鬼畜ってなんですか?
という疑問が迷走した挙句、
文字通り、
「鬼×畜生でいんじゃね?」
ということになった酷い代物
だから多分これは鬼畜だと思うのです
多分

























































愛があれば



種族の差なんて乗り越えられるとか言ったやつ、出て来い。
乗り越えられるかそんなもん。
「冷たいですねぇ」
そう言っているお前の目の方がよっぽど冷たい。
「これは生まれついてのものですので、諦めてください。あなたこそ、怯えて震える耳が可愛らしいですよ。でも、そこまで怯えなくてもいいんじゃないかとも思いますけど」
「これだって、生まれ持っての本能のせいだ。俺のせいじゃない」
「これでも愛し合う恋人同士なんですから、そんなに怖がらなくていいんですけどねぇ…」
どっちも人間じゃないがな。
「そうでした」
くっくっといかにも悪そうに喉を鳴らして笑う俺の恋人――と仮に呼んでおくか――である古泉は、鬼神である。
頭に立派な角はあるし、細く見えても信じられないくらいの腕力もある。
一口に鬼と言っても色々あり、自分は一応かなり古い時代から続く自然神の流れを受けたものだと古泉は言う。
他の宗教が盛んになるにつれて忘れ去られ、変容して鬼となったのだと。
だが、そんなもん、こっちからすりゃあまり変わらん。
高級な鬼だろうが下等な鬼だろうが、何が違うってんだ?
精々、話が出来るか出来ないかぐらいの違いだろ。
そう言う俺はというと、これまた人外にあたる。
鬼神がいる、ということは、畜生道があって畜生がいていいということなのかなんなのかよく分からんが、俺はその畜生である。
具体的に何かと言うと、牛である。
牛。
より正確に言うなら、ライン川下流に起源を持つ大型種であり、欧米ならいざ知らず、日本では主に乳用に用いられる、ホルスタイン・フリーシアンである。
雄に生まれちまった乳牛の悲しいセオリー通り、生まれるなりとっとと去勢され、そのまま市場へドナドナされる途中、古泉なんかに見つかっちまったのが、運の尽きだった。
その鬼神の力でもって事故を起こされ、俺や兄弟たちを積んでいた家畜運搬車両が横転。
パニクって他の牛共同様逃げ出したところを古泉にとっつかまり、お持ち帰りされちまったのだ。
そのことについて、恨み言は言うまい。
お持ち帰りされなかったらまず間違いなく、俺はどこかの食卓に上っていただろうからな。
それに比べりゃ、生きてるだけマシなのかも知れん。
「マシだなんて、酷いですよ。…こんなに愛してるのに」
そう古泉は言ってくれる。
実際、愛してくれてはいるのだろう。
俺だって、その、なんだ?
命を助けてもらったし、こうして生かしてもらってるし、愛してると日に何百回となく囁かれて、ほだされてないと言ったら嘘になる。
だから多分、人間に言わせると恋人同士と呼べるような関係なのだろう。
それにしても、だ。
種族の差というものは恐ろしい。
食生活なんかの生活習慣は勿論のこと、価値観や物の考え方があまりにも違いすぎるのだ。
俺は草食動物だし、そもそも玉を抜かれた哀れな家畜なので、それこそ草を食ってのんびり暮らせたらそれでいいと思う。
ところが古泉はそうじゃない。
その愛し方が、あまりにも激しいのだ。
それこそ、動物や人間の感覚で言ったら、常軌を逸しているとしか言いようがないほどに。
今だって、わざわざ自分と同じ人間型にした俺を背後から抱き締めて、
「愛してます」
なんて囁きながら、俺の黒くて小さな耳を食んでいる。
「…っぃ、やだって……」
「何がです?」
素知らぬ顔で、その尖った牙を薄い耳の皮膚に、試すように立てられる。
「ひっ…!」
息を飲むような声を上げ、身を固くする俺に、
「可愛い」
と古泉は告げて、軽く凹んだだろう牙の痕を優しく舐める。
「や……っ、く、すぐったいだろ…」
身を捩って逃れようとすると、更にきつく抱き締められる。
それこそ、骨を圧し折られるんじゃないかと思うほどに強く。
「っ、痛いって…!」
「だって、」
言い訳をするように古泉は囁き、ぬらっと長い舌で俺の耳の付け根まで嘗め回しながら、
「本当はもっと強く抱きしめたいんです。それほどに、あなたが愛おしいから……」
「骨…っ、折れるから…!」
「…それがネックなんですよね……」
と古泉は慨嘆調で呟いた。
「僕にもう少し力があれば、あなたも僕と同じにしてあげられるのに。そうしたら、どんなに力を込めたって平気ですし、ずっと一緒にいられるでしょう?」
「…あー……そのためにお前が努力してくれてんのは分かってるから、そんな情けない声を出すな」
なんとか手を伸ばして、その頭を撫でてやると、大きな角に手が触れる。
それは急所のようなものらしいのだが、古泉はそれを俺に触らせてくれる。
そこまで愛してくれている。
そう思うと、俺だって応えてやりたくはなるのだが、それでも嫌なことはある。
「愛してます」
「うん」
「あなたが好きなんです」
「分かってる」
「……あなた、は…?」
不安げな声に、俺は言葉を詰まらせる。
頷いてやりたい気持ちはある。
しかし、だ。
頷いたら最後、どうなるかは目に見えている。
だから、頷きたくない。
古泉は心細げに自分の腕を掴んでいる。
…俺の腕をそんな強さで掴んだら、血を見るのが分かっているから。
それを見ると、胸が苦しいような気持ちになって、だから、俺は、この後どんな目に遭わされるか分かっていて、古泉の手に自分のそれを添え、
「……俺も、好きだ」
と絞り出した。
「愛してます」
そう言って、古泉は俺の体をくるりと後ろ向かせて抱き締め直しながら、唇を重ねた。
人より長くて器用な舌が、驚くほど奥まで伸びて、俺の口内を犯す。
それこそ、喉まで届いているんじゃないかと思うほどのそれが苦しくて堪らない。
最初にそれをされた時は、本当に食われるんじゃないかと怯えたくらいだった。
今は、流石にそうは思わないし、喉を開けばやり過ごすことも出来ると学んだだけマシだとは思う。
自分のものでない唾液が喉を伝い落ちて行くのを感じながら、苦しさに涙を滲ませると、古泉がやっと俺を解放してくれた。
「すみません、つい…」
と謝るってことはまだ理性が残ってる証拠だ。
これくらいでやめてもらえればいいのだが、そうはならんのだろうな。
俺は動物で、古泉がわざわざ余計なことをするほど親切であるはずもないので当然素っ裸だし、古泉はと言うと申し訳程度に薄い腰布を纏っている程度なのでその熱が昂ぶればすぐに分かる。
そうして、今も肌に触れているそれはじわじわと熱を持ち始めていた。
「…頼むから、せめて加減してくれ」
本気で懇願しながら、無駄だろうなとも思う。
仕方ないんだ、種族があまりに違うんだから。
「……頑張ります」
「…頼むぞ」
古泉の唇がもう一度俺のそれに触れ、それが、その舌が、今度は顎のラインをなぞる。
喉に触れられると、喉を食い破られるのではないかという恐怖に体が竦むのは本能的なものだ。
本当に古泉がそうすると思ってるわけじゃない。
それでも古泉は傷ついたように動きを止めるから、
「…分かってる、から」
と震える声でなんとか返す。
「仕方ない、だろ…、本能なんだ……」
手を伸ばして、古泉の背中に腕を回す。
震えながら、それでもなんとか抱き締めて、
「…好きだから……」
「…ありがとうございます」
古泉はそう言って行為を続ける。
その言葉遣いも、俺を拾ってからそうしてくれたのだ。
俺があまりに怯えて、物も食えないほどだったから。
俺を少しでも怯えさせないためだけに、俺なんかに、本来は神様の一種であるらしい古泉が敬語なんて使って。
そんな風に愛してくれるのは素直に嬉しい。
……だが、本当に、種族の違いってのはつらいものだ。
「好きです…」
囁きながら、古泉も堪りかねたのだろう、俺の肩に牙が立てられる。
「ひぅ…っ!」
押し殺そうとしても殺しきれない悲鳴に喉が引きつる。
痛い痛い痛い痛いって!
「…っ、すみ、ません……」
さっきよりもっと苦しそうな、切羽詰った声で、古泉は言い、慌てて口を離した。
その唇の端が赤いのは、間違いなく俺の血なんだろう。
もうそろそろ限界だろうな、と思いながら、それでも俺は逃げられない。
それくらいには、古泉が好きなんだろう。
諦観めいたものを感じながら、
「…もう、好きにしろよ」
と生贄になるような気持ちで体を投げ出す。
「好き……に…」
古泉のもとから細長い瞳孔が更に細くなる。
人でない、動物でもない、魔性の目だ。
「…いいんですか? 好きにしちゃいますよ?」
その唇は酷薄な笑みを刻む。
それが怖いのは本能で、それさえ愛しいのは……どの部分で感じてるんだろうな。
「……せめて、殺さないでくれ」
「殺しません、壊しもしません。…だって、僕は本当にあなたが好きなんですから」
そう言って、古泉はもう一度キスを寄越したが、それはさっきより激しく、全てを暴き立てるようなものだった。
唇をなぞり、割り開き、全ての歯の形さえ確かめるようになぞり、舌を絡めとり、絞り上げ、喉の奥の奥まで犯すようなそれに、俺が堪りかねて咳き込み、涙を流しても、もう古泉は止まらない。
止まれないのだ。
「まだこれからですよ」
その声は冷たさを増し、眼差しも冷ややかだ。
だが、それこそが愛情の現れなのだと古泉は言う。
鬼神だから、あまりに俺とは違い過ぎるから、そう思えるだけなのだと。
愛しいほどに目が冷たくなる。
興奮するほどに、その動作は冷たさを増す。
一度飛ばしてしまえば、理性なんてコトが終るまで戻らない。
俺はその発作のような嵐が過ぎ去るのを待って耐えるしかないのだ。
「愛してますよ」
嘲笑うように古泉は告げる。
その歯が俺の胸の突起に触れ、がりっと音がしそうなほどに歯を立てる。
「いぁっ…!!」
「ここ、好きなんですよ」
クス、と笑いながら古泉はそれを更にきつく吸い上げる。
「つまみやすいくらいに大きくて、でも感じやすくて、おまけに、」
「ひっ、ぅ、……やぁぁ…!」
きゅうっと搾られたそこから、黄ばんだ白色をした液体がぷしゅりと噴出す。
「い…っ、や、いやぁ…」
「こんな風にお乳が出るなんて」
「痛いって…!」
「そんなこと言って、…気持ちよさそうな顔になってますよ?」
意地悪なことを囁きながら、古泉は更にそこを押し潰す。
「ねえ、どれくらい出るか、徹底的に搾ってあげましょうか?」
「や、だぁ…」
ひっくと大きくしゃくり上げて泣いても、古泉を止める役には立たない。
むしろ、
「…ああ、可愛い。綺麗な涙ですね」
と言われ、余計に涙を溢れさせられるだけなのだ。
涙を止められればまだいいだろうに、これもまた本能的なものなのか、止まらない。
泣きじゃくりながら、その痛みが少しずつ別のものにすり替えられる恐怖に震えた。
嫌だ、感じたくない、ない、のに、
「ふふ、気持ちよくなってますね」
「あ……っ、ぅ……ふぅ…」
本当ならなくなったはずの欲が、体の中でくすぶる。
煽り立てられた熱が、内側から体を焼くような気持ちがした。
「こ、いずみ…っ、も、やだ…! そこばっか、やだぁ……」
泣きながら訴えると、古泉は酷薄に笑う。
「嫌と言うくせに、気持ちいいんですよね」
ほら、と古泉はそこを押し潰す。
何度も無理に乳を搾り出されたそこは、もう勢いもなくなって、たらりと白く濁ったものをこぼすだけだ。
真っ赤になるほど熱を持ち、空気が触れるだけでも痛いほどに感じる。
「いやらしい」
罵るように、古泉は冷たく言う。
「好きですよ、そんなところが」
「ひっ……く、……うぅ…」
すすり泣けば、古泉は楽しげに俺を地面に押し倒した。
反射的に逃げを打つ俺の体を無理に押さえ込み、
「逃げないでくださいよ。…恋人でしょう?」
と呪いのように囁く。
そうして俺の腹に爪を立てるように指先を滑らせ、幼いままの姿形のくせに、与えられた刺激に反応して固くなり始めているものを指で弾くと、
「ここも、好きですよ。体はちゃんと立派に育ったのに、ここだけはいつまでも子供のまま、可愛らしくて。……ふふ、一口で食べてしまえそうですね。そのまま完全に去勢しちゃいます?」
「や…っ、食べ、ないで……」
泣き喚く俺を見ながら、古泉はそれを口の中に含み、熱い口内で転がす。
「…っひ、ぃ……やだぁ…やだ……」
子供みたいにそう泣くしか出来ない俺を冷たく見つめて、古泉はそれを味わう。
舌でつついて、包み込んで、甘噛みして、時には本当に歯を立てて、それを勃起させる。
それは、口の中に含んでいても喋る邪魔にならないほど小さいままだから、そのまま喋りもする。
「少しくらい歯を立てたって痛くないでしょう? 去勢された時には本当に切られてしまったんですし」
ここを、と小さなものの付け根を舐められる。
そこに薄っすらと残る傷跡をなぞるように。
「やあぁっ…!!」
「ああ、それにしても勿体無いですね。せめて、あなたが去勢された時にあなたを見つけられていたらよかったのに」
どういう意味だか分からんが、どうしたって嫌な意味でしかないだろう。
古泉はニヤリと極悪人より恐ろしい笑みを浮かべ、
「僕でない他の誰かが、あなたの精巣を食べてしまったかと思うと悔しくてなりませんね」
「んな…っ!」
「だって、そういうものでしょう? 去勢した子牛の精巣の扱いなんて」
嘲笑いながら、古泉はちゅぷちゅぷと音を立ててそれを吸い上げる。
むず痒いような、ぞっとするような、訳の分からない感覚が怖くて、余計に涙が出る。
もう枯れつくしてしまいそうだと思うのに、古泉の動きは止まらない。
俺の脚を広げさせるだけでなく、腰が浮き上がるほどに持ち上げて、何もかもをその目にさらしてしまうと、苦しさに喘ぐ俺を脚の間から見ながら、
「もうすぐ、あなたのことも気持ちよくさせてあげますからね」
と言ったその舌を、窄まりに這わせる。
「いや…っ! やだ、やだぁ……」
「嫌じゃないでしょう? …気持ちいいことだって、好きなくせに。畜生なら畜生らしく、欲を貪ればいいんですよ」
冷たく言い放った後は、そこを広げる行為に没頭する。
器用すぎる舌が、ぬらりと入り込んでくる感覚に喉を引きつらせる。
「ひ…っあ、ぁ、やらぁ……!」
それが中の一点を狙って舐め上げ、強く押し上げると、背中が反るほどの快感に襲われた。
「やっ、あ、…っ、ひぃあ…っ!!」
ぞくぞくと体が震える。
怖い、怖い、怖い。
「ふふ、可愛い…」
そう言いながら、古泉は冷たく俺を見る。
その冷たさにさえ、ぞくりとしたのは、恐怖のせいでもなければ悪寒のせいでもないんだろう。
体が熱くて、その熱さをとにかくどうにか欲しくて、俺は自ら手を伸ばす。
「…っも、ぅ、早く、してくれ…!」
「おねだりの仕方は教えたでしょう?」
意地悪く笑いながら、古泉は舌の代わりに押し入れた指先で、爪を立ててるんじゃないかと思うほどに強く押し上げられる。
目の前に火花が散っているような気がするほどの快感に呑まれる。
溺れ死んでしまいそうだと思いながら、必死に古泉に縋りつく、
「お、れの、中…っに、古泉の、入れて…! こ、いずみ、の、おっき、いの、入れてぇ……!」
見っとも無いほどに泣き喚く俺に、古泉は残酷に微笑む。
「いいですよ」
俺のとは比べ物にならない熱が押し当てられる。
それを飲み込みたくて収縮を繰り返すそこに、その熱をしばらくこすりつけては、意地悪く俺を焦らす。
そのくせ、こちらの油断をついていきなり最奥を突き上げた。
「か…っ、は……っ!!」
苦しさに息が止まるかと思った。
びくんと弾む脚を押さえつけられ、無茶苦茶に犯される。
体の中を全て埋められ、頭の天辺までえぐられているかのように苦しいのに――ぞっとすることだが――、気持ちいいと思えた。
俺は古泉の背に爪を立てる。
それでも、あまりに造りの違う古泉の背には、髪の毛ほどの細い傷一つつけられやしない。
俺は苦しさに咽びながら、
「…っき、好き……だ、こい、ずみ……が、好き……」
と叫ぶ。
「僕にこうされるのが、じゃないんですか?」
そう冷たく告げるのがこいつの、鬼神の愛情表現なんだと分かっていても、そんなことを言われると苦しくなる。
切なくて、涙が溢れる。
ああほらやっぱり、愛があったって種族の差なんて乗り越えられやしないんだ。
俺は泣き続けながら、それでも古泉を抱き締めた。
その冷たい体が、少しでも暖まればいいと願いながら。
「もっとしてほしいってことですよね?」
と言われても、違うと返すことも出来ず、
「ひぃっ…! ふあ、っぁ、ア、…やぁぁ――…!!」
と叫ぶことしか出来ない。
それさえ、難しく感じられた。
弱い場所をしつこく攻め立てられて、俺の体は感覚だけで何度も絶頂を迎える。
幼いままの、睾丸もないものは、勃起することは出来ても熱を吐き出すことは出来ない。
ひりつくほどに嬲られた場所は、今更熱塊を引き抜かれたところで、開いたまま、間抜けな姿をさらすに違いない。
そうなっても、古泉は止めてくれない。
「っ、も、やだぁ…! 無理……ぃ…」
そう訴えても。
「大丈夫でしょう? いくらだって。そもそもあなたはどうしたって出せないんですし、それなら際限なく、いくらだっていけるはずじゃないですか」
「ひ、っど……ぃ……」
恨み言も、今の古泉には睦言くらいの甘さしか持たない。
にやと口の端を持ち上げて、更に激しく苛むだけだ。
「ひっ、い、やだ…っ、また、イくから……っ!!」
ガチガチと歯を鳴らし、震える俺に、古泉は冷たく言い放つ。
「いくらでもどうぞ。僕も、あなたの中にいっぱい出してあげますよ」
すでに何度も放たれたせいで、俺の中は穿たれるたびにぐぽぐぽと音を立て、古泉の出したものを溢れさせる。
出されたものが逆流して口から溢れないのが不思議なくらい、古泉で満たされている。
それが嫌なのか嬉しいのか分からないまま、俺はとうとう意識を手放した。

それから、どれほど経ったのか。
目を開けると、古泉が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
…心配そう、と言っても、普通ならそうは思えないほど、冷たい眼差しだ。
まだ興奮が冷め切ってないのかもしれない。
「よかった。やっと気がつきましたか」
そう呟く声も、まるで棒読みみたいに聞こえる。
それでも、俺にはちゃんと通じる。
「…愛してます」
その言葉が嘘でなく、紛れもない本当のことなんだと。
愛があれば種族の差なんて乗り越えられるなんてのは嘘だ。
愛があったってどこまでも差はあって、それは乗り越えられず、歴然と存在し続ける。
ただ、それでも、愛があれば通じるものはいくらかあるし、それなら妥協だって出来る。
俺は、くたびれ果てた体を無理に起こして、古泉に抱きついた。
冷たい、悲しいほどに冷たい体。
血の通わない、生き物でないものの体。
それでも、その中には熱い思いがあることを、俺は知ってる。
「…大丈夫ですか。調子が悪いようなら、元の姿に戻した方が楽ですよね?」
「いや…大丈夫だから、」
もう少しだけ、このまま抱き締めていて欲しい。
俺は込められる限りの力を込めて、古泉の体を抱き締めた。