古キョンかくったーの言う通りに書いたので
割とカオスなパラレルですよ!
それでいいならどうぞです!
そしていきなり始まっていきなり終るのでそこにも注意(ちょ
ゆき斗さんとリレーして書きました
ゆき斗さんありがとですー
学校帰り。 僕も彼もまだ学ランを着たまま、窮屈な詰襟を何とか緩めようとしながら、町を歩いていた。 「どこに行くんだ?」 と首を傾げる彼に、僕は薄く笑って、 「この先に廃工場がありますよね。知ってますか?」 「ああ、心霊スポットで有名なところだろ。ガキの時分から出入りしてるが、一度も超常現象らしきものにお目にかかったことはないがな」 「流石、超常現象研究部部長ですね」 「俺とお前しかいない部活で部長っつってもしょうがないだろ、副部長」 むくれる彼を連れて、僕はその廃工場に入り込む。 その間も僕は学帽をきつく被ったまま、外さない。 狭い穴をくぐって塀の中に入る時にもそうしていても、彼は怪訝な顔はしなかった。 僕が授業中もずっと帽子を被ったままでいることをよく知っているのは彼だからだろう。 それを嬉しく思いながらも、今日でそんな信頼めいたつながりもなくなるかも知れないと思うと、不安が込み上げてきた。 それでも、言いたいことがあった。 僕は彼を工場の奥にある実験室に連れて行った。 何をしていたのか思い出すのもおぞましいその部屋は、それでもただの部屋にしか見えないだろう。 今となってはがらんどうの、ただの空洞でしかない。 「こんな所にまで入れたのか」 独り言を呟く彼に、僕はようやく向き直った。 「…あなたに、見ていただきたいものがあるんです」 彼がこちらを向いたのを確認して、僕は帽子を脱いだ。 現れるのは、髪と同じ色をした、けれど異質なものだ。 三角形をした、大きな犬の耳なんて。 「お前…それ…」 驚きを隠せないまま彼は僕を見た。 今の今まで見せたことなどなかったのだから仕方がない。 学帽で常に隠され、事実を知るものは…きっともうこの世にいない。 「ねぇ、あなたも僕を…疎い蔑み、嫌いますか?」 不安なままそう口走った僕に、 「んな訳あるか」 強い否定の言葉を口にしながらも、その声は震えていた。 恐怖にだろうか。 それともただ驚いているだけ? 分からない。 分からないけれど、酷く苦しくなった。 「見苦しいものをお見せしてすみません」 そう返して僕はもう一度帽子を深く被り直した。 ああ、やはり…。 きっとそんな返事が返って来るのだと思っていたけれど、心が痛い。 被りなおした帽子の鍔をきつく掴み、震える声も気にしなかった。 「今のは…忘れて下さい、あなたは器用な人だ。それくらい出来ますよね」 目元が熱い。 「僕はもうあなたの前には…」 そう言おうとした僕の帽子を彼が強引に剥ぎ取った。 「なっ…!?」 「本物なのか? 本物なんだな!」 歓声らしきものを上げて彼は僕の頭を撫で回す。 「あ、あの…っ!?」 「すっげ…」 興奮に満ちた声で彼は呟いた。 驚きに震える僕を見て、スマンと彼は言った。 「いいか、古泉」 いまだに僕の頭を撫でながら、 「お前はいつも勝手に話を進めすぎだ。それも悪い方に」 少し乱暴とも思える手つきは優しく、僕の耳や髪の手触りを確かめるようなものへと変わった。 「俺がいつお前を疎んだ? 蔑んだ?」 「で、でも…っ……」 「そんなことしてないだろ」 「しかし…っ……、気味が悪い…でしょう……?」 情けない声で尋ねた僕に、彼は優しく微笑した。 それこそ、これまで見たことがないほどの柔らかさであり優しさであり笑顔だった。 「確かに不思議ではあるが悪くない。むしろ……」 「むしろ、…くく…」 「な、何故笑うんですか…!」 僕を見る目も優しく、暖かいものに見えた。 今までに感じたことがないくらい暖かく、心地良かった。 「いいか古泉、俺にしたら可愛いだけだ」 「…え?」 頭を撫でていた手が頬に添えられ、彼のその瞳に僕は囚われた。 次第に頬が熱くなる。 「え、あ、あの……っ!?」 「で、わざわざ俺をこんな面白い場所に連れ込んで言うことはそれなのか?」 「え……」 肩透かしを食らわすような言葉に戸惑う僕へ、彼は悪戯っぽく告げる。 「お前の用がそれで終りなら、それはそれで別に構わんが…」 話し続けながらも、彼はその滑らかな手の平で僕の頬や耳、それから首筋を撫でくすぐる。 「お、終わりと言えば…そうな、ひゃっ」 びくりと身体を震わせ、思って見もない声が出た。 手で口を塞げば、ニヤリと彼は口元を歪めた。 「お前のことだ、確実にまだ何かあるだろ」 「う、そ…その、まずはこの手を…!」 「イヤだね」 触られるのは気持ちいいが、話の前にどうにかなりそうだ。 「どこまで犬なんだ? 耳のあたりだけか? それとも…こう触られると弱かったりするのか?」 「え、そ、その……」 彼は学術的興味か何かから聞いているんだろうと思って正直に返す。 「くすぐったくて…気持ちいいです…けど…もう…っ…」 「なるほどな。それで、話の続きは?」 「だ、から…手を!」 「仕方がない…今だけだぞ」 「…ありがとうございます」 なんで僕が…と思わなくはないけれど、ひとまずは開放して貰えた。 「ええと…どこから話せばいいのでしょうか」 「思いついたのからでいいだろ」 「そうなんですけど…何分、昔すぎまして」 「…まて、お前何歳だ」 「覚えてませんけど……多分、あなたよりは年上ですよ」 自嘲する僕に、彼は難しい顔で、 「犬なのが耳だけじゃないなら、寿命も犬並だったりしないだろうな? そんなのは嫌だぞ」 とどこか傲然と、でも優しいことを言ってくれる。 「それは分かりませんけど、」 「だから話すってか?」 「いえ、そうではないんです。アナタだから、知って欲しかった。それだけです」 ぐるりと室内を見渡し、小さく溜息を吐いた。 名前もなく、検体番号で呼ばれていたあの頃が脳裏を過ぎる。 「僕も元はこのような耳などありませんでした」 「だろうな」 「合成獣と言うのを知ってますか?」 「ああ、分かる」 「僕はそういうものに作り変えられたんです」 「…そうか」 唸るような低さで呟いた彼が、優しく僕の頭を撫でてくれる。 「…でも僕に……普通の子供時代も少年時代もなかったんです。あなたと一緒に過ごせるようになって初めて知ったことが数え切れないほどあります」 僕は途切れそうになる声を無理矢理絞り出して、 「今まで隠していてすみませんでした」 彼の優しさに張り続けた糸が切れたのか涙が頬を伝った。 「不完全な僕は捨てられ、隠れるように生きてきました」 涙に少し声が震える。 彼の指がそのたびにそっと涙を拭った。 「あなたは覚えているか解りませんが、ずっと昔に1度だけ出逢ってるんです」 「覚えてる。…だが、夢だと思ってた……」 そう呟いた彼が、もう一度僕の頬を撫で、 「俺が超常現象だなんだのを夢幻だと捨てきれなくなった原因だ」 と笑う。 「それは…すみません」 「謝る必要はないだろ。実際、こうして不思議なことは実在したんだからな」 言いながら彼は僕を優しく撫でてくれる。 「でなければこうして再会して、また触れられていない」 あの時も彼は驚きはしたものの、僕を異形だとも変だとも言わなかった。 それまでは忌み嫌われ、姿を見るだけで追われていた僕にとって、それがどんなに嬉しいことだったかは言わなくても分かってもらえるだろう。 「あの時以来、あなたが忘れられませんでした。あれからずっと、僕の心の支えだったんです」 「あれは、夢じゃなかったんだな…そう、か」 彼は僕を抱き締めて、そっと囁く。 「…だが、またいなくなったりしないだろうな…?」 「え…?」 「正体を明かしたからいなくなる、ってのは異種婚姻譚なんかじゃセオリーだろうが」 それはそうかもしれないけれど、わざわざ「婚姻」なんて言葉が出てくる例を選ばなくてもいいのに。 余計なことを想像して赤くなりそうになる僕を睨み上げ、彼は言う。 「いなくなったら恨むぞ、いや、俺を甘く見るなよ」 「え…?」 「今更俺がお前を手放すとでも思ってんのか?」 何か悪巧みをするのではないかと思えるような表情を浮かべ、僕の手首を掴んだ。 「以前の俺は夢だと思ったから諦めた。だが、真実なら逃がすつもりはない」 「……あなたも僕を検体に?」 「検体? そうだな……そういうことにしてもいい。お前の体の隅から隅まで観察して、お前がどこまで犬なのかとか調べるのも悪くない。逃がさないようにとっ捕まえておくのにも。だが……捕まえておくにしても、お前に触れるにしても、もっといい名目があると思わんか?」 「名目、ですか…?」 「ああ、俺にとってもお前にとってもプラス要素しか見出せない名目だ」 彼ならば、きっと色々と調べようと面白おかしく僕を扱うことはないとは思う。 かつて僕を「所有」していたものは、ただ私利私欲のために、愛玩とし仲間を売りさばいていた。 そんな中、僕は仲間を置いて逃げ出すことしか出来なかった。 「…それが何か、僕には分かりません。でも……あなたに所有されるなら…僕は……」 「本当に分からんのか?」 呆れたように彼は言い、かすかに何か毒づいた気がしたが、それは僕に聞かせるためのものではなかったのだろう。 優しく微笑んだ唇が僕のそれに近づき、柔らかな唇が触れた。 「これでも、思い当たることは何もないのか?」 そう呟いた唇は僕の返事を待たずにもう一度重なった。 そっと首に回された腕に、彼の手がやわやわと耳を弄んでいく。 滑り込んだ舌に驚いた時は髪を梳いて宥めてくれた。 「どうだ? 思いついたか?」 甘やかな吐息を額をあわせたまま彼は吐いた。 「え……あ…?」 「…全く、鈍いな。野生の勘とかそういうのは働かないのか?」 「す、すみません」 「ばか。それともはっきり言わせたいってことか?」 ぶつぶつ言いながら彼は僕を見つめ、 「……恋人、ってどうだ? それが嫌なら生涯の伴侶なんて選択肢も提示してやろう」 「え、あ…そ…」 頬を染めた彼が言った言葉が信じ切れなく、返答に戸惑っていれば彼は頭を抱えて叫んだ。 「だぁぁ、もう! とんだヘタレだな!!」 「えええ?!」 「いいか、二者択一なんだ。恋人か伴侶。どっちがいい?」 「それって、同じじゃないんですか?」 驚く僕に彼はむっとして、 「…不満でもあるのか?」 「あ、ありません、ありませんけれど、あなたはそれで……」 「ないならいいな。よしじゃあ早く選べ。とっとと選べ。どっちが嫁か彼女かは知らんが、そのうちそれも決まるだろ。いいか? 俺が決めるんじゃない。お前と俺で決めるんだ。……返事は?」 苛立たしげなのに優しい言葉。 それに感激しながら、まだ混乱の只中から問いかける。 「…そ、その、つがい、じゃダメですか?」 僕の言葉に彼はポカンとし、言葉が出てこないようだった。 「ダメじゃないが…つがい…?」 何がどう違うんだろうかとぶつぶつ言う彼に顔が赤くなる。 「すみません、今の言葉は忘れて下さい。言い方の違いだけですから…」 彼を見つめ直した。 「僕の、僕にあなたのこれからの時間を一緒に送る権利を下さい」 「やるって、さっきから言ってるだろ」 そう無邪気に笑った彼は本当に魅力的で、僕は自分から彼をきつく抱き締めた。 「好きです。あなたが好きです。もうずっと、ずっと、あなたのことばかりを想ってきました」 「そうか」と嬉しそうに頷いて、 「だがいいのか? 俺は子供は産めんぞ」 「僕は、子供じゃなくてあなたが欲しいんです。あなたが」 一度彼に口付けて、もう一度言葉を紡いだ。 「あなたが、欲しい」 はやる心臓が確実に彼にも伝わっているだろうけれど、彼の赤い顔を見ればまた彼も同じだと思った。 「僕に…」 「も、わかったから何回も繰り返すな!」 恥かしそうに顔を染めたまま、彼はそう怒鳴り、それからこつんと僕の額に自分のそれを合わせる。 「…分かったから……いなくなるなよ。ずっと側にいろ。……約束だからな?」 「はい、約束です」 そうして僕らはどちらからともなく、誓いの口付けを交わした。 |