エロです
体に伸し掛かる体重も、限界まで開かれた脚が訴える痛みも含めて気持ちよくて、俺は愛しい男の体に抱きつき、爪を立てる。 唇を噛み締めるようにして堅く口を閉じ、荒くて熱い息を鼻から吐き出す。 「っ……、ぅ…! ん……っ……!!」 漏れるのは少しの呻き声めいたものだけであり、それは嬌声とも呼べないものだった。 声を堪える理由は、何か複雑なものがあるからじゃない。 非常に単純な理由だ。 特に防音がしっかりしているとかいうわけでもない、普通の単身者用マンションの一室で、あられもない声を上げるなんてことはどんなに辛かろうとしたくないという、ただそれだけの話である。 古泉もそこのところは分かっていてくれて、困ったような残念がるような顔をしながらも、俺に声を出せと言ったり、喚きそうになるようなことをしてくることもない。 だからといって気持ちよくないとか物足りないなんてわけではなく、それはもう若い男が病みつきになってもしょうがないと思うような快楽だ。 俺は自分の絶頂が近いのを感じ、更にきつく古泉を抱き締めて、小さく唸った。 「…っ、も、う……!」 「ええ…、イってください……っ…」 そう言った古泉も限界が近いんだろう。 苦しそうに眉を寄せて、ぐちぐちと音がするほど俺の弱いところを攻め立て、えぐり、俺の唇を貪るように吸う。 「くっ…、ぅ……、っ、んん………っ!!」 色気も何もなく低い呻きと共に、俺は白いものを自分の腹の上に広げ、古泉が吐き出したものが自分の腹の中にたまるのをじわりと感じた。 「は――……」 長く深く息を吐き、緊張させっ放しになっていた体から力を抜くと、それ以上動くことが出来ないんじゃないかと思えるほどの疲労感に襲われる。 古泉が俺の中から出て行くのも、汗だらけの俺の体を拭ってくれるのも、どこか遠く感じられる。 あれこれと後始末をした古泉は、そっと俺の隣りに寝転がり、 「…大丈夫ですか?」 と声を掛けた。 「ん…疲れた……」 「お疲れ様です」 優しく笑って、俺の頭を撫でた古泉が、やんわりと俺の体を抱き寄せ、向かい合わせになるように転がらせる。 俺はされるがままになりながら、さりげなく古泉の胸に頭を寄せた。 こんなに疲れているのに、あんなに気持ちよかったのに、それでもなにかくすぶるものが体の中に残っているような気がした。 快楽を追うことに集中しきれないせいか、それとも快楽というのは形振り構わず求めることが出来ない者には、中途半端なものしか与えられないとでもいうのか、何か不完全燃焼めいたものが残る。 もう一度燃え上がるには少しばかり足りない熱が身の内でわだかまる。 それをどうしようもないまま、俺は目を閉じて眠った。 それが、いつものことだった。 声を出さないようにするというのは、最初は酷く困難に思えたものだが、慣れてしまうと大した労苦でもなく、習慣のようになれるものだった。 緊張した筋肉の訴える疲労をやわらげることの方がよっぽど大変に思えるほど、俺はそれに慣れてしまっているらしい。 かと言って、慣れているからとそれを忘れ、快楽を追い求めればどこで我を失うかも分からないため、そうすることも出来ず、結局は中途半端になる。 古泉も、俺がこんな調子じゃあまりよくないんだろうなと思い、なんとか手立てはないものかと考えていたある日、古泉はその手立てを思いついた。 しかしながらその手立てというものは、手放しで飛びつけるほどいいものではなかった。 よって、俺は強引にそこへ連れ込まれた日、思い切り古泉を睨みつけた。 「どういうつもりだ」 低く唸った俺に、古泉は困ったような苦笑を見せたものの、引くつもりはさらさらないようだった。 「どういうつもりも何も、ホテルで――こういうホテルで、することは決まっているように思いますが?」 「ああ、そりゃそうだろうな。だから、俺は何をするつもりかなんて聞いたつもりはない。どういう考えがあってこんな暴挙に出たのか聞いてるんだ」 「暴挙……とまで言われると心外ですね。恋人とホテルに行くことの何がおかしいでしょうか?」 おどけるように言った古泉が、少しばかりハイになっているのが分かった。 そういうところは年相応で可愛いと思わないでもないのだが、ここで甘くすると付け上がらせるだけなので俺はそれこそ少々オーバーにため息を吐いて見せる。 「わざわざホテルに来るってのが分からん。それに、何の相談もなしにいきなり、ってのはやっぱりマナー違反だと思わんか? レイプってのは夫婦間でも成立するっていうなら、これだって十分だろ」 「ではお聞きしますが、あなたは本当に嫌なんですか?」 こいつにしてはストレートにそう問い返され、俺は少なからずうろたえた。 それは勿論、本気で嫌だというつもりもない。 俺だって、こういう場所に興味くらいあったし、古泉となら文句のつけようもない。 ただ、デートとまでは言えないものの、一緒に外出して買い物でも、と誘われたはずだってのに待ち合わせ場所で落ち合うなり、真っ直ぐこんな場所に連れ込まれたことが面白くなかった。 何より、なんの相談もなしに、というのがよろしくない。 「そういう聞き方はずるいだろう」 俺がそう小さく返すと、古泉はにっこりと微笑んだ。 「すみません。…あなたにちゃんと説明せずに連れ込んだことについては謝ります。でも、思いついたら我慢出来なくなったんですよ」 「思いついたらって……」 「僕の部屋ですると、どうしてもあなたは声を殺さずにいられないでしょう? でも、それでは大変そうですし、何より僕はあなたの声を聞きたいのに、押し殺したものしか聞けないのでは物足りないものがあります。それをどうにかしたいとずっと考えていて、ようやく思いついたんですよ。こういう場所を利用すればいいだけじゃないか、と」 「は……?」 「マンションや何かと違って、ここは『そういうこと』をするためだけの施設です。防音だってしっかりしているでしょうし、そうでなかったとして、もしも声が漏れたとしても、悪いのはホテル側であって我々ではないということになるのではないでしょうか。だから、」 と古泉は悪戯っぽく目を光らせて、 「思い切り、やりませんか」 「…って、お前な……」 呆れ、驚き、それから恥かしくなって赤くなる俺に、古泉は相変わらずにこにこと愛想を振りまきながら、 「あなたの声を聞かせてください。それから、手加減なんてしないまま、あなたのことを愛したいという僕の希望を聞き届けてはくれませんか?」 と熱っぽく囁く。 さり気なく俺の手を握り締めた古泉の手は熱く、緊張してでもいるのか、しっとりと汗ばんでいた。 「…やっぱり……手加減してくれてたんだな」 ぽつりと呟くと、それをどういう風に解釈したのか、古泉は小さく苦笑を浮かべて、 「それは……まあ…、あなたを苦しくさせたくはありませんでしたからね」 と言う。 そんな風に言われると、こんなにも優しい恋人に熱心に請われたのに対して、これ以上文句を言うのも抗うのもおかしいような気がしてくる。 俺はそろりと古泉の手をほどき、自分から古泉を抱き締めると、 「……声なんて出したことないから、見っとも無いことになっても知らんぞ」 と憎まれ口を叩いて、了承の意を示したのだが、それにしたってそのまま押し倒されるとは思わなかった。 「ちょ…っ、待て! シャワーくらい浴びさせろ!」 「そうしたければ後でどうぞ。…ああ、そうですね、いっそ二人一緒にというのも楽しそうです」 浮ついた声で言いながら、古泉は既に俺の服を剥ぎ取りにかかっている。 少しばかり荒っぽい動作が、いつもとは違って思えて、少しばかりの恐怖と――これは自分でもどうしようもないと呆れる他ないのだが――同じくらいの興奮をもたらす。 「っ、こ、古泉…っ!」 「すみません、こんな場所に来たということもありますが、それ以上に、あなたを好きにしていいのかと思うと興奮して止まらないんです」 熱も欲も隠さない物言いにほだされる俺も相当いかれてる。 何より、俺だって興奮していた。 壁に埋め込まれたパネル状の照明や金属製のテーブルセットなど、どこかSFめいて見慣れない装飾のされた部屋は、おしゃれと言えないこともないのだが、それ以上に非日常感を強く演出し、それでもって理性を丸め込もうとしてくる。 ここまでくればそのまま流されていいのだろうが、それでも、と少しばかり足踏みする俺に、人の形をした獣みたいになった古泉は荒々しく口付けてくる。 器用に動く舌が俺の口の中を探り、なぞり、奥の奥まで犯そうとしてくることに背筋が震えるほど興奮していた。 「んぅ…っ、ぅ…」 「…声、聞かせてください…」 短く、どこか冷たく呟いて、古泉は俺の舌を吸う。 それでも、声はうまく出てこなかった。 ずっと堪えてきた報い、と言えるほど酷くもないのだろうが、それにしても不自由だ。 堪えるのも大変なくせして、いざ出してもよくなってもうまく出てこないなんて。 長いこと俺の口を貪り犯した古泉は、少しだけ困ったように目を細めつつ、そっと俺を解放した。 「いきなりは難しそうですね」 と知ったようなことを言いながら、俺の胸に手を触れさせた。 ひたと押し当てられた大きな手の平が、ゆったりと俺の体の上を這う。 暖かくて、少し湿ったそれがくすぐったく、そのくせなんだか気持ちいい。 「ん…っ……」 「鼻じゃなくて、口の方に息を逃がしてみませんか?」 「ぅ……」 出来るんだろうか、と思いながらその通りにしようとすると、古泉がつうっと俺の腹から胸へと撫で上げ、 「はぁ…っ……」 という吐息とも声ともつかないものが口から漏れた。 嬌声と言うにはあまりにも弱く、頼りないそれだというのに、どこか艶っぽくて、恥かしくなる。 それなのに古泉は嬉しそうに笑って、 「その調子ですよ。…もっといっぱい聞かせてください」 という言葉と共に、胸の二つの中心へとゆっくりと手を進めた。 指先が肌に触れるかどうか、という距離を保ちながら、くるくると円を描くようにして中心に近づいてくる。 じわじわと狭められ、嫌が応にも期待が高まるのに、古泉はなかなか触れてくれない。 「は…っ、こ…古泉……早く…」 「早く? なんでしょうか?」 意地が悪い、と睨みつけても、古泉は楽しそうに笑うばかりだ。 ある程度まで近づいた指がまた同じような軌道を描きながら離れそうになると、もう堪らなくなって、 「早く…、そこ、触って……」 かすれた声でねだっても、古泉はまだ満足してくれない。 「そこ、というのは? ここじゃだめなんですか?」 と中心からはまだ遠い場所をくすぐる。 「ふあ……、う、た、足りないから…! ちゃんと、こっち、触って…くれ……」 何かが脳に回ったようになりながら、自分の指でそこを指し示すと、古泉はまだ俺をいたぶろうというのか、 「触ってほしいなら、自分で触ったらいいじゃないですか。そのままつまんだらどうです?」 「ひ、ど……っ」 子供みたいな文句しか出てこない。 泣きそうに目が熱くなる。 それでも古泉は許してくれず、 「どうしてもというなら、少しだけ触って見せてください。そうしたら、してあげますから」 「うぅ……」 後で覚えてろ、と思いながらも、俺も普段ではありえないようなやりとりに興奮しているのは確かで、そのまま古泉の言いなりになるしかない。 指し示すために伸ばした指で、既に興奮して勃ち上がっている突起に触れると、それだけでずくりと腰が揺れた。 「……こ…これで、いいだろ…」 「そんな風に少し触れただけでいいんですか?」 意地悪な物言いを続けながら、古泉は片方だけ、その指で触れてくれる。 それでも、俺のしたように軽く触れるだけで、押し潰したり弾いたりもしてくれない。 なのに、古泉の指だというだけで、自分で触れるよりもずっと気持ちよく思えた。 「も、もっと…」 「どんな風に?」 「…こう……」 そう言って俺は自分の手で片方の乳首を弄ぶ。 指の腹でくすぐり、弾き、押し潰し、少し爪を立ててみたり、つまんで引っ張ってみたりという動きは、まるきり、古泉が普段してくれるそれを真似ているだけに過ぎない。 それなのに、自分でそうすること、それを追うように古泉が同じ動きで愛撫してくれることにどうしようもなく興奮して、普段以上に感じた。 「ひあ…っ、あっ……」 「声、出るようになってきましたね」 意地が悪いと言ってしまうには少しばかり甘過ぎる声で古泉は囁き、この時にはもう随分と快楽に酔い潰されていた俺は、 「声…、出したいから……っ、もっと、気持ちよくしろよ…!」 とあられもなくねだっていた。 古泉は嬉しそうに笑い、 「ええ、いくらでも」 と言いながら、じんじんと痺れたようになっている胸に口付けた。 「んあ…っ!」 ぬるりと舌が絡み、ちろちろと先端でいじられ、更にきつく吸い上げられると、腰が浮き上がるほど気持ちいい。 ほかの何もかもどうでもよくなるほど感じながら、それでもどこか頭の片隅には冷静さが残っていたのか、こんな風に乱れるのは初めてだと思っていた。 それさえ、興奮を煽る材料となり、飲み込まれていく。 気がつけば俺は自分で脚を抱えるようにして開き、 「早く、こっちもして…」 と泣きそうな声でねだっていた。 にやりとどこか卑しくいやらしく唇を歪めた古泉は頷いて、脚の間に顔を埋める。 「古泉…っ、早く……、俺の中、古泉ので、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜて、気持ちよくしてくれ…。気持ちよく、なりたい…」 はぁはぁと犬みたいに熱い息を口から吐き出しながら、いかれた言葉を並べ立てるほどに天井知らずの興奮が強まっていく。 古泉も同じなんだろう。 もう意地悪を言う余裕もなく、俺の中を貪り、指でほぐす作業に一生懸命だ。 「あぁ…っ、きもち、い…! けど、もっと…もっと……」 いつもなら体に力を入れている分だけ固いはずの場所が、今日は柔らかくなっているとでもいうのか、 「すぐにでも入れそうですね」 と古泉が生唾を飲むほどの状態になっているらしい。 「もっとよく知りたいのでしたら、今度は大きな鏡のある部屋でも探しましょうか」 軽口を叩くだけの余裕はあるらしい古泉を、少しばかり恨めしく睨みあげるが、文句を言うだけ無駄と言うことも分かっている。 それよりは煽ってやる方がいい。 「それもいい…が、今は……早く……」 そう言って殊更に脚を開き、腰を揺らすと、古泉はもう一度大きな音を立てて唾を飲んだ。 「……堪りませんね。本気のあなたがそんなに扇情的で情熱的だなんて、もっと早く知りたかった…」 独り言めいた呟きを聞いて、俺は少し笑ってやる。 「お前のせいだろ」 「……好きです」 ああもう会話にもならねえなと頭のどこかで笑いながら、俺は古泉を飲み込んだ。 気のせいか、いつもより大きく思える。 いつもより柔らかいというなら、むしろ逆に思えていいんじゃないかと思うのだが、それよりも古泉の興奮の方が強いということなんだろうか。 「ひあぁ…っ、あん……! た、まんね……!」 品のない声を上げて、古泉の体にすがりつけば、 「気持ちいいですか?」 と問われるが、言うまでもないだろそんなもん。 「い、イイにきまってる…! すげ…」 理性なんてもうどこにも残っていなかった。 気持ちよさだけが全てで、ほかの何もない。 「んあぁっ…! あっ、ご、ごりごりって擦れて…っ、ひぁっ! そこ、すっげ…イイ……」 感じるままを口にして、欲しいままを求める。 「もっと…っ、あっ、あっ、それ…! 入り口んとこ、ずぽずぽって、んんっ、気持ちいい……!」 古泉はそんな俺を軽蔑もしなければ、嫌がる様子もない。 「本当に…、本気のあなたときたら……」 「…好きだろ?」 にやっと笑ってやれば、熱っぽいキスを返された。 「あっ…、はぁっ! あっ! もう…! あぁあ……!」 もう、も何もそう呟いたのとほとんど同時に、俺は大量の精を勢いよく吐き出していた。 頭の中が一瞬真っ白になったほどの快楽に、本当にすっきりした。 やっぱり普段のあれは不完全燃焼だったんだなと思うほど。 そのくせ、疲れはいつもほどでない。 少しばかりの快い疲れはあるものの、このまま眠ってしまうなんて状態にはなかった。 だから、と俺はいつものように後始末をはじめようとした古泉に、小さな声で囁きかける。 「残り時間はどれくらいだ…?」 「え…?」 「ここの」 「…ああ、ええと、」 と時計か何かに目を走らせた古泉は、 「フリータイムプランを頼んだので、まだたっぷりありますよ」 「そりゃよかった」 俺は悪辣な笑みを浮かべて古泉をベッドに押し倒すと、自分からその上に伸し掛かった。 「えっ…!?」 これは流石に予想外だったんだろうか。 古泉が驚きに目をまんまるく見開く。 俺はその唇にキスを落として、 「もっと、するぞ」 今度は俺が上で、それから風呂にでも入って、休憩してもう一回くらいでどうだ、なんて出来るのかどうか分かってないまま提案すると、体の下で熱が持ち上がってくるのが見なくても分かる。 「お互い若くてよかったな?」 さっきまでのオカエシのように意地悪を言って、俺は古泉に跨った。 以来、俺たちが定期的にホテルを利用するようになったことは、それこそ言うまでもない話である。 |