第六話
「よう」 と、どこかで聞いたように思える声が響いた。 「はじめましてと言うべきかどうか分からんが、まあ別に言わなくてもいいだろう」 声の主の姿は見えない。 それどころか世界は真っ白に染まっているばかりで何も見えなかった。 「俺が何か、分かるか?」 俺は首を振った。 すると声が笑うような色を帯び、 「だろうな。……俺は、神様だ。そう言えば分かりやすいだろ?」 驚いて言葉もない俺に、その声は続ける。 「本来なら力を持つはずのなかったお前が、あんな力を持っちまったのも、それを妙な奴らに知られて利用されちまったのも、元を辿れば俺のせいだ。お前が形だけでも納得しているうちは俺にも介入出来なかったんだが、それでも謝らせてくれ。…遅くなって、すまなかった」 その声が一体何を言っているのか理解出来なくなりそうだった。 分かることといえば、それに悪気がなかったらしいという程度のことで、話にはついていけていないに等しい。 それを分かっているのか、声の主が苦笑するのが分かった。 「分からなくてもいい。とにかく、聞いてくれ。――お前には、選択肢がふたつある。ひとつは力を持ったままでいること。もうひとつは力を失うことだ」 俺は困惑した。 当然だろう。 そんなことを選べるなんて思いもしなかったんだからな。 声は、俺が選びやすいようにか、説明を付け加えた。 「今のまま力を持っていても、これまでよりはずっと自由になれるだろう。言ってみれば、自由に力を振るえるようになるみたいなものだからな。あの、――神歌、だったか? あれだって、本当は必要ない。お前が力を振るうのに必要なのは、ただ願うことだけであって、歌や儀式なんかは後付けのものでしかないんだからな。そうなれば、お前はまさしく俺と同じような神となることも出来るだろう。それが愉快かどうかは俺にはなんとも言えないが。逆に、」 と声は話し続ける。 「力を失って、ただの人間となるのも、自由になれる道だろうな。力を失ったお前なら今までのように束縛されることもないし、そうであれば、あの古泉くらい力があれば、お前のことは簡単に助けてくれるだろう。そうでなくても、歌を歌うという能力そのものに変化はないから、祭祀を行うただの巫女として生きるというのもありだ。身寄りのないことを不安に思うなら、ある程度アフターケアをしてやらんでもない。どちらを選んでもいいだろう。全てはお前次第だ」 そう言われた俺の頭を過ぎったのは、情けないようなことだった。 なんだってここしばらくの短い間で、俺はこんなにも選択を迫られねばならんのだ、という不満にも似た感情である。 これまでの俺は、与えられる範囲で不平を言い、あるいは交渉を重ねて、工夫をして、なんとかやってきた。 それがいきなり自由を与えられるとこうも困惑するものだとは思わなかった。 伸し掛かるような責任の重圧が重たい。 「仕方ないさ」 と声が笑った。 「それが生きるってことだ。生かされるってことじゃなくて、な」 笑いながら頭を撫でられるような感覚があった。 相変わらず姿は見えないのに、その感触が何故だか懐かしくて、心地よくて、泣きそうになる。 神様だというのを信じたくなるほど、その手の感覚は優しかった。 「さて、それで、お前はどうしたい?」 頭の上から手の感触がなくなると共に、改めてそう問われた。 俺は迷いもせずに言葉を口にした。 「ただの人になりたい」 「だよな」 と声は明るく笑いながら言った。 「選べるなら、俺だってそうするだろうな。神なんて面倒なもん、なんでやってんだって時々本気で思うこともあるし。いつか誰かに託して放り出してやろうとか色々画策してるんだが、ってそれはお前には関係ないな」 もう一度、頭をぽんと撫でられる。 「人として生きるってのも楽じゃないんだろうが、頑張れよ」 そうして霧が晴れるように現れた声の主の姿は……なんてこったい。 まじまじと見るまでもなく、俺とそっくりだった。 目を覚ますと自分の部屋の天井が見えた。 なんだかえらく長い夢をみていたような気がするんだが、実際はそんなに長くなかったような気もする。 我ながら時間の感覚が分からん。 よいしょ、とベッドから下りようとしたところで、長門がドアから顔をのぞかせた。 「もう起きたの?」 「残念だったな」 にっと笑って言ってやると、長門が苦笑した。 「悪い夢を見たりしたのでないなら別にいい」 声は相変わらず平坦だが、このところ日増に長門の表情が豊かになって行く気がしている。 そしてそれは俺の勘違いでも見間違いでもなく、確かな事実なのだろう。 ハルヒは無表情キャラという属性がなくなったのをいたく残念がっていたが、長年の読書の結果として視力が落ちてきた長門が眼鏡を掛けはじめたことでどうやら新たなる萌え属性を見出したらしい。 勝手にしろよ、と言ってやりたい気分だが、俺がそう言おうが言うまいがあいつは好き勝手に振舞うんだろう。 ハルヒと言えば、ここしばらくSOS団団長として騒いでいないと思っていたら、その間に自分の家で大騒動を巻き起こしていたらしい。 その内容が何かと言えば、顔も名前も知らない――とハルヒが思いこんでいる――許婚との婚約を解消すべく、散々に家中引っ掻き回してきた、ということだそうだが、俺は当事者ではない以上具体的な内容までは把握していないので、俺に説明を求めても無駄である。 結果として相手方から断りを入れられ、かつハルヒの両親もそれを受諾するくらいのことを仕出かしたということしか俺には分からない。 その件について朝比奈さんは困った顔をして教えてくれながらも、どこかほっとしたようでもあった。 こうして、ありがたいことに、俺の日々は順調に普通になっていく。 少しばかり伸びてきた髪を梳かしつけ、衣装を身につけた俺は朝のお勤めとして、上機嫌で境内の掃き掃除に向かった。 あの神様が一体何をどうしたのか、俺にはよく分からないのだが、俺が神社で巫女を務めているということも、半陰陽であるということも、最初からオープンになっていたかのような扱いを受けている。 そのくせ、俺が妙な力を持っていたということは、すっぱりとなかったことになっているようで、馬鹿でかかったはずの神社もやけに小規模化していた。 氏子の少なさに俺の養父母が頭を抱えているのを、なんとなく他人事のように見てしまうのは、やっぱり薄情だろうか。 ちなみに養父母は神官連中の中でも俺に同情的だった人とその奥さんだった。 もちろんこの記憶どころか情報そのものを操作されたような変化は、当事者たる俺と長門と古泉を除いて起こったため、俺たちは周りの急変っぷりに驚き、なんとか馴染むまでにはそれなりに時間がかかっている。 しかし、ここまで気を使われると、あの神様が一体どこまで把握してたのか気になる気もするが、ここはあえて、全てはあの神様なりの厚意のあらわれとして、有難く受け止めておくことにしよう。 部活でもやってるのかいつもながら朝が早い中学生が、日によって袴が緋色だったり浅葱色だったりする性別不詳の俺に困惑気味の顔をしながらも、 「おはようございまーす」 と礼儀正しく言って行くのへ、思わず微笑ましい気分になりながら、 「おはようございます」 と返すのも、以前なら絶対にあり得ないことだろう。 一緒に掃除をしていた長門が小声で、 「…おはよう」 と言っているのが彼に聞こえているかは分からないが、それでも長門がそんなことをするのが俺には嬉しいことだったりする。 境内の掃除を終え、極普通の一般住宅になっていた自分の家へ向かう。 そこへ、 「おはようございます」 と声を掛けられた。 勝手に顔が綻ぶのを感じながら振り返った俺の横を、長門が通り過ぎて行く。 気を遣ってくれるらしい。 「おはよう、古泉。今朝も早いな」 悪いが俺は朝食もまだだぞ。 一緒に登校するつもりなら、最低でももう三十分は待て。 「三十分でもそれ以上でも待ちますよ。…今日はどちらの制服を着るつもりですか?」 問われて俺は少し考え込み、 「どっちがいい?」 と聞き返した。 動きやすさでいったら男子用の方がいいのだが、可愛くて通気性もそこそこいい女子用も、暑いこの季節には捨てがたい。 これもまた神様なりの気遣いなのか、俺の体つきまでいくらか変化していた。 男寄りだった体がより中性的になったとでも言えば分かりやすいだろうか。 おかげでどちらの制服も着れるようになっちまったし、ご丁寧に両方とも用意されていた。 その辺りに、なんとなく釈然としない部分もあるのだが、長門や古泉が喜んでいるから、それでいいんだろうと目下、自己暗示を掛けているところだ。 長門に言わせると、体の変化も今後起こるはずだったものを前倒しした程度だということだし、これでよしとしよう。 そう言うとなんとなく分かるかも知れないが、ここで明言させてもらうと、長門の予知能力はなくならなかった。 ただ、その存在を知っていたはずのその他大勢がそれを忘れ、俺と長門と、長門に打ち明けられた古泉が知っているだけになっているだけだ。 それだけでも、随分と長門は楽になったらしい。 予知能力を持っていることを知られているというだけでも、長門には随分負担となっていたようだからな。 だから、このところ少しずつとはいえ長門が表情を見せたりするようになってきている理由の一つはそれではないかと俺は疑っているのだが、長門に言わせると、 「お姉さんが幸せそうだから」 とのことである。 全く、本当に優しくて可愛い妹だよ。 俺が思い返している間、俺に男女どちらの制服を勧めるべきかと、妙に真面目な顔で考え込んでいた古泉はにこりと笑って、 「今日は終業式ですし、最後の最後に涼宮さんからセクハラを受けるあなたを見るのも面白くありませんから、ブレザーの方がいいですね」 何が最後だか。 「明日からはお前の親戚のところで合宿なんだろ? 最後もへったくれもないじゃねえか」 「その合宿のことなんですけど、」 と古泉が困ったような表情を浮かべた顔を近づけてきた。 そうして小声で囁いたのは、 「あなたと僕の部屋を一緒にしてもらったのですが、別に問題はありませんよね?」 「っ!?」 ぼっと赤くなった俺の頬へ柔らかなものが触れる。 朝っぱらから何をやらかすつもりだこいつは! 「可愛いですね」 「殴るぞ」 古泉は降参、とでも言うように両手を挙げて、 「言ってみただけですよ」 それならさっきのふざけた発言も冗談なんだろう、と俺はため息を吐いたのだが、 「部屋については言うまでもないでしょう? 涼宮さんの許可も得ましたよ」 「何やってんだお前!!」 正気を疑う。 いくらなんでも浮かれすぎだろう。 「あなたは嬉しくないんですか? こうして堂々と、何の気兼ねもなく、付き合うことが出来るんですよ?」 わざわざ言葉を区切って強調するな。 それだって、もう半月ばかりも経ってるんだから、もうそろそろ落ち着いたっていいんじゃないのか? 「まだ半月も経ってないんですよ。大体、試験だなんだと忙しくしていたじゃありませんか。まともなデートだってまだなんですよ?」 それは俺の成績が散々だったせいもあるからなんとも言い難い。 しかし、その忙しかった約半月の間に古泉が何をしたかと言うと、本当にそれは半月の間の出来事なのかと小一時間ばかり問い質してやりたくなるようなことをいくつもやらかしているのだ。 俺がただの人間になることを選んだあの日、長門が言ったのは、 「世界が変わった」 という言葉だった。 その場で長門は、口数の少ない長門にしてはありえないほどの長文で、変化した現状を説明した。 長門は、半信半疑どころか四分の一も信じられずにいた俺を、奥歯に確かに仕込まれていたはずの発信機がなくなっていることや持ち物の変化などで納得させると、俺ではなく古泉に言った。 「あなたにも、やるべきことがあるはず」 短く曖昧な言葉はしかし、古泉にはしっかり通じたらしい。 「言われるまでもなく、きちんとするつもりでいます。すでに、いくつか手も打ってありましたからね」 真顔で言った古泉の行動は早かった。 それから一週間と経たない内に、登校拒否の報いのようにテストでいっぱいいっぱいの俺のところへ来て、言った言葉が、 「涼宮さんとの婚約関係を解消して来ました」 であり、テストが返って来るまでもなく散々な結果が目に見えていた俺にとっては、こいつテスト期間に何やってんだよ、という言葉さえ口にしようのないほど突然のものだった。 「……は?」 思わずそう聞き返した俺に、古泉は満足げな笑みで、 「後で、涼宮さんと朝比奈さんに、僕たちのことを報告して認めてもらいましょう」 「な、何言ってんだ、お前」 「団則に違反すると言われないといいのですが、きっと認めてもらえますよ。婚約破棄になって喜んでいるのは彼女も同じでしょうから」 「いや、だからなんでそんなことをせにゃならんのだ」 「嫌ですか?」 と悲しげな目で見つめてくるのは正直、卑怯だと思う。 弱々しく、同情を誘うような、だからこそ愛らしいとさえ思えるその姿に弱いことは、俺自身、重々承知している。 承知しているが……知っているからといって抗えるかと聞かれたなら答えはノーだ。 「…っ、好きにしろよ」 吐き捨てた俺に、 「ありがとうございます」 と言った古泉は輝くような笑顔で、さっきまでの表情をどこへやったのかと文句を言ってやりたくなった。 しかし、古泉が俺に発言を覆すようなことを許すはずがなく、俺はその日の内に、ハルヒに古泉と付き合うことを報告する破目になった。 俺が半陰陽であるということが周知の事実となっているからか、ハルヒの反応はいたって普通で、 「団の活動に支障を来たさなければいいわよ」 とあっさり許してくれた時には、感謝の言葉を言ってもいいと思ったのだが、その直後に、 「んでっ、この発展途上の胸はもう古泉くんに揉んでもらったの? うりゃうりゃうりゃ〜!」 とやけに楽しそうに胸を揉まれ、早々に謝辞を撤回することとなった。 朝比奈さんはいくらか残念そうにではあったものの、優しく祝福の言葉を掛けてくださった。 一応それでSOS団内における報告及び周知徹底他の活動は終ったのだが、それからも古泉の暴走は留まるところを知らず、俺の養父母に挨拶に来るわ、自分の両親相手に家を継がないと宣言するわ、ハルヒが乗移ったんじゃなかろうかと思うようなバイタリティーを発揮してくれたわけだ。 今回、俺の成績が酷かった要因の一つに数え上げてもいいくらい、俺は古泉に振り回された。 それでも、家督相続の放棄宣言までさせたことについては、罪悪感が拭いきれない。 確かに、俺のおかれている状況を考えると、俺か長門が婿を取り、この神社を継がねばならんのだろうが、まだ高校生だというのにそんな先のことまで考えて付き合うものか? 確かに、面倒事を背負い込ませてしまった形になってしまっている養父母に悪いからと、俺は神社を継ぐつもりでいる。 しかし、だからと言って古泉の将来を歪めてしまっていいのだろうか。 古泉の家はうちみたいな小規模になってしまった神社とは文字通り比べ物にならないほどの資産家で、古泉はその跡取りとして将来を目されていたのに、それをあっさりと捨てさせてしまっていいのだろうか。 俺と、いつまでいてくれるかも分からないのに。 それとも、古泉がそれほどまでに真剣に考えていてくれていることを素直に喜ぶべきなんだろうか。 「…なんでそこまで出来るんだよ」 申し訳なさと自分の無力さを痛感したこと、それからいくらかの羞恥から、ぶっきらぼうに言った俺に、古泉は笑って言った。 「あなたのことを愛しているからですよ」 んなもん、いつまで続くかさえ分からんだろ。 「そうですね。でも、続かせてみせますよ」 やけに自信満々に言った古泉は、それに、と付け足した。 「僕はずっと迷っていたんですよ。親の望むまま優等生の姿を演じ、親の望むまま涼宮さんと結婚し、親の望むままの人生を歩むことに。かといって、他にしたいことを見出せるわけでもなく、闇雲に反発することも出来ず、中途半端でいたんです」 それはどことなく、巫女として崇められていた頃の俺を思い出させた。 現状への不満を持っているのに、徹底的に反抗も出来ず、ほとんど流されるままに生きていた自分。 神官のジジィ共の言うままに祭祀を執り行い、祈祷をし、その結果支払われる異様なまでに高額な祈祷料を見て見ぬフリをした。 出来ないと諦め、あるいは、仕方ないと諦めていた。 古泉は自分に自信を持って生きているように見えていたのに、実際は俺とそう変わらない悩みや不安を抱えていたと知って、嬉しくなった。 あるいはその、どこか似たような境遇に惹かれたのかも知れないとも。 俺がそんなことを思っているとも知らずに、古泉は言った。 「そんな僕に、どんな風に生きていきたいという願望を持たせてくれたのが、あなたなんです。あなたと共に生きたいと、僕は心底そう思っているんですよ。――あなたが僕のためにその身を穢し、力を捨ててくれたのなら、僕は家を継ぐことを放棄するくらいすべきでしょう。いえ、本当なら家だって捨てるべきかも知れません。両親が、放棄することを認めてくれたのでそこまではしませんでしたが、あなたが望むなら、僕はすぐにだって家を出ますよ」 「…ばか」 毒づいた声はなんとも弱々しく、俺は火照ってきた顔を古泉の胸に押し付けて隠した。 「俺がそんなこと望むと思うのかよ」 「望んでくれないでしょうね」 そこは残念そうに言うところじゃないと思うぞ。 「あなたに出会い、あなたを好きになって、あなたと付き合いはじめるよりも前の僕はきっと、自分で自分の人生を生きていなかったんです。そうしようとさえ、していなかった」 だから、と言いながら古泉は俺の背中に腕を回した。 「僕の人生は、あの時始まったんです。僕の人生は、あなたのものですよ」 それを言うなら俺の人生だってそうなんだろう。 ああして、古泉を選び、力を捨てることを選んだ時から、始まったに違いない。 「古泉」 俺は滅多にこんなことは言わないから、ちゃんと聞いておけよ。 「なんでしょう?」 「……愛してる」 「ありがとうございます。僕も、あなたを愛してます」 顔を伏せたままの俺の頭を、古泉の手が撫でた。 「お姉さん?」 長門に不思議そうに声を掛けられ、俺はハッと現実に立ち返った。 うっかりと思い出の中をさ迷っていたらしい。 「顔が赤くなってますよ」 と意地悪く笑いながら言うのは当然古泉だ。 分かってるからわざわざ指摘するな。 高校への道を、俺の左を古泉が、右を長門が歩いている。 俺の存在も全て認められるように改変された世界は俺に優しすぎて、慣れない幸せに戸惑いさえ感じてしまうが、いずれその戸惑いもなくなるのだろう。 古泉と長門がいてくれるのなら。 この幸せに満足してしまえばいいのに、まだやりたいことがあると浮かれた頭が叫んでいる。 未だに食べたことがない肉や魚も食べてみたいし、料理や洗濯だってやってみたい。 出来れば家事くらい不自由なく出来るよう習得したいとも思う。 自分からそんなことを思えるようになるなんて、春先の俺は少しも思っていなかった。 全ては古泉と長門とハルヒと朝比奈さんと、……あの優しい神様のおかげだ。 甘いくらいに優し過ぎる神様に感謝しながら、その幸せを願った。 いつかあの神様の願いも叶うようにと。 |