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ご褒美かお仕置きか



待ちに待ったその日。
予定通りの時刻に、古泉はようやく帰ってきた。
検閲の関係もあり、ろくにメールも出来なかったこの三日間が、本当に長く思えた俺は、帰ってきた古泉が、
「ただいまかえ」
りました、と言い終える前に古泉に抱きついていた。
「お帰りっ…!」
ぎゅうっときつく抱き締める。
古泉ならこれくらいじゃ壊れないと信じて、強く。
「ただいま帰りました」
改めてそう言ってくれた古泉は優しく笑って、
「…あなたに会いたくて堪りませんでした」
と言ってくれる。
その言葉に胸が熱くなる。
「俺も、会いたかったし、お前の声も聞きたかった。…それに、お前とこうやって抱き締めたかったし、お前とやらしいこともしたい……」
思う存分わがままを言っても許してくれると古泉が約束したのはもう何年も前だ。
それが変わってないと信じて、俺は思う様要求を口にした。
古泉がどうするか、少しばかり不安も感じながらだったが、古泉の顔を見れば大丈夫だと分かった。
「いいんだよな?」
「勿論ですよ」
腕の力を緩めると、優しく口付けられる。
「ん……ふぁ……あ…飯…ちゃんと食ってきたか…?」
「言われた通り、そうしましたよ」
「ん、ならいい…。食わせてやれるような余裕がないんだ…」
「あなたは食べましたか?」
「ちょっとは、な。…少々抜いても平気だし、お前のこと欲しくて……他には何も要らなくて、食べれる気がしなかったんだ」
「…可愛いことを言いますね」
ぞくんと震えが来るような声で囁いて、古泉は俺の体を抱き上げてくれた。
行き先は言わなくても分かる。
俺は邪魔にならない程度に気をつけながら、古泉の首筋や肩、髪にちゅ、ちゅと口付ける。
古泉の匂い、古泉の感触、古泉の温もり。
全部が嬉しくて堪らない。
どさりとベッドに下ろされても、俺は古泉の首から腕を外せない。
もう視界をふさいでもいいからと深く口付ける。
ぐちゅぐちゅと音を立てて舌を貪り、
「ぁ…ん……っ…古泉の味がする…」
思ったことを躊躇いもなく口にすれば、古泉が嬉しそうに、そのくせ酷くいやらしく笑うのが見えた。
「もっと?」
「もっと、いっぱい……、お前が嫌になるくらい、してくれ…」
「ふふ、難しいことを言いますね。僕が嫌になるくらいなんて、有り得ませんよ」
「じゃ、あ…限界まで……?」
「そうですね。あなたに何かあっては元も子もありませんから」
「…そんなこと思う余裕もなくなるくらい、してやりたくなるな……」
思わずぼそりと呟けば、古泉は顔を赤くして、
「なんてことを言い出すんですか…!」
「だって、俺ばっか欲しがってるみたいなのは悔しいだろ」
「僕だって欲しくて堪らない状態だってことくらい、あなたにはお見通しでしょうに」
嘆息しながら古泉は俺の服に手を掛ける。
縫い目もない柔らかな服を引っ張り、ずるりと脱がせてくれる。
まずは上から、更に下を、と脱がせようとした古泉は手を止め、にやりと意地悪く笑った。
「下着、つけてないんですか」
「…全裸で待ってた方が嬉しかったか?」
と返した俺に、古泉はくすくすと笑って、
「そんなことされたら、ベッドまで持ちませんでしたよ」
「それじゃ、次からはそうしよう」
「全く……」
古泉はわざとらしいため息めいたものを吐いてみせつつ、俺を裸に剥いて伸し掛かり、
「本当に、あなたには煽られっぱなしですよ」
「お互い様だろ。…なぁ、早く触って……」
声に吐息を含ませて甘ったるくねだると、古泉はそろりと俺の腹に手を乗せ、そこから上へと撫で上げる。
触れているはずなのにどこか遠くてもどかしい感触が、皮膚ではなくそのすぐ下の感覚器官をくすぐっているように思える。
「ひゃ…っ、ぁ、んん……!」
「まだ触ってるだけですよ?」
揶揄するような言葉にも感じてしまいながら、俺は古泉の腕にしがみつく。
「ふ、ぁ…っ、ん、だって……お前に、触られたら、それだけで、イイんだからしょうがないだろ……」
「僕だから、ですか?」
「ん」
こくこくと頷く俺に、古泉は本当に幸せそうに笑ってくれる。
それを見ると俺も幸せな気持ちになれる。
温かくて、柔らかくて、ふわふわした気持ちだから、幸せな気持ちと言っていいはずだ。
「お前のこと…考えるとそれだけで堪んなくなるんだ。お前に会いたくて、こうやって抱いて欲しくて、お前のことも気持ちよくしたくて、この三日間、そればっかり考えてた。……なあ、これが好きって気持ちなのか…?」
問いかけると、古泉は手を止め、優しく俺の目を見つめてくれた。
ああやっぱり、そんな風に見つめられるとそれだけでドキドキする。
「ええ、きっと」
「ん……嬉しい…」
俺は古泉を抱き締め、唇を重ねる。
「やっとお前に、ちゃんと好きだって言えるんだな」
「これまでだって言ってくださったでしょう?」
「けど、なんだ、あれは、お前が言ってくれるから…そう返すのかって思ってたというか……なんというかで…」
口ごもる俺に、古泉は複雑な笑みを見せた。
「…あなたがそれだけの経験を積まれたってことなんだと思うと嬉しいですが…少しばかり悔しくもありますね」
なんて言うが、それは違うぞ。
「え?」
「俺がそんな風に思えるようになった理由があるとしたらそれは、お前が俺のことをずっと好きでいてくれたからだ。離れていてもお前が俺のことを思っていてくれると、そう信じさせてくれたのはお前だろ? 俺がお前のことを思ってたのと同じように。だから…やっと俺にも分かったんだ。好きってのはきっとこういうことなんだって」
「…っ、キョンくん……!」
感激した声を上げて、古泉は俺に口付ける。
何度も何度も繰り返されるそれが嬉しくてくすぐったくて気持ちよくて融かされる。
したい、とねだるまでもなく古泉も同じ気持ちなんだろう。
大きくてしっとりした手の平が俺の肌を撫で、緩やかに立ち上る快感に包まれる。
「ふぁ…っ、あ……ふ…、んん…っ…」
震える体を押さえるように、古泉が軽く体重を掛けてくる。
その重みすら嬉しい。
それとも、これを愛しいというのだろうか。
そうかもしれない、と思いながら俺は古泉の体に縋る。
軍人らしく固くてしっかりした手が俺の胸に触れ、勃ち上がった乳首を押さえると、それだけで堪らなくなる。
「もっと…っ、きつくして、いいから…! はっきり、したの、欲しい…」
上擦った声で求めると、望むままにされる。
そのくせ、意地悪くくすぐられると不満に眉が寄る。
「爪立てるくらい、しろよ…っ! 俺が、好きなのくら、い、知ってるくせに……」
「すみません。そうやって求めるあなたが可愛らしくてつい……」
「余計なことしなくても、お前には、いくらだって言ってやる…!」
だからもっと、とねだると、カリッと音がしそうなほどに爪を立てられ、体が跳ねた。
「ひあぁ…っ! あっ…う、んん…古泉……」
「はい、僕ですよ」
優しく囁きながら、古泉は俺の下腹へと手を滑らせる。
「んっ、ぁ、そこ…あんまり触ると……」
「出ちゃいます?」
意地の悪いことを言った唇で胸にキスを落とし、そのまま吸い付くから、
「やぁっ…! そ、れも、やめろって…!」
「して欲しいと仰ったのはあなたでしょう? 限界までしたいと言ったのも。だからどうぞ、気にせずイッてください」
そう言って古泉は既に張り詰めていたものを握り込む。
「やっ…、やだって、こらばか…!」
嫌だともがこうとする体を押さえつけて、古泉がそれを擦りたてるせいで、あっけなく出しちまった。
「こ…の、ばかやろ……」
思わず涙目になって罵ると、古泉は嬉しそうに、
「すみません、楽しくてつい」
なんて謝る。
「うー……」
「でも、少しくらいじゃ足りないでしょう?」
そう熱っぽい視線を向けながら、古泉はやんわりと俺の膝を立たせ、脚を開かせる。
俺の出したものでぬるついた指が焦らすように会陰を撫で下ろし、窄まりに触れてくる。
「んぁ……あ…早く……」
自分から膝を抱えるようにして殊更に脚を開いて見せれば、古泉の目に熱っぽいものが揺らめく。
その指先が俺の中に入り込むのをはっきりと感じながら、体を快感に震わせた。
自分でしたってもどかしく、物足りないだけの行為なのに、古泉にされると指だけで達してしまえそうになる。
「ひ、う……イイ…っ…! もっと、して……ぇ…」
すすり泣きにも似た声を上げてねだれば、
「喜んで」
と微笑んだ古泉が更に遠慮のない動きでそこを掻き回し、弱いところを擦り上げる。
「んぁっ! あっ、うぅ…!」
気持ちよさで頭が全て占められそうなのに、そうはならない。
むしろ、気持ちよくなるほどに古泉のことばかり思う。
「ぃ、ずみ…古泉っ……」
「はい」
柔らかな声。
手を伸ばせば触れられる、きれいな髪。
見た目以上にがっしりした体。
俺のことを好きだと言ってくれる時の優しい表情。
熱っぽい瞳。
全部が全部、きっと、愛しいんだな。
断言出来ないのが悔しい。
どうしてそんなことも分からないんだろう。
これだけが、俺のいたあの環境を恨む要素だ。
他のことは全て、古泉と出会えて、こうしていられることで相殺されてどうとも思わないのにな。
「古泉…っ、なぁ、もう、平気だから……」
可能な限りのいやらしい声でねだると、古泉が頷いてくれる。
「ええ」
言葉少ななそれが、古泉も欲してくれているからだと分かると余計に欲しくて堪らなくなる。
「はや、く…っ……」
「ん…」
堅く張り詰めたそれを押し当てられて、ぞくぞくと体が震える。
熱くて堅くてそのくせ優しいんだと知ってるそれも好きだ。
手を伸ばし、古泉を抱き寄せるとそのままずぶりと入れられた。
「んんぅ……っ…」
圧迫感に呻くのは一瞬で、すぐに何もかもが快感に変わる。
「ひぁ…っ、あ、ん……だめ……」
「さっきイッたところなのに……入れただけでまた出ちゃいましたね」
「言うな…ぁ…」
「大丈夫です…?」
遠慮がちな言葉にはっきりと頷いて、
「だから、動いて……」
とねだれば、ゆっくりと腰を引かれ、またぐいと突き上げられる。
「ひぁあっ…! ん、う、もっと…ふぁっ……」
喘ぎ、しがみつく俺に、古泉は優しく口付けてくれる。
なだめるつもりかそれとも煽ろうとしてか、ゆっくりと俺の体を撫で上げる手も気持ちいい。
「あん…っ、んっ、ひゃ……ふ…っ、くぅ…っ!」
「ほら、また硬くなって来てますよ」
「しょ、うがない、だろ…ぉ…!」
「ええ、そうですね。僕、も……」
小さく呻いた古泉が律動を早め、俺の中に白濁を吐き出すと、その熱さに焼かれて、俺は情けなくもまたイッちまった。
きゅうと体中の筋肉が緊張し、古泉を余計に締め付ける。
そのせいかそれはまたすぐに堅さを取り戻して、ああ、どうしよう、
「本当にきりがなくなりそうなんだが……」
「それはこちらの台詞ですよ」
悪戯っぽく笑って、古泉が俺にキスをしてくれる。
やめろって、マジで止まれなくなる。
「…まあ、本当にやばくなったらシャミが止めるか」
じゃあ精々限界まで、と思った俺を、古泉がなんとも言えない顔で見ていた。
「…そういやお前、この間、なんであんなに怒ってたんだ?」
首をかしげた俺に、古泉は小さくため息を吐いて、
「あの時のことは大人げなかったと思ってますから、そう言わないでください」
と逃れようとしたが、
「理由が分からんままだと気持ち悪いだろ。それに、またお前を不快にしたら、って…思うし……」
「心配しなくていいですから」
「…白状しないとこのままねじ切るぞ」
冗談のつもりでそう言い、ぐっと締め付けてやると、
「ちょ、うぁ、やめてくださいよ…! ただでさえきついのに、そんなことされたら……」
「褒めてくれてありがとよ。で、本当になんでだったんだ?」
「……面白くなかったんですよ。端的に言えば、嫉妬したんでしょうね」
むくれたような顔で古泉は言ったが、それでもその整った顔の美しさを損ねることはなく、むしろ愛嬌らしいものを追加するに留まった。
「…嫉妬って……」
「僕の知らない間に、あなたに相方なんてものが出来ていたのかと思うと、面白くなかったんですよ」
苛立ちを振り切ろうとするように古泉が腰を使い、
「ひぁうっ…!」
と甘ったれた声が出るが、おいこらちょっと待て、誤魔化そうとすんな。
「シャミ、は、たかが人工知能、だぞ…っ? や、っ、ちょ、それ……」
ああもう話をさせろよ!
「それでも、です」
深刻そうな面で古泉は言った。
「あなたが、僕よりも彼の言うことを聞くのかなんて思ったら……っ…」
「……あほか…」
俺は苦しい体勢ながらも手を伸ばし、きつく古泉を抱き締めた。
ついでに動きも封じてやる。
ガツガツやられるのも好きではあるのだが、話をするには不向きだからな。
ふうと一つ息を吐いて、このまま快楽に飲まれたくなる衝動を抑えつつ、古泉の頭を撫でてやる。
「本当は、お前に似せたのを作ろうかと思ったんだ」
「……は…?」
「お前に会えなくて寂しかったし、擬似的にでもお前と話せたらって思ったんだが、出来なかった。…ニセモノでもお前を作ろうとしたら、どうしたって違うところが目に付いて、嫌になったし、そうしてお前を思い出したら仕事なんて出来なくなりそうだって途中で気がついたからな。だから、ああいうタイプにしたんだ。猫にしたのは俺が猫なんてやってたからで、性格も…俺に似せたはずなんだ。妙におっさんに育っちまったが」
「……ええと…」
「お前に似せたのを作った方がよかったか?」
「いえ、それは勘弁してください。それこそ嫉妬にかられて何をするか分かりませんから」
と大真面目に言った古泉に俺は笑う。
「じゃあ、ああしてよかった。……俺がこの通りストップの利かない性格で、あいつにはストッパーを任せてたから、それでこの間も止めたってだけだ。あのままだと誰かに見つかりそうだったらしいぞ?」
「そう…だったんですか?」
「ああ。少しばかり扱い辛くていけ好かないが、シャミはあれで優秀な人口知能だ。仲良くしてやってくれ」
「……そうですね、あなたがそう仰るなら」
ぎゅうと俺を抱き締めた古泉は、泣きそうな声で、
「僕も…あなたにずっと会いたくて堪りませんでした。好きです…。あなたが、何よりも好きです」
「ん、分かってる。ありがとな。俺も……お前が好きだ…。そのはずだと、思う」
断言出来なくてごめんな、と謝ると、古泉は優しく笑って、
「十分ですよ」
と言ってくれる。
その言葉に、笑みに、どきりと心臓がざわめくと、勝手に体の中まで反応してたらしい。
「っ、ちょ、また……」
と呻く古泉に、
「や、今のはわざとじゃないぞ? お前が…お前が悪いんだろ」
ぎゅうとしがみつき、
「なぁ…もう、いいから、いっぱいしよう…」
と囁いた。