、世界が変わろうと変化のない、普遍的法則であるらしい。 いつだったかは俺が話した旧SOS団の活動の再現をしたいとかなんとか言って北高に乗り込んで来たし、ついでにコンピ研に喧嘩まで売りに行っていた。 その他にも映画撮影がしたいだのなんだのと騒ぐたびに、「普通の高校生」たる俺たちが妙に働かされるのだ。 まあ確かに、普通の女子高生になっちまったがために、宇宙人的要素の欠片もなくなった長門に力仕事をさせたりするわけにはいかないだろうし、朝比奈さんについては言うまでもないのだから、俺と古泉が働くのは当然のことなんだろう。 それにしたってふたりセットで動かされることが以前より多いのは何でだ。 ハルヒの思いつきか、それとも古泉の陰謀か。 ……後者の可能性が高いことは、改めて言うまでもない。 「今度は何だって?」 「なんでも、映画撮影の下見を兼ねて、一度森林公園広場に行って来てほしいとのことです。どうせやるなら元の映画よりいいものを撮りたいとのことで、他にも撮影の候補地を考えておられるようですから、僕たちにお鉢が回ってきたのでしょう。とりあえず、撮影に使えそうかどうかの確認だけでいいそうですから、今日のうちに済ませてしまいたいのですが、どうでしょう」 「まあ、いいだろ」 バスを使ってもあそこまで片道1時間かかることを考えるとうんざりだが、往復2時間も使えば古泉に妙なことをされる時間も多少は短縮させるかもしれないしな。 あそこへいく路線のバス停はどこが近かったかな。 などと考えていた俺は、本当に単純に出来ていた。 少し考えれば、あのハルヒが――特に創作意欲に燃えるハルヒが、重要な下見などを俺たちに任せるはずがないってことはすぐに分かっただろうに。 バスの座席にふたり並んで腰を下ろし、30分ばかり揺られた。 話すことは、周りに他の人間が大勢いたからか、いたって普通の内容だ。 授業がどうとか、教師がどうとか、そんな他愛のない話だな。 古泉とふたりでそんな会話をするのも新鮮だったが、古泉とふたりだというのにバスで移動というのもなんだか不思議な気分で、俺はいくらか浮かれていた。 普通の高校生ということを噛み締めていたのかもしれない。 ちんたら山道を登ったせいで、予定より少し遅めに到着したが、公園の様子は特に変わってはいないようだった。 ここに来るのも撮影以来のことだから、世界が変わっちまってからは一度も来てなかったことになる。 それが変わってないってのはやっぱり、なんとなく嬉しいものだな。 あの時と違うのは、今日が平日の夕方のせいで人がいないこと位か。 おかげで余計に寒々しく見える。 思わず手をすり合わせると、 「よろしければどうぞ」 古泉に暖かそうなコートを渡された。 どうやらカバンから取り出したらしい。 やけに膨らんでいるとは思ったが、そんなものを用意してきていたのか。 妙に準備がいいな。 「あなたは結構寒さに弱いでしょう? だから、あなたに会いに行く前に、一度家に寄って取ってきたんですよ」 「ありがとな」 俺は古泉のコートに手を通した。 身長差を考えれば当然なんだが、いくらか大きい。 暖かいのはありがたいが、ちょっとばかりみっともないな。 む、と眉を寄せる俺の横で、 「それにしても、これくらい広ければアクションシーンにも堪えそうですね」 と感想を呟く古泉に俺は釘を刺す。 「他に人がいなければな。一般人を巻き込むとただでさえ酷いもんがもっと酷くなるぞ」 「それは経験ですか?」 「ああ」 何が痛いって、善良な一般市民に頭のおかしな高校生が来たと言わんばかりの目を向けられるのが痛い。 着替える場所もないってのに、朝比奈さんが木陰に連れ込まれて着替えさせられたのも、嫌な具合に忘れられん。 もしまたここで撮影するつもりなら、たとえ荷物が重くなろうとも簡易更衣室でも用意するべきだろうな。 「木陰に連れ込まれて、ですか。……ちなみに、覗きに行ったりは?」 するわけないだろ。 「そうでしょうね。あなたですから」 どことなく癇に障る言い回しだな。 「涼宮さんのことです。天然の更衣室だとでも仰ったんでしょうね」 当たりだ。 その勘のよさは賞賛に値するかもしれない。 「ありがとうございます。でも本当に、人目を遮ってくれそうですね」 などと言いながら古泉は、森の中へとふらふら歩いていく。 辺りはゆっくりとだが確実に薄暗くなってきていて、いくら整備されているとは言ってもそんな風に入り込むのは危ない。 「気をつけろよ」 声を掛けながら俺は古泉を追い、森の中に足を踏み入れた。 気をつけるべきは自分だったってのに、俺は本当にお人よしだ。 ほんの数メートル進んだだけで、広場の様子は見えなくなった。 つまりはこちらも見えてないんだろう。 日が暮れたことと木の影に入り込んだせいで、余計に寒さが堪える。 カレンダーは既に春を告げているが、体感気温や動植物の様子を見ても、春はまだ遠い。 「おい、そろそろ戻ろう」 俺が言うと古泉は足を止めた。 ゆっくりと振り向いた顔が、差し込む夕日に照らされて見えた。 赤いそれに一瞬ぞっとしたのは、それが血の色に似ていたからというよりも、閉鎖空間での古泉の姿を思い出したからだろう。 古泉が危険な目に遭わないだけでも、この世界を選んでよかったのだろうと思うくらいには、俺は古泉を好きでいるらしい。 「ちょっとここまで来てくださいますか?」 「なんだ?」 言いながら、のこのこと近づいてしまったのはそんなことを思ったからだろう。 あるいは、「元の古泉」を思い出しちまってたからだ。 「手を貸してください。片手ではなく、両方とも、ですよ」 と何故か一本の木を挟んで言った古泉に向かって、何の疑問もなしに手を出した挙句、 「ありがとうございます」 という言葉と共に、何故かガチャンと両手を拘束された。 「……って、おい!?」 「いやぁ、ここまでスムーズに行くとは思いませんでした。計画通り過ぎて怖いくらいですよ。涼宮さんから失われたという願望を実現する能力が僕に移譲されたとでも言うんでしょうか」 それはない。 だから安心して、さっさとこのやけに見覚えのある手錠を外せ。 というか、ハルヒの命令云々も嘘だったんだな、この詐欺師野郎。 「あなたって本当に拘束具が似合いますよね。特に金属との組み合わせが素敵です。今度綺麗な鎖を買ってきてあげますね」 要らん。 お前今度は何をやらかすつもりだ。 「さて、なんでしょうね?」 にっこりと古泉は微笑んだ。 その笑みを綺麗だなんて思う心のゆとりが俺にあるはずがない。 苦々しく思いながら、俺は古泉を睨んだ。 「まさかこのクソ寒いのにこんなところでコトに及ぶつもりじゃないだろうな」 「そのつもりですが何か?」 凍え死ぬぞ。 「あなたとならそれも素敵ですが、大丈夫ですよ。今日はさほど冷え込まないそうですし、ちゃんと対策もしてあります」 俺にコートを着せたのはそういうことだったのか。 「暖かいでしょう?」 だからと言って堪えられるか。 さっさと解放しろ、この変態。 「冷たいですね。コートだけで足りないのでしたら、オプションを追加してあげますよ」 そう言って古泉の手が学ランのポケットに消え、再び現れた時にはその指に何かを持っていた。 卑猥なピンク色をした物体に見覚えがあるのが嫌過ぎる。 リモコンから伸びたコードの先に繋がる、少し大きめの長球形の物体と、それよりは小さく作られている薄い円形の物体が、一体どう使われるのか知っているからこそ、余計に焦った。 「待て、古泉。それは流石に止めろ」 「どうしてです? 寒さと快感の両方に震えるあなたを見せてはくれないんですか?」 そんなもん見せたくなんかない! 「でも、両手が自由にならない今、抵抗なんてほとんど出来ませんよね?」 そういうことを笑顔で言うんじゃない。 俺は苛立ちつつ、 「蹴るくらいは出来るぞ」 「別に構いませんよ? ただし、そうしたら一晩くらいここで過ごすことは覚悟してくださいね」 この野郎、と小さく毒づくことさえ封じられた俺に、古泉は楽しげに喉を鳴らした。 「どうしてでしょうね。あなたならたとえどんなに醜悪な姿であったとしても愛せる自信がありますよ」 そんな保証は要らねえな。 「おや、そうですか?」 と古泉は笑い、 「では、少し想像してみてください。例えばあなたが何らかの事故によって顔に傷を負ったとします。見た人が誰しも顔を背けるような酷い傷です。それでも僕があなたを愛し続けると言ったら、それでも嬉しくはありませんか?」 「極論を持ち出すな」 と言うのが精一杯だったのは、古泉の手が俺の着ているコートも制服も寛げ、シャツの下に侵入してきたからだけじゃない。 言われたままを想像しちまったからだ。 古泉の言葉に嘘はないと思う。 だから、そうなったら多少は嬉しく感じるだろうし、俺は古泉に縋るだろう。 問題は、そうなった時、古泉は多分満面の笑みを浮かべてそれを言うんだろうってことだ。 『これであなたは僕だけのものですね。他の誰もあなたを見ない。本当に、僕だけのものだ』 とかなんとか言いながら、傷跡を消すことも許さずに、むしろその傷さえ愛するに違いない。 本当にこいつは、人間としてどうなんだろうな。 ため息を吐きかけたところで、 「ひぅっ…」 と喉が鳴った。 古泉の指がピアノの鍵盤でも叩くかのように強く、そのくせ踊るように、寒さで尖った胸の突起物を刺激したせいだ。 ローターを使って両方同時に震わされるだけで、体から力が抜けそうになった。 「声を聞きつけて誰かが来るかもしれませんから、声は上げないようにした方がいいですよ?」 「誰の、んぁっ…、せい、だと、思って…っ、いやがるんだ、てめぇは…!」 「はじめての頃と比べると、あなたも本当に感じやすくなりましたよね」 話を聞けよ、おい! 「聞けませんね」 言いながら、古泉はいつの間にか取り出していたらしい、ガーゼやなんかを止めるようなテープで、ローターを胸に固定しやがった。 それもご丁寧に、長球以外のふたつともを、だ。 残った大きめのそれを持った手が、俺の腰に触れる。 それも、 「こちらも、もう期待に震えてるんじゃありませんか?」 なんてことをいやらしい声音で囁きながら、だ。 俺は与えられる快感をやりすごそうと、自然、木に縋るような形になっていた。 つまりは腰を突き出していたわけだから、そこは無防備極まりない。 「やっ、古泉、本気で…っ、ここで、やるつもり、なのか…!?」 「冗談だとでも思ってたんですか?」 ベルトを緩めておいて、ズボンは下ろさず、わざわざズボンの後ろから手が侵入してきた。 ローターを持っていない方の手でいやらしく尻をまさぐる手つきはまるきり痴漢のそれだ。 痴漢に遭ったことはないが、古泉はおそらく「痴漢」という言葉の原義に相応しい変態だから問題はない。 「考え事をしてますね。そうやってなんとか理性を保とうとするあなたもいいですけど、僕はやっぱり、快楽に負けて腰を振るあなたの方が好きですよ」 言いながら、古泉の指が窄まりに触れる。 くすぐったいだけじゃないのが嫌だ。 動き続けていたローターでくすぐられただけで、勝手に腰が揺れた。 「っんあ…っ」 思わず声を上げた俺に、古泉は小さく笑って見せた。 「ほら、やっぱり好きなんでしょう? こんな誰に見られるか分からないような場所でも感じてしまうくらい、あなたは快感に弱いんですよ」 「うる、さい…っ」 誰がそうしたと思ってんだこいつは。 貶める言葉を全否定出来ないようにしたのも古泉自身だろうに。 濡らしてもいないローターを無理矢理押し入れられて、もたらされるのは間違いなく痛みだってのに、その後に痺れるような感覚まで与えられるのが悔しい。 「古泉…っ、頼む、から、あぁっ、……せめ、て、もっと弱くして…」 苦しさと熱に耐えかね、俺にとっては最大限の譲歩をして、そう懇願しても、古泉は笑うばかりだ。 「本当に、可愛い人ですね」 そう耳元で囁く声も、首筋に軽く落とされる唇も優しいのに、やってることは最悪だ。 「いいですよ。少し弱くしてあげます」 そう言ったくせに、いきなり震動が強められた。 「んんあぁっ…!」 びくびくと情けないほど体を震わせる俺に、古泉は楽しげに笑う。 「すみません、ちょっと間違えました」 「わざとの、くせに…っ」 震動が弱まり、やっとのことで古泉を睨みつけた俺に、古泉は言い訳のひとつもなしに言った。 「ところで、ひとつ困ったことがあるんです」 「…っは…?」 「実は手錠の鍵を家に忘れてきてしまいまして」 「……嘘吐け」 「本当ですよ? この通り、持ってません」 ひらひらと手をかざす古泉がムカつく。 「持ってないってのが本当だったとしても、忘れたんじゃなくてわざとおいてきたんだろ」 「さて、どうでしょう?」 そう笑って見せた古泉が、 「では、ちょっと取りに行ってきますね。すぐ戻りますから心配しないでください。大人しくしていたら多分見つかりませんから、頑張ってくださいね?」 「って、お前、本気で鍵持ってないのか!?」 唖然とした俺に、古泉は笑顔で頷いた。 「ええ」 嘘じゃないらしい。 俺は顔面いっぱいに嫌悪の表情を浮かべながら、 「……最低だな…」 「すみません。お詫びに、どうも余裕のようですから、強めにセットしておいてあげますね」 「なっ、ちょっと待て…っ! ひぁっ…!」 いきなり刺激を強められたせいで声を押し殺すことも出来なかったばかりか、そのままずるずると座り込む。 「いい子で待っててくださいね」 胡散臭いほど爽やかな笑みを残して、古泉はとっとと行っちまった。 それこそ止める間も余裕もない。 「…っは、……ぁんの、変態野郎…っ」 毒づいたところで仕方がない。 こうなったら古泉が戻るのを待つしかないんだからな。 誰かに見つかったらと考えるのも恐ろしい。 いざという時は古泉を犯罪者として通報してくれるよう頼もう。 出来もしないことを考えて気を紛らわそうとするのだが、ローターの振動は休みなく刺激を与え続ける。 だめだと思ってもどうしようもない。 寒さを感じるような神経すら、全部性感を通すために明け渡したかのようだ。 何かの拍子に上げそうになる声を殺すため、古泉の高そうなコートに遠慮の欠片もなく噛み付いてやった。 「んっ……ぐぅ…!」 と、それでもまだくぐもった声は漏れるが、まだマシだろう。 運がよければ途中で電池が切れるかどうかして震動が止まるかも知れないが、古泉のことだ。 どうせ新しい電池を入れて来たに違いない。 古泉が戻ってくるまでどれだけかかるんだ? ――往復2時間。 目の前が真っ暗になった気がした。 がさ、と音がしても振り返ることは出来なかった。 そんな音はさっきから何度もしていたし、その度にびくつくことにさえ疲れていた。 それよりも、この熱くなった体をどうにか鎮めて欲しい。 思考さえろくに巡らせることが出来なくなった頭のまま、俺は股間の昂ぶりを木の幹に擦り寄せ続けていた。 「素敵な姿ですね」 古泉の声に、やっと振り向く。 いつにもましてにやけた顔をしているんだろうに、夜の闇に紛れてほとんど見えなかった。 「古泉…っ」 「ふふ、よだれまで零して。そんなに僕が欲しかったですか?」 こくこくと必死で頷くと、優しく抱きしめられた。 その手がぐしょぐしょに濡れた股間へと伸びる。 「嬉しいですね。…ズボンをこんなに汚してるのに、まだ満足出来ないんですか?」 「お前が…っ、悪い、んだ…!」 愉悦に滲んだ涙で視界が歪む。 「ちゃんと、責任、とれっ!」 力なく震える声で訴えると、 「分かりました」 と笑いを帯びた声で言われた。 その手が手錠にかかり、それを外す。 「立った状態でしたいですか? それとも四つん這いで?」 「も、なんでもいいから…っ、早く、しろよ…!」 それくらい限界状態だと古泉にも分かったのか、そのまま地面に手と膝をつかされる。 屈辱を感じる以前に、これが一番体勢的に楽なんだと分かった。 「古泉…早く……」 熱に浮かされるまま、俺にしてはありえないほどストレートな誘い文句を吐くと、古泉が苦笑したのが分かった。 「困りましたね」 この期に及んで一体なんだ。 「いえ、ね。あなたに酷いことをしてしまうのは、不安だからだと前に言ったでしょう? それを訂正してしまいたくなってしまったので」 訂正だと? 「僕はね、」 言いながら、ローターが引き抜かれる。 「ひあぁ…っ!」 それだけで視界が明滅するのに、熱いモノを押し当てられると期待に腰が揺れた。 もはや言い訳のしようもない。 ことが終った後少しでも理性が残っていたら思いっきり頭を打ちつけてしまいたい気分だ。 みっともないなんてものじゃない。 それなのに、古泉はどこか嬉しそうに言ったのだ。 「嫉妬や、自分に自信がないからというだけでなく、あなたにこんなことをしてしまいそうですよ。繰り返し、何度も」 「な、んで…」 「あなたが、可愛いからです。辱められながらも感じて、いつもなら言ってくれないような言葉を言ってくれるあなたが、愛おしくて堪らないんですよ」 そう言いながら押し入ろうとした古泉に、 「ちょ、ちょっと待て、古泉」 と待ったをかける。 「どうかしましたか?」 意外そうな顔をした古泉へ向き直り、手を伸ばす。 「顔、見たい、から」 顔を赤くしながらそう言い、古泉を抱きしめると、優しくキスされた。 「愛してます」 「…俺も、愛してる」 こんなことをされても嫌いになれないどころか、たったあれだけの言葉だけで嬉しくてたまらないくらい、古泉が好きだ。 「こんな、淫乱な、俺でも…っ、本当にいいのか…?」 痛みのせいだかなんだか分からないが、涙をぼろぼろ零しながらそう聞いた俺に、古泉は笑って答えた。 「愚問ですね。どんなあなたであっても愛せると言ったでしょう? あなたは今の自分の姿が、僕の目にどんなに魅力的に映っているか分からないからそんなことを思うんでしょうね。今度、鏡の前で抱いてあげます。あなたにもそれがよく見えるように」 「…俺は、」 ぎゅうぎゅうと古泉の体を抱きしめながら、 「こんな俺は、好きじゃない。むしろ嫌いだ」 だからこそ古泉にこんな醜態をさらしたくないなんて思う、俺は本当にどうかしてる。 だが、俺がこんな風になるのも古泉だからで、古泉がそうするのはそうしたいからなんだろう。 古泉は小さく笑いながら俺の頭を撫で、 「じゃあ、全部僕にください」 「…は……?」 「あなたの、あなたが嫌いな部分を、僕に全部ください。あなたを全部くださいと望むことは、僕には高望みでしょうから、そこだけでも欲しいんです」 「……この、ばかっ」 思わず軽く古泉の胸を叩いたが、古泉は笑っただけだった。 「全部、やるって、ずっと前に言っただろ…!」 何でそんな風に変なところで逃げるんだ、お前は。 「すみません。……本当に、本気だったんですね。あれ」 あんなことを冗談で言えると思うのか? 「すみません。苦し紛れに仰っただけだと思っていました」 「……謝るくらいなら、態度で示せ」 俺は古泉の胸倉を掴んで引き寄せると、噛みつくようにキスしてやった。 「責任、取れよ」 というか、本当に何度言わせるつもりだ。 「僕で……本当に僕で、いいんですよね?」 「他に誰がいるって言うんだ、誰が」 悲観主義もほどほどにしろよ。 「……努力します」 「…俺も、……その、…もう…お前に遠慮なんか、しないからな」 覚悟しろよ。 「……はい?」 首を傾げるのは、分かっていてとぼけているのか、それとも本当に分かっていないのかどっちだ。 くそ、忌々しい。 何でこんな奴が好きなんだ俺は。 「分かったんなら責任を取れ、このど阿呆!」 怒鳴りながら、古泉の体へ足を絡めた。 「そんなに我慢出来なくなってたんですか?」 笑いを含んだ声で言いながら、古泉が自分自身を押し当てた。 それだけで、これからどうなるか予想したらしい体が、ふるりと勝手に震える。 「当たり前、だろ…っ、2時間も放置されたんだぞ…!」 「バスの時間が合わなかったので、実際はもう少しかかってますよ」 そんなもんはもうどうでもいい。 「いいから、早く、…お前が欲し……いっ、あ、あぁああああ――…っ!」 限界まで煽られていた身体が長いこと持つはずもなく、入れられただけだってのに、何度目とも知れない白濁を吐き出す。 「夢みたい、ですね。あなたに求められて、あなたに包み込まれてるなんて」 「今更、だろうが、ぁ…!」 吐精したせいで萎えた俺の熱を、もう一度高めようとでもするように、古泉は俺の弱いところばかりを刺激する。 身体を揺さぶられながら、今にも飛びそうな意識を留めておきたくて、必死で古泉に縋りついた。 「あ、んん…っ、もっと、欲し…ぃ、から、あぁ…!」 声を抑えることなんか出来るはずがない。 「声、響いてますよ。いいんですか?」 と困惑気味に言った古泉に、俺は開き直って答えた。 どう聞いても野郎の声なんだから、見たいと思うようなばかもいないだろ、と。 それさえ、嬌声交じりで聞き苦しいことこの上なかったが、古泉はそれを気にした様子もなく、 「見に来るかもしれませんよ。あなたの素敵な声に誘われて」 「そうしたら、んっ、見せびらかしてやれよ…」 「それもいいですね」 「それより、古泉…っ、もう、イく…から…!」 「いいですよ。イってください」 そう言った古泉が最奥を突き上げ、俺は一際大きな声を上げて意識を失った。 あの声が古泉以外の誰かの耳に届いていないことを切に願う。 手錠の鍵と共に俺の着替えまでちゃっかりと用意して来ていたらしい古泉に着替えさせられ、俺はふらふらと道を歩いていた。 手を引かれていなければまともに歩けもしないんじゃないだろうかというくらい、身体も頭もぼろぼろだ。 「すみません、無理をさせすぎましたね」 申し訳無さそうに言う古泉に、俺は笑いながら答えた。 「それも今更だな」 あまり嬉しいことでもないのだが、変態プレイで体力を異常に消耗させられることにも慣れ始めているのだ。 その証拠にこうして一応歩けてるだろ。 数ヶ月前の俺だったら、足腰も立たなくなってたに違いない。 それ以上に問題なのは、こうやって手を繋いで歩くってだけのことを、笑いたくなるくらい嬉しく感じている自分の精神状態だろう。 「……本当にあなたは」 と古泉は苦笑しながら俺に顔を近づけると、 「どれだけ寛大なんです?」 寛大なんじゃなくて、愛だろ、愛。 俺は笑いながらそう言って、古泉の間抜け面へ、触れるだけのキスをした。 |