射手座で消失な世界の話です
射手座なのでどうやらSFかつ軍隊物らしいです(曖昧
消失なので幕僚総長と作戦参謀じゃありません
古泉は司令です
ハルヒは帝国の皇女殿下です

キョンは更に特殊なことになっちまってます
キョンが可哀相な境遇だったとかいう重めの設定


そんなのでもいいんだぜって猛者はどうぞー




あとエロなのでそっちにも注意
これは多分襲い受け?


























































白と赤の王子様



 そいつは、酷く怖い顔をして乗り込んできた。真っ白い軍服をいくらか赤く汚して。
 だから俺はてっきり、そいつは怖い奴なんだと思った。でも、それくらいの方がいいと思った。薄ら笑いを浮かべて俺の体を撫で回すような奴とは違うと思ったから。
 それでも、そいつがその綺麗な顔を歪めて、
「…っくそ…」
 なんて毒づくのには体が竦んだ。
 俺が何かしてしまったのだろうか。打擲されるんだろうか。それとも切り捨てられでもするんだろうか。撃たれたりするんだろうか。
 怯える俺を見たそいつは、ほんの少しだけ目を細めた。その優しい眼差しに、何故だか酷く安堵した。どうしてかなんて知るもんか。ただ、分かった。こいつは怖くないんだと。
 俺がほっとしたのを見て取ったのか、そいつはまた怖い顔になって周りの奴等を睨み付けた。
「よくまあ恥ずかしげもなくこのような行いが出来たものですね。それも、皇女殿下のお膝元で」
 そう薄く笑った唇が怖いのに、酷く魅せられる。
「ここは今、この時をもって封鎖の上、ここにいる全員に聴取を行います。その上で処罰なり処遇なりを決定しましょう。ただ、」
 その笑みが深まる。俺はそれから目を離せない。周りの奴等は恐れるように身を竦ませているのに、酷く昂揚する。ドキドキする。なんだ、この感覚は。
「こんなことをしておいて、軽い処罰で済むなんて甘いことは考えない方が身の為ですよ。それから、これは皇女殿下直々に指揮なさっての摘発です。これまでのような鼻薬やコネが役に立つとは思わないように」
 そう厳然と言い放つそいつこそが断罪者に見えた。
 俺も裁かれるのだろうか。それでもいいと思えた。それくらい、そいつは綺麗で、堂々としていて、何より、俺のことを優しく見つめてくれた。
 そうして俺はその薄暗い場所から日の光の当たる場所へと救い出されたばかりか、理由は分からないが、俺は特別に扱われた。
 助けに来てくれたそいつは、自分の服が汚れるのに俺を抱き締めてくれ、あまつさえ、
「遅くなってしまってすみませんでした。…もっと早く助け出せたらよかったのに」
とまで言ってくれたが、どうしてそんなことを言われるのか、俺には全く分からない。
「え……あ…」
 どう問えばいいんだろうか。俺はこんな偉い人との口の聞き方なんて知りやしない。知っているのは、口や手や体の使い方くらいだ。
 それでもなんとか、
「…どうして」
 と震える声で尋ねてみた。
「…あなたを探していたんです」
 とそいつは答えた。
「あなたに会いたかったんですよ。もう、ずっと、あなたを探していました。まさかこんなことになっているとは思わなくて、見つけるのが遅くなりましたが……見つけられてよかった」
 そう言ってまた優しく微笑み、俺を強く抱き締めてくれる。そのせいで、少しばかり傷が痛んだが、そんなものはどうでもよく思えるほど、俺の興味はそいつに向かっていた。
「…俺のことを、知ってるのか…?」
 俺がそう聞くと、そいつは困ったような顔をした。
「知っている、といえば知っています。でも、知らないことばかりでもあります。ですから、教えてくださいね」
 そう優しく微笑まれて、どきりとする。
「…怖い」
 思わず身を震わせて呟いた。
「これは、夢…なの、か? 目が覚めたらまた…あの…暗いとこなのか……?」
「夢じゃありませんよ。…もう、あんな場所には戻らせません。あんなこともさせない。…させるものですか」
 そう言ってそいつはより一層強く俺を抱き締める。それが痛いくらいなのに、嬉しい。
「…なあ、俺はお前をなんて呼べばいいんだ?」
 そう聞くと、そいつはにっこりと微笑んだ。
「どうぞ、古泉と呼び捨ててください。…キョンくん」
「…なんで、俺の呼び名……」
「それくらいは知ってるんですよ」
「…訳が分からん……」
 混乱する俺に、古泉は優しく言ってくれる。
「全部ちゃんとお話しますから、今は休んでください。…疲れてるでしょう?」
「ん……」
 そう、疲れてる。さっきも「仕事」をしてたのだ。まだ途中までだったから、いつもよりはずっと楽だが、それでも顎とかは疲れてる。それに毎日蓄積した疲れもあった。
 とても温かくて気持ちいい腕の中で、俺はふと、随分昔、年上の女の子に聞いた話を思い出した。
 辛い境遇にあっても、いつかはきっと誰かが助けてくれると彼女は信じてた。王子様ってやつが迎えに来てくれるんだと。
 でもその子はもういない。だから代わりに、俺に王子様ってやつが来てくれたんだろうか。
 馬鹿馬鹿しいことを半ば本気で思いながら、いつの間にか俺は眠り込んでいた。


 やはり古泉は、とても偉い人であるらしい。
 俺がそれを知ったのは、その日古泉の家に連れて行かれた時だった。そこは見たこともないくらい綺麗で、チリ一つ落ちてないようなところで、それなのに俺が歩くのなんて勿体無いくらいだった。
 玄関から先に踏み込めず、ぼんやりと立ち尽くす俺に、古泉は心配そうな顔をして、
「どうかしましたか? どこか痛みます?」
 と聞いてくるので、俺は慌てて首を振る。
「違う、そうじゃ、ないんだが………本当に、こんな綺麗なところに入っていい、のか…?」
 俺の問いかけに、古泉はなんだか痛そうな顔をした。俺はなにか不味いことでも聞いちまったのだろうか。
「いえ、そうではありません。…ただ、」
 その眉が苦痛に歪められる。それだけで、俺の胸までなんだか痛くなる気がした。
「…どうしてもっと早く、あなたを助けられなかったのだろうかと思うと、申し訳なくて……」
「…なんでお前がそんなことを思うんだ? 俺は、十分だぞ。こうして、助け出してもらえた。もうあんなことをしなくていい。俺は元気で、病気もしてなくて、怪我もない。これ以上なんて望みやしない」
「……それでも、思うんです」
「…よく分からんが、」
 俺は手を伸ばして、自分より少し高いところにある古泉の頭を撫でた。
「気にしなくていいから、な?」
「……ありがとうございます」
 泣きそうな顔で言って、古泉は俺をもう一度抱き締めた。そうして、
「あなたも、気にせず上がってください。まずはお風呂でもどうです?」
「風呂…なんて、いいのか? というか、どうして俺だけがお前の家に連れて来られたりしたんだ? 事情聴取だかなんだかされるんだったんじゃ……」
「それも勿論行います。…彼らのしていたことは到底許されるものではありません。きちんと処罰させます。ですが、……あなたは僕にとって、……いえ、僕とある御方にとって、特別なんです」
「特別……?」
 なんだそりゃ、と首を傾げる俺に、古泉は困ったように苦笑して、
「その話はまた明日にでも。今は、体を清潔にして、ゆっくり休んでください」
「……分かった」
 頷いた俺に、古泉はほっとしたような顔をしてくれた。そうされると、俺もなんだか嬉しい。だから、ちゃんと古泉の言うことを聞いて、大人しくしていようと思った。
「バスルームはこちらです」
 と連れて行かれたのは、とても綺麗な場所だった。大きな浴槽にはたっぷりのお湯が沸かしてあって、なんだかいい匂いも漂っている。
「うわ……、俺、こんなの初めてだ…」
 思わず呟いた俺に、古泉は複雑な顔をして見せた。なんだその反応。
「いえ、気にしないでください。あなたが悪いわけではないのですから」
「……分かった」
 古泉の言うことを聞くと決めたばかりだからな。少しばかり釈然としないなりに、大人しくそう頷いておく。
「新しい服も用意しておきましたから」
 と言って古泉は俺を残してバスルームから出て行った。
「…こんな広いのにひとりで使っていいのか」
 何と言うか、別世界だな。
 そんなことを思いながら俺は服を脱ぎ捨てて端の方に押しやる。ぼろぼろに汚れた服の下から現れる体も、血や垢や埃なんかで汚れている。
 こんな汚い俺が、こんな綺麗な風呂を使っていいんだろうかと緊張してくる。
 それでも、古泉に言われたんだからと俺は置いてあった手桶にお湯を汲み、恐る恐る体に掛けた。
「ひゃぅ…っ……」
 覚悟はしていたが、お湯が酷くしみて、思わず声が出た。痛い。
 お湯をかけるだけのことでこんなにも痛いのは、俺の体に無数の傷があるからだ。擦り傷、切り傷、打撲、やけど、それから見たくもない傷跡まで、まるで見本市みたいだ。
 こんなに汚い体なのに、なんで古泉は俺なんかを拾ってくれたんだろう。特別ってなんだ? 俺が何かしたっていうのか?
 さっぱり分からん。
 分からんといえば、この風呂の設備もよく分からん。石鹸でもないのかと思ったがそれらしいものは見当たらん。かと言って、綺麗にして来いと言っておいてそんなものも用意してないとは思えん。
 ……仕方ない。これで怒られたりしないといいのだが。
 俺はそろりと風呂場から出ると、置いてあったタオルを軽く腰に巻いて、古泉の姿を求めて歩く。
 だだっ広い家は、どこに何があるんだかさっぱり分からん。変なところに迷い込んで機嫌を損ねたりしないといいと、そればかりを願いながら歩いていると、本が沢山ある部屋で古泉を見つけた。
「古泉」
 俺が呼ぶと、古泉は反射のように振り向き、それから顔を赤らめた。
「ど…うなさったんです…? そんな格好で…」
「その、…石鹸でも、ないか?」
「石鹸……ですか? ボディーソープを用意してあったと思うんですが……」
 ああ、やっぱりあるにはあったのか。
「すまんが、どれがなんだか分からなくってな。…教えてくれるか?」
「ええ、分かりました」
 優しく微笑まれて、心底ほっとしていたら、
「…僕ってそんなに怖いですかね?」
 と聞かれてぎょっとする。
「は?」
「いえ、どうも緊張されてたようなので……。それに、仕事の際の自分が鬼のような形相をすることがあることは自覚してますし、突入の際にはまさにその顔をしてたと思うんです。だから、それで怖がられてしまったのかと思いまして、」
 そんなことを言いながら、どこか不安げに俺を見る古泉は、確かにあの時と同一人物とは思えないくらいだ。
 それで俺はつい笑っちまって、
「怖くなんかないだろ。…むしろ、かっこよかったと思うぞ」
「…え……」
「それに、その、今、俺が緊張してたのは、こんな格好で出歩いて怒られるんじゃないかとか、そういうことを思っただけだから……」
「ああ、そうだったんですか。…気にしなくていいんですよ」
 優しく言って、古泉は俺の頭を撫でてくれる。
「早く戻りましょうか。このままでは風邪を引いてしまいますよ」
「ちょっとくらい平気だぞ?」
 もっと寒い格好で、暖房なんぞないところで寝起きしたりしてたくらいだからな。
「だめですよ」
 そっと背中を押されて、俺は古泉と共に風呂場に戻った。
 古泉は俺の汚れた服を躊躇いもなしに拾い上げて、
「どうします? 綺麗にしておきましょうか。それとも、捨ててしまっても構いませんか?」
「え、あ……どうしたらいいんだ? それしか服はないから、なくなると困る気もするんだが……」
「新しい服くらい、用意してありますよ。さっきも言ったでしょう?」
 と古泉は微笑と共に言ってくれる。
「…甘えていいのか?」
「ええ、どうぞ、いくらでも甘えてください」
 そう、本当に優しく言ってくれるから、
「ありがとうな」
 と笑顔で言ったら、古泉はなにやら妙な顔になった。どうかしたのか?
「え、いえ………その、随分率直な言葉を選ばれるんだなと思いまして…」
「言葉なんて、そんなに知らんからな。…他の言い方をした方がいいのか?」
 しかし、俺が知る他のお礼の言い方というと、「仕事」で教わったのしかないぞ。そしてあれは、品性下劣な連中に対してするものであって、こんなに綺麗な奴相手にするもんじゃないと思うので、やらないでおく。
「いえ、いいんです、気にしないでください。ただ少し、気になっただけなんです。……言葉はストレートなのに、その……表情が…」
 表情?
「…あまり変わりません、よね。…ああいえ、随分と不躾なことを言っているという自覚はあるのですが、どうにも気になりまして……」
「…そう、なのか?」
「……え?」
 俺の問いかけに、古泉は驚いたようだった。しかし、驚いてるのは俺の方だ。
「いや、自分では随分笑ってるつもりだったし、変な顔にもなってるつもりだったんだが……」
「…そう、なんですか……?」
「ああ」
「それは…ますます失礼なことを言ってしまってすみません」
 と頭を下げる古泉に、俺の方が恐縮する。
「そんな、謝らなくていい……というか、頼むから、勘弁してくれ。どうしたらいいのか分からん…」
「…はい」
 困ったように言って、古泉は頭を上げてくれた。
 俺はほっとしながら、
「なあ、俺はお前を信じていいんだよな?」
 と改めて確かめる。
「ええと……それは、一体どういう…」
「信じていいんだろうと思うんだ。直感だから、理由の説明は求めないでくれよ。お前を信じて、お前のいいようにしたら、いいんだよな?」
「…それ、は…」
「だめなのか?」
 しゅんとして俯いたら、流石にこれは通じたらしい古泉は慌てて、
「いえ、信じていただけるのは嬉しい限りですし、僕も出来うる限りのことをするつもりです。でも、僕の言いなりになってほしいわけじゃないんです」
「……じゃあ、どうしたらいいんだ?」
 分からん、と呟く俺の頭を、古泉は優しく撫でてくれた。まだ綺麗にしてないから、ごわごわして臭って、とても汚い髪なのに。
「最初は無理でも仕方ないと思います。でも、少しずつ、自分で考えられるようになって欲しいんです。僕の言いなりになるのではなく、あなたの意思で考えて、やりたいことをしてもらいたいと思うんです」
「……そんなの、わがままじゃないか。お前の世話になるのに…」
「それでいいんですよ」
 そう、古泉は優しく笑ってくれる。
「……努力する」
「ええ、よろしくお願いします」
 古泉は優しい声で、
「それでは、この服はどうしましょうか?」
 とまるで練習でもするように聞いてきたので、俺は少し考え込む。
 世話になるのは申し訳ない気がする。だが、あんな服をもう一度着たいかと言われたら嫌だとも思う。あんな、ぼろぼろで、嫌なものがいっぱいくっついた服なんて。それに、この綺麗な家にあんなぼろきれは似合わないようにも思った。
 だから、
「捨ててくれるか? それで、新しい服をもらえたら、……嬉しい」
「畏まりました」
 古泉は微笑んで、そのぼろを壁の隅に放り投げた。それが瞬時に壁に飲み込まれて消える。
「ダストシュートがあるんですよ」
 驚きに目を見開いた俺に、古泉は面白がるように笑って教えてくれた。
「さて、バスルームの使い方でしたね?」
 くすくす笑いながら古泉は俺を、なにやら機械の塊みたいなものの前に連れて行き、あれこれボタンを指し示して教えてくれる。
「これがシャンプーで、こちらがリンス、それからボディソープですね。他にも必要なものがあれば言ってください」
「分かった」
 頷きながら必死にそれを覚えようとしているのに気付いたのか、古泉は小さな声で尋ねた。
「…もしかして、あなた、字も……」
「……読めん」
「…本当に…っ……」
 何を言おうとしたのかは分からないが、古泉は言葉を詰まらせて俺を抱き締めた。俺には何がなんだかさっぱりだ。
 だが、古泉に抱き締められるのは悪くない。むしろ、嬉しい。
 ただ気になるのは、
「…お前、服濡れたぞ?」
「…ああ、そうですね…。少しくらい構いませんが……」
「お前の方がよっぽど風邪引きそうだな」
 と俺は笑って、
「もういっそ一緒に入るか? こんだけ広いんだし」
 と言ったら、古泉は顔を赤くした。恥かしいのか?
「恥かしいといいますか……その、色々と不都合が起きそうで…」
 しどろもどろになりながら、古泉はそんなことを言う。その顔がどんどん赤くなる。
「不都合ってなんだそりゃ?」
「…い、色々とあるんですよ……」
「訳が分からんな」
 そう呟いてから、ふと気がついた。もしかして、と思いながら口にする。
「…やっぱり、俺みたいな汚いのとは一緒に風呂なんて入れないか?」
「…は?」
「だったら、俺は後でいいから、お前先に入っちまえよ。大体、こんな綺麗な風呂に俺が先に入るのなんてどうかと思ってたんだ。俺は後でいいから、」
「ちょっと待ってくださいよ」
 古泉は慌てた様子で俺の言葉を止めた。俺は怒られでもするのかと体を竦ませる。
「どうしてそんなことを思うんです?」
「……だって、俺、汚いから…」
 見た目だけの話じゃなく、俺みたいなのを穢いって言うんだと前に誰かが言ってた。言った奴も相当に穢れてたとは思うが、それにしたって俺が綺麗じゃないのは明白だ。
 だから、と思ったのに、
「汚くなんかありませんよ」
 と古泉は優しく俺を抱き締めてくれる。
「確かに今は汚れてしまっていますけど、洗えば綺麗になります。それに、あなたの心はとても綺麗なままだと、…まだほんの少ししか話してもない僕にも、分かりますから」
「んなこと……」
「一緒にお風呂に入ってもいいですか? …その、途中でおかしなことをするかもしれませんけど」
「…嫌じゃ、ない、のか……?」
 不安で堪らない俺に、古泉は本当に王子様みたいに笑ってくれる。王子様なんて見たことないが、きっとこんな風に笑うんだろう。
「ええ。あなたこそ、嫌な思いをするかもしれませんよ?」
「…平気だ」
「では、失礼しますね」
 そう言って古泉は俺の体をそっと離すと、自分の服に手を掛けた。まだ着替えていなかった白い軍服を脱いでも、古泉はやっぱり王子様みたいだった。
 白くて、綺麗な肌。いくらか見える傷跡は、俺のとは全然違う、名誉の傷って奴なんだろう。服の上から見た時よりもずっと立派に見える胸板とか腕なんかはよく鍛えてあって軍人らしいのだが、それでもやっぱり古泉は王子様だ。綺麗過ぎる。
 古泉は、俺の着ていたぼろきれとは違うところに軍服を放り投げた。それはやはり壁に吸い込まれるようにして消えたが、処分したのとは違うんだろう。
「自動でクリーニングされるようにしてあるんですよ。無精者なものですから」
「凄いな…」
 感心する俺に、
「世話を焼いてくれる人が誰もいないだけですよ」
 と古泉は恥かしそうに言っておいて、シャワーを取った。
「さて、まずは頭から洗いましょうか」
「自分で出来るぞ?」
「せっかく一緒に入ったんですから、これくらいさせてください」
 優しく微笑んで、古泉は俺を小さな椅子に座らせて、シャワーを俺に近づける。
「下を向いててくださいね。掛けますよ?」
「ん……」
 降り注ぐお湯が、頭から肩へ背中へと流れ落ちて、体が竦む。
「…っくぅ……」
「すみません、しみますか…? 酷い傷ですからね…」
「浅い、から、平気だ…。手当てするほどでもないし……」
「…でも、念のため、お風呂から上がってから消毒くらいさせてくださいね」
「……分かった」
 大人しく頷いた後は黙り込んだ。人に頭を洗われるのなんて初めてで、身を硬くするしかなかったのだ。
 初めてだったが、多分、古泉はうまいんじゃないだろうか。俺の髪を梳いてくれる手も優しくて、気持ちいい。うっとりして、そのまま眠っちまいそうになるくらいだ。
「体も洗いますよ?」
 と言われるのに、そのままこくんと頷いちまうくらいには気持ちがよかった。
 肌に触れる他人の手を気持ちいいと思える日が来るなんて思わなかったのに、古泉にされるととても気持ちがいい。しかもそれは、とても穏やかなのだ。
 気持ちよさのあまり、古泉の体に自分の背中をもたれかけさせちまったくらい。
 だが、どうやらそれはまずかったらしい。古泉がぎくりと体を震わせたのが分かる。
「…っ、すまん」
 慌てて体を離した俺に、古泉は真っ赤な顔をして、
「い、いえ…僕の方こそ、すみません……」
 と目をそらす。
「…なんでお前が謝るんだ?」
 戸惑いながら古泉を見つめた俺は、その理由に気がついて微笑した。
 なんだ、そういうことだったのか。
「だったら、そう言ってくれたらよかったんだ」
「何がですか…?」
 赤くなったまま、困惑に満ちた声を出す古泉に、俺は笑顔を向ける。それがちゃんと古泉に伝わればいいと、自分では過剰に思えるくらいの笑みを。
「特別って、そういうことなんだろ?」
「は? あの、そういうこととはどういう……」
「俺のこと、好きってことじゃないのか?」
 違ったか? と不安になる俺に、古泉の顔が一層赤くなる。てことはつまり、外れてないんだろう。
「それは、その……」
「好きだから、俺のことを特別扱いして、連れて帰ってくれたんだろ? だから、俺の世話を焼いてくれるし、そんな風になったりするんだろ?」
 と古泉の股間で反応しかかってるものを見つめると、それがかすかに震えた。
「……っ、すみません…。こんな、浅ましい……」
「嬉しい」
「……は?」
 短く呟いた俺に、古泉は信じられないというような顔をする。
「嬉しいって、言ったんだ。…こんな汚い俺なのに、お前と違って綺麗じゃないのに、好きになってくれて、嬉しい。…勃ってくれて、嬉しい」
「た…っ」
 真っ赤になって絶句する古泉に、俺はくすくすと声を立てて笑った。
「純情なんだな、古泉は」
「っ、か、からかわないでくださいよ…!」
「だって、そうだろ? …俺のことなんて、もっと蔑んだって不思議じゃないのに、逆に、大事にしてくれるなんて。…それも、好きだから、か?」
「……そうですよ」
 観念したように、古泉は呟いた。
「あなたが好きなんです。ですから、一緒に入浴なんてしない方がいいと思ったんですよ。……あなたを前にして、欲望を抑えられるとは思えませんでしたから」
 恥かしそうに言う古泉に、俺は首を傾げる。
「なんで抑えなきゃならないんだ?」
「…だって、お嫌でしょう? こんな風に浅ましい欲望を向けられるのは」
「……そりゃ、俺だって、酷い奴とか怖い奴に、欲だけ叩き付けられるのは嫌だが、お前は酷くも怖くもないだろ。それに、…俺のこと好きって言ってくれたじゃないか」
「……ええと…」
「だから、嬉しい。なんで世話焼いてくれるのかって理由も分かってすっきりした」
「…嫌じゃないんですね? 本当に……」
 まだ疑うようなことを言うので、
「嫌じゃない」
 と答えて、俺は古泉に抱きついた。
「わ…っ…!?」
「嬉しい。なあ、俺、まだちゃんと笑えてないか? お前には伝わってないか? こんなに嬉しいのに」
 そう至近距離から聞くと、古泉は照れ臭そうにしながらも、
「いえ、流石に分かりますし、…可愛らしい笑顔だと思いますよ?」
「……可愛らしい?」
 きょとんとする俺に、古泉は小さく笑って、
「ええ、可愛いです」
「……なんか、そんなこと言われたことないから、凄い違和感だな…」
「あなたは可愛いですよ。……あなたが、好きなんです」
 そう甘く囁いてくれるのはいいが、
「…ええと、こういう時ってどう答えたらいいんだ? 嬉しいって言ったらいいのか?」
「…そうですね、多分それでいいと思いますよ」
「じゃあ、嬉しい」
 ぎゅうっと古泉を抱き締める。少しくらい傷が痛んでも気にならないくらい、嬉しい。嬉しくて、なんだか物足りない。
「何て言ったらいいんだ? もっと、言いたい。嬉しいなんてのじゃ足りん」
「ええと……」
 古泉が困った顔をするので、俺も困ってくる。
 俺は、どうしたらいいんだ?
「…そうだ。……なあ、古泉、俺に色々教えてくれ。文字も読めるようになりたい。そうしたら、言葉だって覚えるだろ? 覚えられたら、もっといい言葉をいえるはずだろ?」
「…ええ、そうですね。僕でよければいくらでもお手伝いしますよ」
 そう古泉は嬉しそうに笑ってくれる。
「俺のことが好きだから?」
「…ええ」
「…嬉しい」
 強く抱き締めると、体がぴったりくっつく。そうなると、古泉の勃ち上がったそれが俺の体に触れてくる。それが酷く嬉しい。
 もし、言葉だけで俺を好きだなんて言われても、俺は信じられなかったかもしれない。それを信じるには、俺と古泉じゃあまりに違いすぎると思っただろう。
 だが、裸になってるから、包み隠さず伝わってくる。古泉の熱も、心臓の鼓動も、全部。
 だから俺は信じられる。
「古泉、」
 と俺は古泉を呼ぶ。まだ赤い顔をしてて、かっこいいなんて言えないような古泉。うん、多分こういうのを可愛いって言うんだろうな。
「なんでしょうか…」
 心臓をドキドキさせながら、古泉が答える。
「…するか?」
 他にいい言い方を思いつかなくてそう聞いたら、古泉は一瞬理解出来なかったらしい。
「するって何を……」
 と言いかけて、やっと気付いたのか顔を真っ赤に染め上げる。うん、可愛い。
「ま、さか……」
「だって、好きなんだろ? 好きならするもんじゃないのか?」
 もっとも、俺は好きだからなんて理由でしたことはこれまで一度もないわけだが。
「古泉となら、嫌じゃなくて嬉しいから、…しないか?」
「そんな…。でも、だめですよ。あなたは僕のことなんて好きじゃないんでしょう?」
「…好きかどうかなんてのは確かに分からん。誰かを好きになったことなんて一度もないからん。…だが、嫌いじゃないなら、好きってことでもいいんじゃないかとも思う」
 それに、と俺は古泉のそれに指を滑らせる。硬くなってきてる。
「っく……」
「お前も、このまま放置されても、困るだろ? そりゃ、ひとりで何とかするってのもありかも知れんが、ひとりよりは二人の方がいいもんだろうし」
「しかし、」
「…それとも、俺とするのは嫌か?」
 じっと古泉を見つめると、古泉は困り果てた顔で俺を見つめ返すだけだ。つまり、
「…嫌じゃないんだよな?」
「……嫌なわけ、ない、でしょう」
 ぽつぽつと古泉は呟いた。
「…僕だって、年頃の男ですからね。好きな相手にそんなことを言われて、嫌なわけありません。でも、……あなたがそんな風に簡単に、そんなことを出来るのが、…あなたの置かれていた境遇のせいだとしたら、……悲しいです…」
「…悲しい?」
「ええ」
「……なんでだ?」
 分からん、と俺は首を捻る。
「そりゃあ確かに俺は今更誰に何をされようが大して心の傷にもならんとは思うがな。…自分からしたいなんて、簡単に言えるつもりもないぞ。……お前が俺のこと好きなんだって分かるから、伝わってるから言ってるんだ。そうじゃなかったら、俺みたいな汚れた体を、お前みたいな綺麗な体と重ねるのなんて、お前がそうしたいって言っても固辞するぞ」
「そんな、あなたは汚れてなんて……」
 言い募ろうとする古泉には悪いが、俺は笑ってそれを止めた。
「ああ、そうやってお前が言ってくれるから、…俺から、誘うような真似が出来るんだろ」
 言いながら、段々恥ずかしくなってきたぞ。大体俺は元々リップサービスなんてのは出来ないタチなんだ。
「……どうする? 最後までしたくないんだったら、手とか口とかでも出来るぞ」
 俺の言葉に、古泉は恥かしそうに顔を伏せながら、それでもなんとか視線をこちらに戻し、
「……あなた、本当にそれでいいんですか?」
 と怨みがましく聞いて来るから、
「俺の希望を聞いてるととって答えるが、俺としてはいっそのこと最後までしたいぞ?」
「な…っ!?」
 絶句する古泉に、俺は精一杯笑う。
「前に、誰かが言ってた。好きな相手とするのは、そうじゃない相手よりもずっといいって。それに興味があるし、お前見てたらしたくなった」
 恥らいの欠片もない俺の言葉に、古泉はそれでも苦笑してくれる。
「…本当に、あなたって人は……」
「嫌いになったか? それとも呆れたか?」
「いえ。…その率直さも、好きですよ」
 そう微笑んで、古泉は俺の顎に触れてきた。
「…キスしてもいいでしょうか?」
「ん……」
 俺は頷く代わりに薄く目を閉じる。古泉の顔が近づいてきて、唇が柔らかいものに触れる。
 あ、と戸惑うほどに体が震えた。
 どうしたらいいんだ? …なんだか分からんが、酷く気持ちいい。触れてるだけのキスなのに、体の中が熱くなる。
「ん、古泉……もっと…」
 はしたなくねだって、自分から唇を開く。引かれたりしないかとドキドキしながらの行為は、手探りそのもののようで、数え切れないほど体験したそれとそう変わりはしないはずだってのに、なんだか酷く緊張する。
 舌を絡めて、古泉のいい匂いを胸いっぱいに吸い込んで、甘い唾液を舐め取る。それだけで、じわんと体の中に熱が広がって行く。
「あ……っ、ん、古泉……したい…」
 抱き締めて、甘ったれた声を上げる。はふはふと興奮した息を吐き出しながら。
「…本当に、いいんですね?」
「ん、して、ほしい…っ」
 熱っぽく古泉を見つめ返したら、床の上に優しく寝かされた。
「止まれませんよ?」
「止まらなくて、いい、から……」
 甘えた声でねだりながら、俺は自分で脚を開く。
「…自分で、して、いいか…? なんか、凄い……俺、変だ…。我慢出来ない…」
 そううわ言のように呟く俺の声は興奮に震えていて、どうにもおかしい。
「こんな、なったこと、ないのに……、お前が好きとか言ったから、か…?」
「…だとしたら、嬉しいですね」
 そう微笑んだ古泉がまたキスをくれる。
「して、いいか…?」
「ええ、どうぞ」
 許可をもらえたので、俺は開いた脚の間に自らの指を埋める。そこは既にいやらしくひくついていて、自分の指にすら食いついてくる始末だ。
「…っ、なんか、すまん…」
「何を謝ってるんですか?」
 言いながら、古泉は優しく俺の体を撫で上げる。その唇を俺の首筋につけて、ちゅっと甘い音を立てる。
「ひぁっ、あ、…だ、って、こんな体で本当にいいのかって、思っちまうんだよ…」
「…嫌なんて、言いましたか?」
 そう言って見つめてくる古泉の目は、少しだが、怖かった。怒ってるんだろうか。
「…い、って、ない……。すまん……」
「…そんな風に意識していただけるのは嬉しいですけどね」
 ちゅ、ともう一つ甘い音を肩に落として、古泉は俺の胸に指を滑らせた。
 赤く染まり、つんと勃ち上がったそれは、指でくすぐられるだけでも酷く感じてしまえる場所だ。
「ふぁ、んん……! あ、古泉…っ、そこは……」
「嫌ですか?」
 心配そうに、と言うよりは俺の反応をうかがっているのだろう。その目に蔑むような色がないことに安堵する。
「…や、じゃ、ない……。もっと、して……」
 と自分から胸を突き出すようにしても、古泉は嬉しそうに笑ってくれた。
 古泉の手が、俺の体に触れるだけで気持ちいい。見つめられるだけでも感じてしまいそうになる。自分の中をまさぐることさえ愉しくて、体が震えた。
「…っ、こいずみ、もう……っ」
 耐えられなくなったのは俺の方だった。体が近づくたびに腹で擦れる古泉のそれを中に感じたくて、腰が揺れたほどに、欲しくて堪らない。
「いいんですか?」
「ん……もう、欲しい…から……」
 震える脚を抱えて開くと、そこがひくつくのが分かる。
 古泉は少しばかり意地の悪い笑みを浮かべて、
「…あなたが欲しがってくれて、嬉しいですよ」
 などと恥かしくなるようなことを囁き、そこに顔を近づける。吐息がそこにかかる。
「うぁっ、そ、んな、見るな…!」
「見たいんですが……だめですか?」
 そう上目遣いで聞いてくるな!
「イ…きそうに、なる、から……!」
「イってもいいですけど…」
「や、んなの、嫌だ…っ! 俺は、…っ、お前ので、イきたいんだ…」
「……本当に、可愛らしい人ですね」
 優しく囁いて、古泉は俺の膝頭にキスをしてくれた。そうして、俺の望むように、その熱を押し当ててくれる。
「ふ……っ、ぁ、…熱……」
 ドキドキする。体温が跳ね上がる。欲しくて堪らなくなる。
「あ…、はや、く……ぅ…」
「…ええ」
 古泉が力を込めるのを感じながら、俺は自分の体の力を抜く。それをきちんと飲み込めるように。気持ちよくなれるように。
「ひぅ、ぁ、…っ、んん……! や…、へん、だ…これ……ぇ…」
「どうしました?」
 心配そうに動きを止める古泉に、俺はふるふると首を振る。
「とめ、んな……!」
「……ええと…」
「…っ、気持ち、よ過ぎて、変だ…!」
 訴えながら、古泉の体に縋る。
 ふわふわする。熱い。とろけそうになる。ドキドキする。
「あっ…ふ、…ぅんん……っ! 古泉…っ、気持ちいい…!」
 何か、何でもいいからとにかく喋るなり考えるなりしてないと、頭の中がおかしくなりそうだった。無茶苦茶に言葉を口走る俺に、古泉は最初ぽかんとしたような顔で見つめていたが、やがてにやりと意地の悪い笑みを浮かべたかと思うと、
「…嬉しいですよ」
 と囁きながら、腰を使い始める。
「ひぅっ、あ、っ、ん、やらぁ…!」
「止めるなと言ったのは、…っは、あなた、でしょう…?」
「やっ、ら、って、…っくひぃ…!」
 ふひ、ふあ、と間の抜けた声を上げる俺の様子を古泉はじっと見つめている。そうして、俺がどうされると感じるのかを読み取ったのか、俺の弱いところばかり狙って突き上げてくる。
「やあぁっ、も、死ぬ…っ、死ぬから…!」
「死なせませんよ。…は……っ、…こちらこそ、おかしくなりそうです…。こんなに、…っ、締め付けて……」
「ひっ、ぃ、あぁあ…!!」
 最奥を強く突き上げられた俺は、大きく体を跳ねさせて、先に達してしまった。しかし古泉も、俺がきつく締め付けたからか、俺の中に熱を吐き出す。
 それさえ気持ちよくて、俺はもう一度軽くイった。
「ふはぁ……」
 余韻に震えながら吐き出した息が熱い。凄い。なんかもう他に言いようがないくらい凄かった。
「大丈夫ですか?」
 俺が疲れたとでも思ったんだろうか。古泉は心配そうに言いながら俺の中から退くと、俺のためにコップに水を注いで来てくれた。
 俺はもう、非常に恥かしいのだが、酷く甘えてやりたい気分だったのだろう。
「…飲ませてくれ」
 などと言いながら、仰向けになったまま起き上がろうともしない。
「え……ええと…」
 困ったような顔をいくらか羞恥に赤らめて、古泉はコップと俺とをしばらく見比べていたが、やがて意を決したかのように水を口に含んだ。
 その唇が俺のそれに重ねられ、いくらか生温くなった水が流し込まれる。
 俺はそれを残さず飲み込んで、むしろ古泉の唾液さえ貪り尽くしたくて、舌を伸ばす。くちゅりという音がするのさえ、気分がよかった。
「……なあ」
 俺は綺麗な天井を見上げながら呟くように言った。
「…信じられんくらい気持ちよかったんだが、これってやっぱり、俺もお前のことを好きだってことなのか?」
 問われた古泉は真っ赤になり、
「…じ、自分で考えてくださいよ」
 とか何とか言いながら湯船に逃亡を図ったので、追いすがって抱き締めてやった。
「王子様が迎えに来るなんて、思いもしなかったんだがな」
「は? 王子様…ですか?」
 訳が分からないというように戸惑う古泉に、俺はにんまりと笑う。これくらい笑えば伝わるだろ?
「お前以外に誰がいるんだ?」
 そう笑って、古泉にキスをした。
 真っ白くてかっこいい王子様は、真っ赤になると酷く可愛いんだな、と思いながら。