ついったーで妄想し、
だらだら垂れ流したログを若干修正したものです
意味が分からない人は深く考えずに、
「やわらか戦車」についてでもググってください(え
「キョンくん」 と以前ならそうは呼ばなかっただろうに、俺がこんなんになっちまってから嬉々としてその呼称を用いるようになった男が近づいてきたので、俺は警戒も露わにじりじりと退却を始めた。 こいつに近づくのは危ない。 ハルヒや妹に近づくのも危ないことではあるが、こいつの場合ベクトルが違う。 もちろん、不注意が危険な朝比奈さんとも、意図的にやらかすことが案外危うい長門とも大いに違う。 ともあれ、相手が同性なのもあって、俺は遠慮なく古泉を睨みつける。 「近寄るな」 と唸っても聞きやしないで、古泉は俺をその手にひょいと乗せてしまうと、 「今日も柔らかくて気持ちいいですね」 などと言いながら俺の頬を遠慮なくつつき始める。 「あうっ、やめろって…!」 抵抗しようにも腕らしい腕もないこの体では如何ともしがたく、耐えるしかない。 「声も可愛らしいですよね」 うるさい、そんなもん俺のせいじゃない。 「ふふ、髪の感触は前と同じですか? 少し硬くて、はりがあって、触っていて気持ちがいいですよ。長門さんにシャンプーでもしてもらってるんですか?」 「うっ……うぁっ、ん、なもん、お前には関係ないだろ…!」 やばい、黄色信号点燈だ。 古泉は俺を手の上に乗せて、それこそ子猫だの仔犬だの小鳥だの子ウサギだの子ウーパールーパーだのを可愛がるようなノリで撫で回しているだけだ。 自分で言うのもおかしいが、今の俺の体と来たら、張り合えるのは赤子の頬っぺたくらいだと言われるほどに柔らかくて頼りない。 おまけになにやら甘くていい匂いもする。 そんな生き物がいたなら、俺だって耐え切れずに撫で回すことくらいしたかもしれない。 いや、したに決まっている。 おまけに相手が仮にも同性ならば遠慮などしなかったに違いない。 そう思うと、週に一度程度と決めてくれているらしいこいつはまだマシなのかも知れない。 しかしだ。 この触り方が曲者なのだ。 古泉は、俺の頭を撫で、頬をつつき、キャタピラをなぞり、それから顎のラインを撫で上げる。 その動作の一つ一つはとても優しくて、心地好くすらある。 しかしその、心地好くなる、というのが、非常に問題なのだ。 「あっ…やっ…古泉、やめっ…、しつこい男は嫌われるぞ…!」 なんとか絞り出す声が震える。 「まだ触り始めたばかりじゃないですか。そんなに、僕の撫で方はヘタです?」 ヘタではない。 それは太鼓判を押してやってもいい。 しかしだ。 お前の触り方は変なんだよ…!! ……と、そう、文句が言えたらどんなに楽だろうか。 しかし、それでどう変なのか説明を求められたりした日には俺は憤死する。 こんな姿になった時にも思ったことではあるが、今度こそ確実に憤死する。 恥で人は死ねる。 おまけに今の俺は最弱を誇る柔らかな生き物である。 羞恥で内部から爆発してもおかしくないし、古泉から呆れた視線なり、正気を疑うような言葉を投げ掛けられでもしたら、柔肌に傷がついて出血多量になるだろう。 絶対に知られてはならない。 俺がこんな風に撫でられ、つつかれ、頬ずりなんてされて、性的な――おそらくそうと言って差し支えはないのだろうが、別の意味では大いに差し支える――快感を得ているなどと知られた日には、本気で俺はくたばる。 最弱伝説のトップを飾れる自信すらある。 そんな訳で必死に、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ、拷問のような時間を過ごしているのだが、古泉はそんなことを露とも知らないため、 「本当に気持ちいいです」 と何度も言った台詞を繰り返しながら、俺の髪を撫で付ける。 「あう…っ…! はっ…も、やめ……!」 ぞくぞくするなんてもんじゃない。 もはや恐怖だ。 恐ろしいことに、この傾向は徐々に酷くなっている気がする。 最初のうちこそどうってこともなかったはずだというのに、今となっては髪を撫で付けられたり、頬をつつかれるだけでも後ろめたいものに震えそうになるのだ。 幸か不幸か、それは古泉にされる時だけだからまだいい。 これが誰相手でもそうだったりしてみろ。 俺は本当に生きていけない。 こんな可愛らしい外見のくせしてとんだ変態野郎ということになるではないか。 しかしながら、古泉相手にこんな風になっちまうというのも嫌でならない。 そして今日、俺はとうとうこの拷問に耐えかねて抵抗に出た。 古泉の指を思い切り噛んでやったのだ。 「あ痛…っ!」 歯があってよかったと、こんなにも強く思ったのは初めてかもしれない。 もっと日頃から労ってやるべきだな。 「痛いですよ、何するんですか…」 と古泉は俺を机の上に置く。 「お前がしつこいのが悪いんだろ!」 そう怒鳴り返すと、 「今日は機嫌が悪いですね」 と言って、古泉は噛まれた指を舐めた。 ………瞬間、俺は自分の体が桃なんかよりもよっぽど生々しいピンクに染まったのを感じたが、どうしようもない。 「――っ、この、馬鹿野郎!」 と罵って、部室から全力で遁走するしかなかった。 外に出ると子供も車も子猫も怖いが、そんなことさえ忘れるくらい、ショックだった。 気がついた時には俺は公園の隅っこで草むらに隠れていた。 公園の何が怖いって、子供も猫も犬もよくいるって辺りが恐ろしい。しかしながら、今更どこかへ行こうとしてここから動く方がよっぽど危ないというものだろう。 そのままびくびくと震えていると、 「ここにいたんですか」 と古泉の声がした。 「な……」 驚く俺に、古泉はいつもの柔らかな笑みを向け、 「探しましたよ。大丈夫でしたか?」 「あ……ああ、大丈夫だが…なんでお前が……」 「どうやら僕のせいで怒らせてしまったようでしたから、心配で探していたんです。見つかって何よりでした」 そう言って古泉は優しくその手の平に俺を乗せてくれた。 「怖かったでしょう?」 その声も眼差しもあまりに優しくて、 「ひ…っ、ぅ、ひーん…!」 と子供みたいに泣き出しちまったが、知るもんか。 大体、今の俺は子供なんかよりよっぽどか弱いんだ。 これくらい仕方ないに決まってる。 「もう大丈夫ですから、帰りましょうね」 そう小さな子供に言い聞かせるように優しく言いながら、そのくせ古泉は俺の頭を撫でようとしない。 「どうした…? いつもなら撫でてるだろ…」 俺が聞くと、古泉は困ったような顔で、 「…それでどうやらあなたを困らせ、怒らせてしまったようですから」と言う。 俺はなんだか胸の中が苦しいような熱いような訳の分からない感覚に陥り、なんとかして古泉の手の平にしがみつくと、 「…撫でていい」 そう自分から言って、軽く頭をすり寄せた。 古泉は驚いたように目を見開き、しかしすぐにふわりと微笑んだかと思うと、 「ありがとうございます」 と俺の頭を撫でてくれた。 くすぐったくて心地好くて、同時に居心地が悪いのは変わらない。 それでも、これくらいなら我慢も出来るだろ。 だから、もう少し……あと少しだけなら………。 そう思っているうちに、いっぱい走って疲れていた俺は、気持ちよくなったまま古泉の手の平の上で眠ってしまい、挙句の果てにお持ち帰りなんて憂き目にあったのだった。 …二度と油断なんてするもんか……。 |