ショタでパラレルで射手座で消失もどきです
詰め込みすぎである←



























犯罪者予備軍?



まさかと思った。
あるいは僕は楽観視し過ぎていたのかもしれない。
最初に出会った「彼」が僕らと同じくらいの年頃で、彼の知る、「彼の世界の僕ら」もまた同じような年頃だったようだから、きっとそうだと思っていた。
そう思って探していたからか、「僕らの世界の彼」はいつまで経っても見つからなかった。
見つからないはずだ。
こんなに幼かったなんて。
僕の目の前にいるのは、とても小さな子供だ。
いくつぐらいか、ということは、身近に子供のいない僕にはよく分からないけれど、話しかけてきちんと受け答えが出来るのかということからして心配になるくらい幼い。
まるで…そう、「彼」が現れ、そして帰ってしまったあの頃に生まれでもしたみたいだ。
呆然としている僕を、彼は不安げに見上げた。
僕と同窓で、違う部署とはいえやはり同じ軍で働いている彼の両親もまた、心配そうにこちらを見ている。
僕は慌てて表情を取繕いながらそっと膝をつき、その子供のとても低い目の高さに合わせて膝を曲げた。
「初めまして、僕は古泉一樹と言います。…あなたの名前は?」
彼は恥かしそうにもじもじしながら、それでも僕を観察するように見つめる。
これ以上警戒されないようにと笑みを作れば、彼も小さく笑ってくれた。
「キョン」
というのがその返事だ。
「ええと、キョンというのはニックネームで本当は……」
両親が慌てて言うのさえ、僕の耳には入らない。
これがただの偶然なんてもので済むはずがない。
済ませたくない、と思う。
僕はそれほどに、「彼」に会いたかったのだ。
…いや、違う。
「彼」と「出会いたかった」と言うべきだろう。
「キョンくんと呼んでいいですか?」
そう尋ねると、彼はこっくんと頷いてくれた。
子供らしい大きな動作が可愛らしくて愛おしい。
子供なんて好きじゃないはずだったのに、不思議なものだ。
それも彼だからだろうか。
今度は作り笑いでなく顔を緩めてしまいながら、僕はじっと彼を見つめた。
彼は少しずつ緊張が解けてきたというのか、いくらか興奮の滲むキラキラした瞳で僕を見つめ返し、
「古泉司令、だよな?」
と僕に問う。
そんな言葉遣いを咎めてか、
「こらっ」
と母親が言うのを軽く制して、僕は頷いた。
「はい」
「すっごい」
嬉しそうに彼は呟いた。
「かっこいい」
興奮しきった声でそう言って、僕の白い制服を見つめる。
帝国軍人の家庭に育った子供らしく、将校への憧れがあるらしい。
無邪気なものだな、と思いながら僕は彼に微笑みかける。
「触ってみますか?」
「いいのか?」
「ええ、どうぞ」
「わぁ…!」
歓声を上げて、彼は僕に駆け寄ってきたかと思うと、制服の肩に軽く触れ、それからつんとマントを引っ張ってみたりする。
可愛いなぁと眺めていると、最後に彼はぺたりと僕の頬を紅葉のような手の平で挟んだ。
「どうしました?」
「…えと……本当に本物かって、思った」
「本物ですよ」
「……うん」
嬉しそうに呟いた彼は、小さな声で囁いた。
「本当に…いてくれたんだな…、古泉……」
と。
「え……?」
驚く僕に、彼は悪戯っぽく笑う。
「俺、知ってるんだ」
僕以外には聞こえないほどの小さな声で、彼は器用に告げた。
「俺も、お前に会いたかった」
秘密の匂いのする囁きに、相手が小さな子供と言うことも忘れてどきりとさせられる。
「あらためて、」
というところまで小さな声で、それから後は大きくして彼は言った。
「よろしくな?」
「……ええ、こちらこそ、よろしくお願いします」
そう返すほかなかったけれど…一体どうなってしまうんだろうかという不安が過ぎる。
とりあえず、皇女殿下に知られるのはまずいだろうな、と僕は密かに嘆息した。
僕は彼と仲良くなったということにして、
「僕の家に遊びに来ても構いませんよ」
と両親の前で告げた。
両親は揃って恐縮したけれど、
「僕も独り身でさびしいものですから」
と言うと承諾してくれた。
僕が独身でいるのは結婚というものに興味がないし、必要性も感じないからだけれど、僕が皇女殿下に思いを寄せているという誤解が蔓延しているため、僕に結婚を強いる人が少ないのはありがたい。
そうして、概ね同情的に見られるのも助かる。
そんな訳で僕はまんまと彼の訪問の約束を取り付け、彼と二人で話す機会を得たのだ。
「こんにちは! 今日はお招きありがとうございました!」
元気に挨拶した彼に思わず目を細めながら、
「はい、こんにちは。よく来てくれましたね」
「ん、だって、俺も話したかったからな」
そう言って微笑んだ彼をリビングに通し、低めにしたソファに座らせる。
「お茶とジュース、どちらがいいですか?」
「なんでも構わんぞ」
「ではジュースで」
グラスにオレンジジュースを注いで彼の前に置き、自分も同じそれを口にする。
甘酸っぱいそれが爽やかな風味を残して喉にひんやりと落ちて行くのを感じながら、じっと彼を見つめる。
顔だちは子供らしく丸っこくて可愛らしいけれど、明らかにあの作戦参謀と同じ人物だと分かるほど、面影が感じられる。
僕は彼がグラスを半分ほど空にして、テーブルにグラスを戻したのを確かめてから、口を開いた。
「いきなりお聞きしますけど……あなたは、僕のことを知っていたんですか?」
「うん」
あっさりと彼は頷いた。
「知ってたし覚えてた。…つっても、あんまりはっきりしたことは覚えてないんだけどな。お前とハルヒ、朝比奈さん、長門のことは覚えてる」
「それだけ覚えてらっしゃるなら十分ですよ。一体どういうことなんです…?」
「俺にもよく分からん。…多分、俺のことをこの世界が必要としてくれたんだろうなとは思うが」
「…え……」
「だから、俺はあの後この世界に生まれたんじゃないか? 歳の計算は合うよな?」
「…ええ、合います」
「じゃあやっぱりそうなんだろ」
そう言って彼は嬉しそうに笑う。
「…嬉しいんですか?」
「ああ、嬉しい。俺の妄想じゃなかったんだってことも、お前が実在してくれることも」
「先日も似たようなことを仰いましたね。…どうして僕なんです? ハルヒ殿下や朝比奈さん、長門さんでなくて」
「だって、俺が一番好きだったのも一番気になったのも、お前だからな」
あっさりと彼はそう言ってのけた。
「……は?」
「ハルヒは心配ないし、朝比奈さんと長門も、ハルヒがいるなら大丈夫だ。でも、お前は一番危なっかしく思える。それに……俺はお前が好きだったよ」
「…そう……なんですか? あなた…いえ、彼のいた世界の古泉一樹のことが、ではなく?」
こくんと彼は頷く。
「あっちの世界の古泉に知られたらまずいだろうけどな。まあ、知られることもないだろうから構わないだろ」
そう悪戯に笑っておいて、彼は柔らかな瞳で僕を捉える。
「俺な、ずっとお前のこと思ってた。この世界に生まれてからずっと、お前のこと忘れなかった。ずっと、お前のことが好きだ」
子供ゆえのストレートな言葉にどくんと心臓が鳴る。
「…本気ですか?」
「当然だ。…そりゃ、俺に残ってるのは朧気な記憶ばかりで、自分の思考回路やなんかが外見に見合った子供だってことは分かってるさ。だがな、」
いやそれは本当に外見に見合った子供らしい発言なのかといいたくなるほど彼は立派に喋り、
「自分が誰をどんな意味で好きなのかくらい、相手を目の前にすりゃちゃんと分かるに決まってる」
と非常に男前に言ってのけた。
「…凄いですね」
「お前は? 分からないのか?」
きょとんとした顔で問う彼に僕は苦笑する。
「分かりますよ。だからこそ、困ります」
「うん?」
「…僕もあなたが好きってことですよ」
そう言った瞬間には嬉しそうな顔をしたくせに、彼は意地悪にも、
「そりゃあ犯罪だな」
なんて言う。
「ええ、全くです」
「けどまあ、あれだ。節度ある清い交際なら文句は言われんだろ?」
「どうでしょう?」
「文句…言われるか?」
不安そうに呟いて、でも、と彼は可愛らしく言い募る。
「…俺はお前が好きだし、お前も俺を好きだって言ってくれるのに我慢出来るほど、俺は大人じゃないんだ」
「むしろお子様ですよね」
「そうだとも。だから、」
と彼はぴょこんとソファから飛び降りて、僕の側に寄ってくると、そのままひょいっと僕の膝に乗った。
向かい合わせになるような形にされたから、とても顔が近くてどきどきする。
赤い唇はきっと柔らかいんだろうな、なんて思いながらも理性を総動員して思い止まろうとする僕に、彼はまさしく天使のような笑みを浮かべて、
「お前の都合なんか知らないって顔して、お前と付き合うことにするんだ」
と告げ、僕の唇に自分の小さなそれを合わせた。
ふっくらと柔らかな感触。
かすかに鼻腔をくすぐる甘い香り。
何より薄く目を閉じた彼のその表情の艶めいた様に何かを煽られる。
相手は幼児、と必死に言い聞かせるしかない。
「…古泉」
吐息をたっぷりと含んだ声で彼は囁く。
「大好き」
















おまけ

「古泉」
と僕を遠慮なく呼ぶ人間はとても少ない。
それは僕に友人が少ないからでもあるし、皇女殿下の側にいるからでもあるし、僕の階級が随分と上がってしまったからでもある。
そもそも、皇女殿下も僕のことを、
「古泉くん」
なんて呼ぶものだから、余計に僕を呼び捨てにする人間なんて少なくなってしまった。
そんな中、僕を気軽にそう呼んでくれる人がいる。
僕にとってもかけがえのないその人が、今日もまた、
「古泉」
と呼んでくれるものだから、僕はついつい顔が緩んでしまうのを感じながら、
「なんでしょうか」
と答えて振り返った。
するとそこには、僕の着ているものと全く同じデザインの白い軍服を着た彼が立っていた。
「一体どうしたんですか?」
驚く僕に、彼は悪戯が成功したと喜ぶような顔をして、
「ハルヒが貸してくれたんだ。どうだ? 似合うか?」
無邪気に問う彼に、僕は作り笑いでなく笑って、
「はい、とてもよくお似合いですよ。立派な軍人さんですね」
「だろう?」
得意げに笑って、彼はその場でくるりと回って見せた。
どこかでステージモデルがそうするのでも見たのだろうか。
そういえば最近の彼は色々な人の真似をしたがるんだった、と思いながら、
「わざわざ僕に見せるため、着てくれたんですか?」
「それもあるが、ちょっと違うな」
と彼は言った。
「ハルヒが言ったんだ。こうしたらちゃんと帝国軍人に見えるから、艦にも乗せてやるって」
「……え」
微笑ましい、和やかな気持ちになっていたのが一気に冷える。
皇女殿下が困ったことを言い出すのはいつものことだけれど、それにしたってそれはない。
かと言って、それを彼に伝えるのは少しばかり迷いが生じる。
何しろ彼と来たら、本当に期待した顔をしているのだ。
僕は膝をつき、彼と目の高さを合わせた。
「あの……キョンくん、非常に言い辛いのですが、流石に艦に乗せてあげるのは無理なんです…ごめんなさい」
「…そうなのか?」
見るからにしょんぼりしてしまった彼に、僕は頷くしかない。
「ごめんなさい」
「……ハルヒはまた俺に嘘を教えたんだな」
そう呟いた声は怒っているというよりも悲しげに響く。
僕はそろりと彼の小さな体を抱き締めた。
「すみません…」
「別に、お前が悪いんじゃない」
「しかし……」
「ハルヒの代わりにお前が謝るのは、俺は好きじゃない」
そう言って、彼はぎゅっと僕を抱き締めてくれた。
小さな手の平は案外力強く、温かい。
「…俺も、艦に乗りたかったな」
「あなたが望むなら、いつか、乗せてあげたいです」
でも、本当は乗ってほしくない。
あの艦に乗るということは、たとえどんなに安全な場所を任されている皇女殿下の艦であっても命を懸けるということに他ならないのだから。
そんな場所に彼を行かせたくない。
そう思ったからか、いつの間にか腕に力が入っていたらしい。
「古泉、痛いって…」
抗議の声に慌てて力を緩める。
「す、すみません」
「…まあ、お前の考えてることが分からんでもないんだがな」
苦笑しながらそう呟いて、彼は困ったように僕を見つめた。
「俺のことを心配してくれたんだろ?」
「ええ…」
「ありがとな。けど俺は、お前のことをこうやって安全な地上で待ってるだけなんて、嫌なんだ」
「え…?」
思いがけない言葉に驚く僕へ、彼ははにかんだ笑みを見せてくれる。
「俺も、お前のことを守りたいし、それに……その、なんだ。……お前と、一緒にいたいんだ」
「キョンくん……」
「……大好きだからな」
恥かしそうにしながらもじっと僕を見つめて、彼は僕の頬にちゅっと唇を当ててくれた。
ほんのり赤くなっているのも可愛くて、ああ、もう、どうしたらいいんですか?
相手はまだ5歳児なのに!