エロです
触手です
古泉司令はマゾいです












































愛ってなんだ



その日僕が愛しい恋人――と言って差し支えないはずだ、多分…――を訪ねて、彼の職場であり住居でもある研究所に赴くと、
「ん、ああ、よく来たな」
と平然とした顔で彼に迎えられたのだけれど、その彼はと言うと恐ろしい状態になっていた。
全身緑色の粘液にまみれてぬちょぬちょで、その体には触手が絡み――と細かく描写するよりも分かりやすいと思うので、率直に言おう。
……彼は、触手に襲われているとしか思えない状態だった。
「な……」
絶句する僕が、それでも反射的に武器に手をやろうとしたのを見て取ったのだろう、
「ああこら、攻撃するなよ」
と落ち着きはらった声で彼が言う。
「ど、どうしたんですか!?」
「これも実験の一環なんだ」
そう言っている間にもどうやら植物らしい緑色の触手は彼の白衣の中に滑り込み、服の上からでも分かるほど大きなそれで彼の体を撫で回す。
「ん……っ、は……」
彼が小さく吐息を漏らしたが、触手に触れられて感じているのか、それは酷く悩ましく、艶かしかった。
思わず喉を鳴らしてその肢体に見入ってしまいそうになるけれど、
「実験、って、そんな……そのままじゃ、あなた、どういう目に……」
「どんな目にあうか、という予想は立ってる。が、実際そうなるかはやって見ないと分からんだろ。そのために、ふ…っ、ん、実験、するんだ…」
その頬にはほんのりと赤味が差し、瞳はとろりと潤んでいる。
綺麗だ、なんて場違いにも思ってしまった。
でも、
「…やめて、もらえませんか?」
「嫌だ」
即答だった。
泣きたくなるほど早かった。
「やめたら研究も進まんだろうが。それに、うまく行ったらこれでこいつの種を採取出来るかも知れんのだぞ」
「っ、な、それって……!」
今度こそ本気でうろたえる僕に、彼は平気そうに、
「このタイプの生物は雄しべと雌しべはあっても、受精させるための器官がないんだ。生育環境がここよりずっと厳しい場所だったらしいから、種を熟成させるだけのエネルギーも惜しいんだろう。そのために、おそらくは別種の、それも動物の類の中で受精させ、種を成熟させると考えられる。それを俺の体を使って実際にやらせてみようと思ってな」
予想通りといえば予想通りなのだけれど、あまりにも思い切った発言にうろたえ、
「それなら何もあなたの体を使わなくても、何か他の動物でも……」
と言い募っても、彼は理路整然と、
「ここにいる動物は皆貴重なものだし、かといって在来の生き物をこんな実験につき合わせるのは可哀相だろ。適合するかも分からんし。俺ならこれくらい平気だから構わん」
「ぼ…くが、僕が、平気じゃありません…っ!」
「あん?」
怪訝な顔で僕を見つめておいて、彼は目を瞬かせた。
何かを読み取ったのかも知れない。
僕さえ気付かないようなことを見透かしていても不思議でないところが彼にはある。
「僕が…嫌です……。だって、あなたは僕の恋人でしょう…?」
震える声でそう言ったのに、そのためには随分と勇気も振り絞らなければならなかったのに、
「…つまり、嫉妬してるのか?」
呆れた声で言われて胸が痛い。
「そう…です……。おこがましいかも、知れませんけど…」
「……ふむ、困ったな」
ぽつりと彼は呟いて、首を捻る。
「まさか人外の生物にも嫉妬するとは思わなかった。そもそもこれは浮気の内に入るのか?」
「う…浮気とは、少し違うかも知れませんけど、でも……僕は、嫌です…。好きな人が、たとえ触手にだろうと、その…そういうことをする、なんて……」
「…少しは嬉しいくせに」
呟いた彼の声が、少しばかり面白くなさそうに聞こえたのは気のせい、だろうか。
「大体お前はどうしたらいいんだ? おそらく一般的だろう恋人みたいにしようとしたところで、物足りなさそうな顔するし。でもって、こういうことしたら嬉しがってるのに口じゃ文句を言うとか、めんどくさい」
ぶつぶつと文句を言いながら、彼はするりと触手を撫でた。
それに反応してか、彼の体から触手が離れ、彼はすとんと床に足を着く。
そんなやりとりを見ると、ああ本当に同意の上での行為だったんだなぁなんて思えて、悲しくなるのに、どうしようもない僕はそれすら快感に変えてしまう。
彼もそんなところに呆れているんだろう。
不機嫌な顔をしながらも、彼は僕に近寄り、粘液で粘つく手の平をまだ汚れていなかった白衣の裾で拭ってから、僕の頬に触れてきた。
「…どうする?」
「え……」
「実験の中止はしたくない。こいつの種のサンプルもほしいし、情報を集められるなら集めたいからな。だが、お前が妬くっていうなら、俺もいくらか譲歩しようじゃないか」
「譲歩……ですか?」
「ああ。だから、好きに選べ。…ここで見てるかどうかってことと、先がいいか後がいいかってことを」
「……え」
驚く僕に、彼は気のせいか顔を赤らめて、
「妬くってことは、お前もしたいってことだろ…?」
なんて囁く。
それはあまりにも魅力的な誘い文句だ。
でも、
「…あなたは、それでいいんですか?」
「悪けりゃ言うか」
「どうしてです?」
「そりゃ、勿論、子孫も残せないのに擬似生殖行為をしたがる理由が知りたいってのもあるが、」
研究熱心な彼らしいことを呟かれ、がくりと脱力しそうになる僕の耳に、
「俺だって、お前が嫌いなわけじゃない」
という信じがたい言葉が届いて、これまでで一番驚いた。
「え…!?」
「というか、多分、割と好きだぞ」
「そ、う…なんですか…!?」
「…嫌いだったら、そもそも付き合わんだろ。それに、人から好意を向けられて嫌だと思うほどには、俺も歪んでないんだ」
照れ臭そうにしながらもそう言ってくれた彼を、僕は思わず抱き締めた。
「ちょっ…! 服が汚れるぞ!?」
「構いません」
きっぱりと返して、僕は更に強く彼を抱き締める。
「好きです。あなたが好きです。…愛してます」
「…そうかい」
諦めるように呟いた彼は、
「したいか?」
と小さく囁く。
「したい、です…」
「だが俺は、どうしたらお前が喜ぶのかなんて分からんぞ。俺に嗜虐趣味はないからな」
「構いません。僕はあなたが好きなんです。そういうことをしたいから、あなたとお付き合いをしたいなんて言い出したんじゃありません」
「…じゃあ、俺が、実は初めてじゃないって言ったら、どうする?」
ぎょっとするような一言だったけれど、驚いたりうろたえたりするわけにはいかなかった。
彼の声がらしくもなく不安げに揺れていたからだ。
僕は努めて笑みなど作りながら、
「気にしません。…ああいえ、気にはなりますけどね、支障はありませんよ」
「…そうか」
小さく笑った彼が僕の首に腕を絡め、僕を引き寄せる。
誘われるまま重ねた唇は、なんだか不自然に甘かった。
「…あの……何か甘いものでも食べたんですか?」
「ああ、あいつの粘液」
あっさりと言われ、脱力する。
「大丈夫なんですよね、あなたのことですから…」
「別に人体に害はない。ただちょっと、催淫効果と精力増強効果があるくらいで」
「はぁ!?」
ああもう、今日は驚かされてばかりだ。
でも、言われてみれば彼の体は熱くて、瞳もぼんやりしている。
「だから……しようじゃないか」
そう言った彼は僕の体を引き寄せるようにしてそのまま倒れこむ。
倒れこんだ先はといえば、先ほどのあの触手の上だ。
ベッドのように柔らかく抱きとめられたのはいいけれど、
「ここで、いいんですか?」
「…移動する間も惜しいだろ」
言いながらぷちぷちとボタンを外し、肌を露わにする。
普段から色白だと思っていたけれど、服の下に隠されている部分はさらに白くて滑らかだ。
そこに緑色の粘液がかかり、余計に淫靡に見える。
ごくりと喉を鳴らしながら、その肌に口付ける。
「…痕をつけてもいいですか?」
恐る恐る尋ねれば、
「……お前は恋人相手にわざわざそういうことを聞くわけか?」
と呆れた声で返された。
素直じゃない肯定、というところだろうか。
僕は小さく笑って、そのまま彼の白い肌に赤く痕をつける。
僕のだという印。
征服欲なんてものが自分にあったとは思わなかった。
本当にこの人は、僕でさえ知らなかったことばかり教えてくれる。
「…好きです」
囁いて、抱き締めて、肩に口付ける。
「ん……」
彼の服を剥ぎ取って、背中をそろりと撫でると、彼の体が小さく震える。
可愛い、と呟きながら彼に触れる。
柔らかくて細くて頼りない。
あの人とはあまりにも違う、でも、愛おしい人の体。
それを味わうべく、ゆっくりと手を這わせると、
「は…っ、ぁ、ん……もどかしい…」
と切なげに呟かれた。
「…そんなに、ですか?」
「ああ…。やっぱり催淫効果ってのは結構来るな……」
「…あなたは元が淡白だから余計に効くんじゃありませんか?」
苦笑しながらそう言えば、
「……かもな」
と同意した彼が緩く脚を開き、僕の体を挟み込む。
熱いものが当るのは気のせいじゃないだろう。
「…なあ……古泉……」
「…堪りませんね」
呟いて、僕は彼のズボンをくつろげに掛かる。
硬くなったそれは、空気に触れてすら震え、雫を溢れさせていた。
それを軽く握り込み、ゆっくりとしごくと、
「ふあ…っ、あ…!」
と甘い声がする。
「気持ちいい…ですか?」
「んっ……てか、お前……うまいんだな……」
「……ええと…ありがとうございます?」
「…誰で覚えた?」
なんて聞いてくれるのは、
「…妬いてるんですか?」
「いや? ただの興味」
…ですよね。
僕は吐き出しそうになったため息を辛うじて飲み込み、彼の耳元で囁くように、
「…別の世界のあなたが色々と仕込んでくださったんですよ」
「なるほど。道理で……俺の好みな訳だ…」
「……好み、ですか」
「ん…っ、そこ……気持ちいい…」
湿った声でそんなことを言われて、めまいさえしそうになった。
「あなたって……」
「んん…?」
とろりとした瞳に映る僕はぼやけていてよく見えない。
けれど間違いなく、欲情しきった動物より手に負えない顔をしているのだろう。
「……堪りませんね…」
独り言のように呟いて、彼の服を脱がせにかかる。
「あっ…ん、や……布…擦れるだけで……だめ…」
うわ言みたいに呟かれる言葉に煽られる。
可愛くて愛しくていやらしくてこのまま無茶苦茶に抱いてしまいたくさえなる。
けれど、染み付いた習慣とでも言うのか、そんなことは出来ない。
あくまでも奉仕に徹してしまいたいと思ってしまう。
彼の脚を開かせて、震える熱を口に含むと、
「ひあっ…ぁ、んっ……」
と濡れた声が耳を震わせ、抵抗するように彼の手が僕の頭に触れ、髪を掴んでくる。
それでも、命令などはないから、とそのまま続行することにした。
口の中いっぱいに頬張って、唇でしごき上げながら音がするほど吸い上げると、
「ふあぁ…っ、や、あぁ…!」
と彼が暴れる。
でもそれも、気持ちいいからだと分かる反応で、僕としては嬉しくてならない。
「…もっと……いいですよね…?」
問いかけとも言えない調子で聞きながら、幹を横からくわえ、そのまま根元まで舐り下ろす。
興奮しているのか、張り詰めた双珠をやんわりと揉むと、彼がびくりと体を震わせる。
「ひっ…ん、う……っふ……」
「…可愛い」
呟きながら、それすら口に含んで舌でその感触を味わう。
「やっ…だ、っめ、やめ……っ!」
泣きそうな声で訴えるのが聞こえると思ったら、彼はうめくような声を上げて白いものを吐き出した。
それが顔にも頭にもかかって、僕を汚す。
「…っ、わる……いって…言わなくていいみたいだな」
呆れたように言われてさえぞくりとする変態ですからね、僕は。
「すみません」
「いや…まあ、面白がってるから構わん…」
そう言いながら、彼の目はまだどこか熱っぽい。
「足りません…?」
「…ん、足りないな」
にやりと笑った彼はそっと脚を開き、僕を誘う。
「お前も…だろ?」
「ええ」
彼が一撫ですると、それだけで十分だとばかりに、緑色をした触手が動き、彼の脚の上を滑って粘液を滴らせる。
「ぁ……ん、これで…やりやすいだろ…?」
と囁く彼の声も淫靡に響き、僕はずくりと熱が疼くのを感じた。
粘る液体を指に絡め、彼の小さくて慎ましやかな窄まりに触れると、そこは熱く、かすかに震えていた。
「…ここで、したことあるんですか?」
そう尋ねると、彼はこくりと頷いた。
「……そんなことをしても無駄だとは思うんですけど、ね…」
妬けます、と呟いた僕に、彼は苦笑した。
「本当にお前は面白いな」
とても褒め言葉には聞こえないし、睦言にしたって甘さがないのだけれど、彼にしてみれば賛辞なんだろう。
楽しげに笑う彼の余裕が悔しくて、僕は狭隘な場所に指をつきたてた。
「んく…っ……」
彼はそう呻き声を上げたのに、彼の中はというととても熱くて柔らかく、僕の指を包み込んだ。
「…もっとしてそうですね」
「あ、たりまえだろ…っ、中途半端は、許さん…っ、ひ、あんっ…!」
中を探るべく、大きく指を動かすだけでも感じるのか、彼の喉が震え、体が跳ねる。
いやらしい眺めだ、と思いながら、少しばかり思うところあって指を動かすと、
「ひゃっ、あっ…ふ……」
と彼の声が一層甘味を増す。
「…ああ、やっぱり感じるところは同じなんですね」
「なん…っ!? やぁ、ぁあっ、あぁん…」
あの人と同じ体なのか、と思っても、あの人を懐かしむような気持ちはあまり湧いてこなかった。
それ以上に、目の前のこの人が愛しくて、この人を喜ばせられることが嬉しくてならない。
「…好きです」
囁きながら、僕は彼の弱いところを擦り上げる。
「ひ、あ…っ、ん、やだ…ぁ…」
やだ、と言っているけれど、感じているからだと分かるほど、彼の体は上気し、震えている。
「もっとしてあげたいのに…手が足りませんね」
そんなことを呟いた時、横からしゅるりと伸びてきた触手が彼の体を撫でた。
「ひゃ…っ、こ、こらっ…! お前は後だって…」
と抗う彼にも構わず、赤く色付いた彼の胸を撫で、突起に絡む。
「あっ、あ…や……! ひぁぅ…!」
きつく絡みつかれて、彼は甘い声を上げる。
僕は一瞬どういうことかと考えたものの、すぐに小さく笑えた。
「なるほど、一緒に…ということですね」
「なっ、ちょ、古泉! これ、止め……! やあぁ…!」
彼が言葉を途切れさせたのは、僕が彼の前立腺を強く押し上げたせいだった。
彼の中も前もとろとろにとろけ、彼は荒い呼吸を繰り返す。
「…も、や……っ、無理…ぃ……」
「無理…なら、やめておきますか…?」
出来もしないことを言う、と自分に笑う僕に気付いていないのか、彼は髪が乱れるほど頭を振って、
「やぁ…! さ、いごまで…してくれ……っ…」
とねだる。
そうなった理由の半分、いや、大半が触手の出す粘液によっておかしくなっているからということだとしても構わないと思えるほど、彼は艶かしく、しかも可愛らしかった。
ごくりと喉を鳴らしながら、ねだられ、求められるまま、自分の熱をとろけた場所に押し当てると、
「ふあ……っ、あ、早く…ぅ…」
と求められる。
「…あなたが好きです」
そう囁いた理由は分からない。
快楽に溺れきっている彼に、そうさせているのは僕だと主張したのかったかもしれないし、ただそう言いたいだけだったのかもしれない。
分からないけれど、嘘でもごまかしでもまやかしでもない。
本当に僕はこの人のことが、この人こそが好きだ。
ゆっくりと押し入れば、彼はやはり柔らかく僕を迎え入れてくれる。
熱く蠢くそこは僕を迎え入れ、そのまま縊ろうとでもするかのように締まる。
「く…っ、ぅ……」
呻きながらもいささか強引に揺すれば、
「ひあぁ…あっ…ら、め…っ……」
小さく、しかし確実に感じていると分かる声をあげてくれるのが嬉しい。
「あなたの弱いところ…ここ、ですよね」
ぐいとそこを狙って擦れば、
「いあっ…あぁ…っ!」
と余計に声が上がり、やり過ごそうとするかのように僕にすがりついてくる。
「初めてじゃないんでしょう?」
「で、も…っ、こんな…熱……ひ、ぃい…」
「熱い?」
「んっ…」
こくこくと頷きながら、彼は僕の首に腕を絡め、きつく抱き付いてくる。
その上で熱っぽく囁いた言葉は、
「……人間、は、初めて…だ……」
というものだった。
それはつまり、
「…ええと……こういう触手としたことはあるけれど、ということ…でしょうか……?」
返事はこくこくと切羽詰った頷きと、手足を絡めてのきつい抱擁だった。
「…それも数に入れるところが、あなたらしいですよ」
思わず声を立てて笑えば、
「わら、うな…っ」
と睨まれる。
「すみません、可愛くて、つい……」
キスをして、もっと深く繋がろうとした時、なにやら不穏な気配が無防備な場所に触れてきた。
「……え」
緑色にうねる細いそれは間違いなく触手だ。
それが何に絡み付いているかといえば、彼の中に半ば埋まった僕のそれで……。
「…っ、ちょ……」
「ん? どうし…っ、や、あぁ…!!」
と彼が声を上げたのも無理はない。
細いそれとはいえ何本もが群がるようにして彼の狭い場所へと押し寄せる。
それも既に、僕のものが入っているのに、だ。
「…ば、っか…! 我慢しろっつったろ……」
と彼が罵るが、触手は聞いていないらしい。
僕のものまできつく縛り上げ、息が詰まる。
「これも一緒に…ということですかね」
「ふぁ? あっ、ん、ばか…! 動くなぁ……!」
「このままだと辛いでしょう? 僕も、あなたも……こちらも」
同意するように触手が動き、彼の体を撫で回す。
「ひっ、や…! も、変に、なるから……っ!」
「ふふ、こちらも悪くはないですね」
そう笑った僕に、彼は疑うような眼差しを向ける。
「だって、ちゃんと譲ってくれるところは譲ってくれるようですよ?」
「は……?」
「僕とあなたが恋人同士だって、分かってくれてるみたいじゃないですか?」
「…そう……か?」
首を傾げる彼は気付いていないのか。
「ほら…」
言いながら深くまで押し入り、体を密着させる。
「いあぁ…っ」
そう啼いた唇に自分のそれを重ね、
「唇は、僕のために空けておいてくれたようです」
「……あ…」
なるほどと納得したように呟いておいて、彼は恥かしそうに顔を赤く染め、
「…つうか、お前は…こんなんで、いいのか……?」
「はい?」
「……初めて、なのに…」
「…悪いなら、さっさと抵抗してますよ」
言いながら、もう一度彼に口付ける。
「好きです」
「……こういうプレイが?」
と問われて思わず吹き出した。
「笑うな…っ、て、か、揺らすな…! 震動がこっちにも来て、つらいだろ…っ」
「笑わせたのはあなたでしょうに。……あなたのことが、好きですよ」
繰り返し何度も言って、何度も口付けて、それだけなら随分とロマンチックで恥かしいくらいなのに、お互い触手に絡まれていてはロマンも何もあったものじゃない。
僕らはいつの間にか、触手に負けないほど手足を絡めて、どろどろに融け合うだけとなった。

シャワーを浴びて、ようやく人心地がついたとほっとしながら事務室兼彼の私室と化している部屋に入ると、彼は熱心に端末を叩いていた。
「何をしてらっしゃるんですか?」
「レポートをまとめてる。とりあえずメモ程度だけどな。さっきのデータの入力くらいはしとかなきゃまずいから」
「……本当にあなたは研究熱心ですね」
いくらか皮肉っぽく言った僕にも、彼はつれなく、
「ありがとよ」
と返すだけだ。
少し前までの甘さなんてまるで夢幻の如く消えうせてしまっている。
でも、別にそれは本当になくなったわけではなくて、隠れているだけなんだと、今なら分かる。
僕はそろりと彼に近づくと、彼の背後からそっと彼を抱き締めた。
「……なんだ?」
訝しげな声。
冷たい視線。
でも、
「心臓はこんなに早く打ってるんですね」
「…仕事の邪魔すんな」
「好きです」
「…っ、古泉!」
怒鳴ったとしか思えない声だし、眉もつりあがっていて怒っているように見える。
でも、
「その頬が赤いのは怒っているからじゃないんですよね」
そう指摘しながらも、つい顔が緩んでしまう。
彼は悔しげに、
「……ち、くしょ……。大失態だ。大失敗だ」
出来損ないの言葉遊びのようなことを呟いて、頭を抱えたけれど、
「真っ赤な耳が見えてますよ?」
「うるさい!」
「今日は最高の日ですね」
「俺にとっては最悪だ」
そう毒づかれても、そんな風にストレートに感情表現をされる方が嬉しくて、やっぱり僕は馬鹿の一つ覚えみたいに、
「愛してます」
なんて言ってしまうのだ。