お邪魔虫でごめんよっ!



あたしがちょろんと暇になったからって街をぶーらぶーら歩いてたら、キョンくんと古泉くんが二人だけでいるのを見っけちゃったんで、
「やあやあっ、それに見えるはキョンくんと古泉くんじゃないっか!」
と声を掛けたら、プラモ屋のショーウィンドウを覗き込んでいた二人は、びっくりしたようにこっちを振り向いた。
ううん、ちょおっと違うかな?
キョンくんはびっくり、古泉くんはにっこりってとこ。
「鶴屋さん…」
「奇遇ですね」
そうだね、とあたしは笑って、
「二人は仲良くお買い物かいっ?」
「ええ、そうなんです」
と答えてくれたのは古泉くんだ。
「ふぅん、新しいゲームでも買うの?」
「ぅん? お買い物に来たんじゃないのかなっ?」
「メインは別のものなんです。参考書を買おうと思いまして……」
って言ったその手には既に本屋さんの袋がある。
「やっぱり仲良しなんだねっ」
とあたしが笑うと、キョンくんは悪戯っ子みたいな顔して、
「こいつに友達がいないだけですよ」
なんて言う。
でも古泉くんも笑って、
「お恥ずかしい限りです」
って肯定するから、
「そんなに謙遜しなくていいと思うんだけどなっ」
だって、とあたしは笑って、
「あたしだって、友達っしょ?」
「ありがとうございます」
柔らかく笑った古泉くんはやっぱり男前でよいねっ。
見てても華があっていいよー。
「それにさ、女友達でいいんだったら、あたしだけじゃなくって、みくるやハルにゃんや有希っこだっているさねっ」
「ありがたい限りです」
そう言った古泉くんに、キョンくんは意地悪な笑い方をして、
「じゃあ、今度からは買い物に行く時は、ハルヒたちに付き合ってもらったらどうだ?」
なんてからかってる。
いいねいいね!
男の子はこんくらいが可愛いっさ!
古泉くんはっていうと、からかわれてるのが分かってるのか分かってないのか、これまたちょろんと違う意味で可愛い困り顔で、
「それも悪くはありませんが、女性を煩わせるのは……」
「俺ならいいってのか?」
まだ意地悪するキョンくんに、古泉くんがどう答えんのかなって思ってたら、意外にも古泉くんは慌てたりしないで、
「いいんでしょう?」
って返した。
ううん、余裕を感じさせる発言だね。
そうしてると凄く大人っぽく見えるよ。
キョンくんはっていうと、そういう切り返しにちょろっと考え込んだ後、ニヤッと笑った。
「仕方ないから付き合ってやるさ」
うーん、可愛いねっ!
あたしは声を上げて笑って、
「いいもん見せてもらって、おねーさんはうっはうはだよっ! お礼に何かおごんなきゃねっ」
「え? なんのことですか?」
「いいものって……」
戸惑いながらも、二人揃って、
「なんだかよく分かりませんが、構いませんよ」
「こいつがおごるならともかく、鶴屋さんにおごってもらうなんて…」
なんて断ろうとするからさ、
「いいからいいから、ちょろんとあたしに付き合ってよっ! ね!」
って二人の手を強引に引っ掴んで歩き出す。
「うーん、両手に花とはちょおっと違うけど、いい気分だねっ」
と言えば、二人は仲良く顔を見合わせて苦笑する。
でも、強引に振り解いたりする気もないみたい。
やっぱりハルにゃんのお目に適うだけあって、優しいねっ。
さてどこに行こっかなって思ったら、この近くのちょっとした広場に、クレープの路上販売が来てたのを思い出した。
うん、あれがいい。
たったか早足で歩いて二人を引き摺って行くと、まだクレープ屋さんのワゴンがあった。
「よっし、じゃあアレね!」
あたしは二人を離してワゴンに駆け寄ると、
「おにーさんおにーさん、苺と生クリームのやつと、ツナサラダと、この辛そうなチリドッグ風ってやつを辛めにして、一個ずつよろしくっ!」
と手早く注文してお金を払う。
それから、
「おーい、キョンくん古泉くん、こっちこっち!」
って二人を呼び寄せると、
「最初はぐーっ! じゃんけんぽんっ!」
こういうのって、いきなりでも案外出来るんだよねー。
二人も反射で手を出してくれたのはいいんだけど、
「ありゃりゃ、あたしの負けかー」
しょうがない、こういうこともあるよねっ。
「ほらほら、二人でもう一回じゃんけんやって!」
って急かすと、二人は首を傾げながらも、
「最初はぐー、じゃんけんほいっ」
なんてやってくれる。
ううん、微笑ましいにょろ。
あいこがちょろんと続いた後、結局古泉くんが勝った。
その頃にはクレープも出来上がってたから、
「そいじゃっ、勝った順だよ!」
ってクレープを渡した。
古泉くんに苺のクレープ、キョンくんにツナサラダ、そんでもってあたしが激辛クレープ。
「っひゃ〜っ、辛そうだねっ! ほら見てよこれ、まっかっかだよ! 言っとくけど、ケチャップの色じゃないからね?」
思わず見せびらかすと、古泉くんなんて青い顔して、
「そ、そんなの食べて大丈夫何ですか?」
なんて聞いてくるけど、
「あっはっは、食べちゃだめなもんなんて売らないよっ」
そう言い切って、手にしたクレープをがぶりっとやると、口の中がめっちゃくちゃ熱くなった。
でも、これ、おいしーよっ。
「うっは〜! 辛ウマっ!!」
目に涙浮かべて言ったあたしに、キョンくんは苦笑して、
「あんまり辛かったら替えますよ。俺、辛いの結構平気ですから」
「おいしーってば! ほらほらっ、二人も食べた食べたっ!」
そやって急かしたら、二人はやっとクレープに口をつけた。
ついつい甘いのを一等賞にしちゃったけど、古泉くんが甘い物苦手だったら台無しだよね。
そう思って見てたけど、美味しそうに食べてくれてよかったよっ。
キョンくんなんかはちょぉっとだけだけど変な顔になって、
「甘くないか?」
なんて聞いてる。
甘くないわけないのにね。
「甘くて美味しいですよ。味見します?」
そう言って古泉くんはキョンくんの口元にクレープを持ってく。
「おう」
がぶりっと豪快に行くあたりはやっぱ男の子だねー。
あんまり豪快すぎて、顔に生クリームついちゃってるけどさ。
「ついてますよ」
って古泉くんが指先でちょっとそれをぬぐい取って食べちゃった。
キョンくんは一瞬ビックリした顔したみたいだけど、気にしないみたいで、
「お前もこっち味見するか?」
「いただきます」
かぷっと行く古泉くんはちょっとお上品な感じかな。
「ああ、こちらも美味しいですね」
って笑った顔がなっかなかチャーミングだね。
キョンくんはがぶりがぶりとクレープをどんどんちっちゃくしちゃいながら、
「クレープなんて、家でも作れそうなもんだが、外で食うのもいいんだよな」
なんてぼやくみたいに呟いてる。
「作れるんですか?」
驚いた顔で言った古泉くんにはどっか得意そうに、
「多少形は悪いし、所々破けたりもするが、まあ、なんとかな」
「凄いですね…」
素直に感心してる古泉くんは、お料理は得意じゃないのかもね。
でも、キョンくんがクレープを焼けるなんてちょろっとびっくりだよ。
ちっちゃかわいい妹さんがいるからかなっ?
そうだ。
「ねえねえっ、そのうちSOS団のみんなでクレープパーティーなんかしないっかな? 場所と資材くらいなら、うちが提供するし。いやいや、お金とかはいいんだよ? あたしも混ぜてもらえたらそれでいいっさ」
思いつくまんま言ってみたら、古泉くんも小さく笑って、
「それもいいですね」
って言ってくれたし、キョンくんも、
「それくらい平和なイベントなら、断る必要もなさそうだな」
なんて言ってる。
つまりはいいってことだよね?
あたしはぱくっと最後の一口を食べちゃうと、
「そいじゃっ、ハルにゃんによろしくね!」
って言って二人から離れた。
ちょろんと離れてから、
「お邪魔しちゃって悪かったにょろっ」
とも言っといた。
さぁて、実際あたしはどれっくらいお邪魔だったのかなっ?