卒業後捏造です
エロを含みます
しかしそれ以上に好き勝手に妄想してます
色々とごめんなさい
主に某企業の人すみません(ぺこりこ









































クロネコ



それは確か、部室で進路の話をしていた時のことだったと思う。
彼は意外にも就職希望だとかで、もう就職先が決まっていると言った。
「意外ですね」
「そうか?」
「ええ。てっきり大学に行かれるものかと」
「そこまでして勉強したくもないんでな」
「それで、春からはどちらにお勤めで?」
「ああ」
考え込むように呟いた彼は、それからニヤリと笑い、
「――俺、春から黒猫になるんだ」
冗談めかした彼の言葉が、冗談にしても理解出来ず、
「はい?」
なんて間抜けな声を上げてしまった僕に、彼は盛大に笑って見せた。

その春の終わり頃から、彼はうちに荷物を届けに来る黒猫さんになった。

「ちっさい頃から憧れてたんだ」
と照れ臭そうに彼は笑った。
目深に被った緑色の帽子には、見慣れたクロネコのマーク。
「地域差も大きいが、割と若い爽やか系の人が多いだろ? 子供ながらに憧れてなぁ。こう、戦隊物のヒーローに対する憧れみたいなもんだと思ってもらえたらいいと思うんだが」
「ああ、なるほど、そういう意味ですか」
「しかし、まさかお前の住んでる辺りを担当することになるとはな」
世間ってのは狭いもんだと言いながら、彼は僕に向かって一抱えもある段ボール箱を差し出した。
「ほい、荷物。要冷蔵だと。その辺に忘れたりせず、すぐに冷蔵庫に入れろよ」
「はい」
面倒見のいい彼らしい言葉に、ついつい笑ってしまいながら受け取った僕は、
「ええと、はんこは…」
「サインで構わん。というか、今時は割とそんなもんだろ? お前が本人だってことは、俺にもよく分かるんだし、ざっくりとサインしてくれ」
「分かりました」
と頷いて、受け取った用紙にサインをする。
慎重に書いたつもりだったのだけれど、彼はしげしげと僕のサインを見て、
「…相っ変わらず汚い字だな」
と笑った。
……だからはんこを使ってるんですよ。
「そりゃ、ご苦労さんだな。それならせめて、玄関先に安いシャチハタでもおいとけよ。一々取りに行ったりしてたら、待たされるSDが可哀想だろ」
SDというのは、セールスドライバーの略で、彼が今やってるような仕事をしている人のことだ。
「今度、買っておきます」
「おう、そうしろ」
それじゃあな、と言い残し、颯爽と去って行く彼の背中に、少なからずときめいてしまったのは、いわゆる制服萌えとは無関係なものです。
僕は、高校時代からもうずっと彼のことが好きだった。
いつから、どうして、なんてものはもはや定かではないけれど、彼の一挙手一投足を見るたびに、ああ、好きだな、なんて実感する。
激しさとは程遠いような、どこか生温かくて穏やかなこの思いが、恋愛感情以外の何物でもないことは明白で、だから僕は、これからも彼と会えるということを嬉しく思った。
大学に進学した僕と、就職してしまった彼とでは、生活リズムがあまりに違いすぎて、きっともう、滅多なことでは会えないだろうと思っていたから。
「とりあえずは、」
僕は段ボール箱に詰められていたわざわざ取り寄せたプリンを冷蔵庫に入れつつ、
「クロネコさんが届けてくれるところで、色々買うことにしようかな」
なんて、姑息なことを呟いた。
そうそう、定期的に荷物を送ってくれる人にも、クロネコがいいとねだってみよう。

そんな、少なからず地味な工作が功を為したのか、三回に一度から二回に一度という、比較的高確率で彼が僕の家へ荷物を届けてくれるようになった。
「お前んち、荷物多すぎだろ。というか、取り寄せしすぎてねぇ?」
と呆れられたけど、
「プライバシーの侵害になっちゃいますよ。…あなたにもお裾分けしますから、そう言わないでください」
と言ったら、
「お、ほんとか? んじゃ、後で取りに来る」
なんて軽く言われ、拍子抜けしたくらいだ。
そういえば彼は案外甘いものも好きな人だった。
そうして、ちょくちょく顔を合わせ、しかも僕の部屋に上がったりしていたからだろうか。
高校時代よりもよっぽど、彼との距離が縮んだような気がした。
今日は、仕事が終ってすぐに来てくれたかと思ったら、すっかり定位置と化したソファにゆったり座って、
「お前、明日暇か?」
「明日、ですか? 暇ですけど……」
どうかしたんですか、と僕が聞くより先に、
「じゃ、朝、迎えに来るから支度しとけよ」
「…え? あ、あの、それって…」
デートですか!? と、言いかけて辛うじて思い留まることが出来た自分を褒めたい。
彼は、よっぽど日々が充実しているとでもいうのか、高校時代にはまず見なかったような明るく朗らかな笑みを見せ、
「ドライブに行こうかと思ったんだが、一人よりは誰かいた方がマシだからな」
暇なら丁度いいよな、と言われ、
「嬉しいです」
と返した僕は本当に単純だったと思ったのは、翌日、とんでもない道を突き進む彼の運転を思うさま味わったせいだ。
なんであんな馬力の少ない軽自動車で山道を行こうとしたり、逆に車幅ギリギリの細い道を突っ走ったりするんですか!!
「常日頃磨いた運転技術を見せてやろうかと思ったんだが」
「ええ、確かにお見事でしたけど、死ぬかと思いました…っ」
思わず正直に言った僕に、彼は楽しげに笑い、
「楽しかっただろ?」
「…そりゃ、楽しくはありましたけどね」
なにせ、片思いをしている人間というのはお手軽なものだから、好きな人に笑いかけられたり、ましてや、その人の助手席に座らせてもらって、一日一緒に過ごすなんてことが楽しくないはずがない。
でも、
「…もうちょっと、大人しいドライブは出来ませんか…?」
「じゃあ、今度の休みは遠出するか。高速飛ばして、どこまで行けるもんかね」
……諦めよう。
何を言っても無駄らしいから。
むしろ言うほどに悪化しそうだ。

そんな風に、僕たちの友人関係は非常に良好だったんだと思う。
時々は彼の方がお土産として、キャンペーンで余ったという見慣れた緑とクリーム色にカラーリングされたバンのミニカーをくれたこともあったし、実家で作ったというお惣菜を分けてくれたこともあった。
「どうせ取り寄せとかするなら、うちでやってるのを使え」
とカタログと一緒に注文用紙を押し付けられもしたけど、それだって別に嫌じゃなかったし、冗談のつもりで、
「当然、あなたが届けてくれるんですよね?」
と言ってみたら、
「それなら俺のシフトに合わせて日付指定しろよ」
と言われ、シフトまで教えてくれた。
段々、1週間のうちに彼の顔を見ない日の方が少なくなり、その意味では高校時代と変わらないはずなのに、場所が自分の家だと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。
一度、僕が誘われるまま飲み会に出席して、帰りが遅くなった時には携帯に電話を掛けられ、
「何でこの時間帯に家にいないんだよ!」
と辺りに響き渡るほどの大音量で一方的に叱られ、ついでに僕に「カレシ」がいるという疑惑まで作られた上で、
「もういっそ鍵を寄越せ」
という言葉と共に合鍵をむしり取られてしまった。
それ以来、更に顔を合わす頻度が上がった。
仕事のある日は、仕事が終った夜中にやってきて、僕のベッドを取り上げて寝ていったりする。
彼に言わせると、夜中に家に帰ると家族に迷惑だからだそうだけど、僕に迷惑を掛けるのは構わないってことなんでしょうか?
いえ、僕は彼に会えればそれで構わないんですけど。
休日は休日で、僕が家にいようといまいと上がりこんで、
「お前は本当に生活能力がない」
とかなんとかぶつぶつ言いながら、掃除をしてくれたり料理をしてくれたりする。
「まるで通い妻ですね」
と冗談めかして言ってみたら、フライングソーサーよろしく、プラスチック製の皿が飛んできた時には本気で慌てたけど。
でも、実際、そんな感じだ。
それにどうしようもないほどの幸せを感じながら、自分の中で増長しつつあるものに気付いてしまった。
それは、彼に甘えてしまっている部分であり、それ以上の欲に塗れた、どうしようもないところだ。
隠しきれていないのは、ついつい馬鹿げたことを口走ってしまったり、彼を見つめてしまうという自覚症状があるところからも明白だ。
しかし、彼は相変わらず持ち前の鈍さというか、恋愛における自らに対する慎ましやかな過小評価を継続中のようで、何一つ気付いてくれていない。
今日も、休みだからとうちにやってきて、僕がレポート作成に熱中している間に、ソファに寝そべってお昼寝中だ。
あまりにも無防備すぎる。
おまけに、働き出してからというもの、彼の体つきはいくらか健康的な逞しさを増し、高校時代とはまた違った色気があるからタチが悪い。
のんびりと体を伸ばした姿は、どこか猫のようで、可愛い。
つい、蜜の匂いに誘われる蜂か何かのようにふらふらと近づき、彼の穏やかな寝顔を覗き込んだ。
案外長い睫毛が落とす影を見つめ、滑らかな鼻梁をたどり、それから薄桃色の綺麗な形をした唇を見ていると、堪らない気持ちになった。
「…こんなところで無防備に寝るあなたがいけないんですからね」
とどこかの強姦魔みたいな酷い理屈を呟いて、僕はそっと彼に口付けた。
ところが、柔らかな唇の感触を味わう間もなく、ぱっちりと彼が目を開いた。
このゼロ距離で目が合うのは非常に気まずい。
て、いう、か、
「すすすすす、すみませんっ!! つい、出来心で…!!」
慌てて体を離すと、彼はどこか表情の読めない、無感情めいた顔でのっそりと起き上がり、じっと僕を見た。
寝ぼけてるんだろうか。
「いや、起きてたけど」
「お、起きてた、って……」
戸惑う僕に、彼は薄く笑う。
「で? お前は自分の部屋で誰かが寝てたら、見境なくキスするのか?」
「そ、んなわけないでしょう!? あなただから…っ、僕は…」
「俺だったらなんでキスなんかするんだよ?」
そう問われ、僕は真っ赤になりながらも、正直に答えた。
答えるしかなかった。
適当に言い逃れることなんて許されないと、流石の僕にも分かった。
「…あなたが、好きだから、してしまいました。こんなこと、いいわけにもならないとは思いますけど、でも、冗談でも嘘でもなくて、僕は、本気であなたが…」
「やっと言ったか」
………はい?
今、一体なんと仰いましたか?
「全く、いつまで黙ってるつもりかと思ったが」
ぶつぶつと呟きながら、彼は笑っている。
滅多に見ないんじゃないかと思えるほどの、上機嫌な笑顔だ。
「あ、なたは……ずっと、知って…?」
そんなまさか、と思いながら聞くと、彼はニヤリと唇を歪めた。
あ、いたずらする時の顔だ。
それならきっと、嘘なんですよね?
「知ってた。言っとくが、嘘でもなければお前にあわせて適当なことを言ってるってわけでもないぞ」
「え……」
「ずっと、知ってた。高校の……二年くらいからか? ずっと、俺のことばっか見てただろ、お前」
イギリスの有名な数学者の書いた児童文学作品に登場する猫のように笑いながら、彼はじっと僕を見つめた。
その目つきが、いっそ扇情的ですらある。
「…というかだな、古泉。俺は、お前が俺に対してどういった種類の感情を抱いているのか知っていて、お前に通い妻なんぞと言われるほどの頻度かつ内容の出入りを繰り返してたんだぞ? それに対して何か言うことはないのか?」
え、えぇと……それ、って、つまり……。
「き、期待、して、い、いいって、こと、ですよ、ね…?」
「…どもり過ぎだろ」
ぷはっと噴出した彼は、笑いながら僕の額を軽く弾いた。
「お前は人のことを鈍いとかなんとか言う前に、自分の鈍さに気付けよ。正直なところ、俺はここに出入りするようになった頃から、もうとっくに覚悟は決めてたんだぞ?」
「出入り、って…ええと、合鍵を持って行かれた頃のことですか?」
違ぇよばか、ともう一発、今度はもう少し強く額を弾かれる。
「じゃあ、一体いつから……」
「だから、ここに上がりこんで、お前が取り寄せたプリンだのなんだのを分けてもらうようになった頃から、だ」
「そんなに前から……」
「覚悟はいるだろ。自分に好意を持ってるような男の部屋に上がりこむんだからな」
くすくすと楽しげに笑いながら、彼は僕に顔を近づける。
いつもなら、彼の方が近いと言って逃れるような距離まで近づいて、彼はその魅力的な唇を薄く開いた。
「さて、どうして欲しい?」
「どうして、って……ええと…」
「返事を明言して欲しいか、それとも言葉なんか要らないから高校時代から溜めに溜めた欲望とやらを発散させる権利が欲しいか」
からかうように言った彼に僕はそろりと手を伸ばす。
それが振り払われたりしないのを確かめて、僕は彼を抱き締めた。
「それは勿論、両方ください」
重ねた唇は、酷く甘く感じられた。
「この、贅沢者」
そう言いながらも、彼の目は優しい。
僕が両手でしっかりと彼を抱き締め、そのまま性急にソファに押し戻しても、彼は抵抗などしなかった。
くすぐったそうに笑って、
「お前も変わってるよな」
なんて言う。
「何がですか?」
「女にもてるくせに、俺みたいなのを選ぶってのがな」
「多分、僕は人より柔軟なんですよ。……性別なんて気にしてられないほどに、あなたに魅せられただけかもしれませんが」
「勝手に言ってろ」
そう言った唇に、もう一度口付ける。
我慢出来ずに舌で薄い唇をなぞると、意外なまでにあっさりと開かれ、迎え入れられる。
熱い口内を探り、音を立てて甘い唾液をすすると、
「っん……」
と悩ましい声が上がり、止められなくなった。
戸惑いながらも差し出される舌を甘噛みして、逃げを打ったところを吸い上げると、
「は…っぁ、……ん、古泉……」
焦れたようにシャツを掴まれ、恨みがましい視線を向けられた。
けど、
「ねぇ、僕、まだ返事をいただいてないんですが」
「……は?」
「いただかないと、これ以上はちょっと……いけませんよね?」
「…っ、てめ…!」
そんな風に睨まれても、ずるいのはあなたの方でしょう?
「返事をしてくださるって言ったじゃないですか」
「っ、もう、言ったようなもんだろうが…!」
そうかもしれないけど、でも、だめです。
「言ってください。…そうじゃないと、これ以上なんて、出来ませんから……」
「…この、ヘタレ」
小さく毒づかれ、詫びるようにまぶたにキスを落とす。
「僕が臆病なことなんて、高校時代からよくご存知でしょう?」
そう囁けば、彼は観念したように目を閉じ、
「……す、きだ…」
「いつから?」
「っ、し、るか…! 俺にも、分からん…っ」
「…こっちを見てくださいよ」
ね、と彼の顔をじっと覗き込む。
彼は躊躇いながらも薄く目を開き、その焦げ茶色の瞳に僕を映した。
「…いつからかは分からないけど、好きではいてくださるんですね?」
「…そう、言っただろ…」
潤んだ瞳で彼は僕を睨み据えた。
「…というかだな、お前、それ、やめろよ」
「はい?」
どれのことでしょうか。
「……いてくださるとかなんとか、何でお前はそんな俺に対して遠慮ばっかするんだよ…! 昔から、ずっと、そうじゃねぇか…」
悔しそうに悲しそうに彼は唸った。
「俺が好きなら…っ、これから付き合いたいっていうなら、もっと俺を欲しがれよ…! からかわれてるような気がするだろ…!」
そんなことを言われて、心臓が壊れなかった自分を褒めてやりたい。
それくらい、破壊力のある台詞だった。
彼の顔は真っ赤で、恥ずかしがっているということは明らかだったし、それでもそうしてはっきりと告げてくれたことが嬉しくてならなかった。
「…ありがとうございます」
きつく彼を抱きしめる。
その暖かさが僕の腕の中にあることが信じられないくらいだけれど、でも、これは間違いなく現実なんだ。
「愛してます」
それ以外の言葉を忘れたように囁き続けながら、僕は彼のポロシャツのボタンに指を掛ける。
ぴくっと彼が身動ぎしたので反射的に手を止めると、焦れたような視線とぶつかった。
見たこともないほど熱っぽい瞳に、僕の熱も上がる。
ボタンを外し、あらわになった鎖骨にキスを落とすと、
「ん……」
とくすぐったそうに彼の喉が鳴った。
可愛い。
愛しい。
衝動のままに、僕はシャツをまくり上げた。
あらわになった素肌は、とても滑らかで綺麗だ。
「ここは、日焼けもしてないんですね」
真っ白い肌に口づけると、
「そ、りゃな……」
とむず痒そうな声が返ってくる。
でも僕はその滑らかさに夢中で、ちゅ、ちゅと音を立ててその肌を味わった。
そのたびに、かすかな反応を示す彼が愛しい。
いつの間にか赤くなって、つんと立ち上がった胸の尖りをそろりと指先でつつくと、ひくんと彼の体が跳ねる。
「ぁっ…、そ、こ……」
「くすぐったい? それとも、気持ちいいんでしょうか」
「わ、かるか…っ。なん、か、むずむずする……」
「…可愛い」
「は!?」
意外なことを言われたとばかりに目を見開き、声を上げた彼に僕は苦笑する。
「可愛いですよ」
「あほか」
呆れたようなふりをしていても、分かる。
ただ照れているだけなんだと。
可愛くて、愛しくて、堪らない。
だから僕は、そのむずむずするというのがどういうことなのかはっきりするまで、そこを愛撫してあげようと思った。
ぺろりと一舐めするだけで震える尖りに、そのぬめりを塗り込めるようにして指を這わせる。
その形がよりはっきりするように、それどころか、その周囲まで興奮に色を変えそうなほどに触れる。
舌で触れるとその滑らかさにもっと味わいたくなり、彼の上げるかすかな嬌声に囚われる。
「んっ…、あ、…っこ、い…ずみ……」
顔どころか全身を興奮に染め、薄桃色になった彼が僕を見つめる。
「も、っ、しつっこい……」
「でも、僕はもっとあなたを味わいたいです」
「はっ、恥ずかしいこと、言うな…!」
「本心ですから、恥ずかしいなんてこと、ありませんよ」
言いながら、ちゅっと尖りを吸い上げると、
「ひぁん…っ!」
と甘やかな声が鼓膜をくすぐる。
「もっとして、いいですよね?」
「っ、や…!」
「…だめ、ですか?」
「そこばっか、なんか、嫌だ…!」
え、と思った時には、彼は自分のベルトを外しにかかっていた。
そうして、なにもかもをあからさまにしてしまった上で、僕に抱き着いてくる。
「他、ん、とこも…、しろよ……! それとも、触りたくもないか…?」
「そんなまさか。…どうしてそんなことをおっしゃるんです?」
「…何度も、思ったから、な……」
言い辛そうにしながらも、彼は小さな声で囁いてくれた。
「あれだけ通って、俺がお前をどう思ってるかなんて丸分かりだろうって思うのに、お前が何も手出ししないのは、お前が俺を好きだなんてのがただの妄想で、本当は俺にそういう感情なんて持ってないからかも知れないなんて、何度思ったか分からん」
ぎゅっと僕にしがみついて、彼は泣きそうな顔をした。
それが、どんなに僕の欲を煽るか、本当に気付いてないのだろうか。
「優しくしたかったのに」
独り言を呟く僕に、彼は怪訝な顔をする。
「古泉……?」
「余すところなく、あなたを味わいたかったのに、そんなこと言われたら、自制がきかないじゃないですか」
恨むように見つめた僕を、彼はぽかんとした顔で見、それから声を立てて笑った。
「ばか。余裕ぶるなよ」
「余裕なんて最初からありませんよ。ただ、あなたを傷つけたくないし、あなたにこそ、気持ちよくなってほしいだけなんです」
「あほか。誰も最初っからなんて期待してねぇよ。つうか、そんな難しいことは期待しとらん。それくらい、」
と彼は恥ずかしそうに目を伏せつつも、
「俺だって、その、…い、色々調べたから知ってる」
調べたって、
「きっ、聞くなよ! 分かるだろ!?」
いよいよ真っ赤になった彼だったけれど、それでも言葉を続けてくれる。
「だから、最初から気持ちよくさせようなんて気張るなよ。一度きり、じゃ、ないんだから……」
「…嬉しいです」
強く彼を抱きしめ返して、僕は彼に口づける。
「愛してます」
ひたすらに繰り返しながら、僕は彼のかすかに震える腰のラインをなぞる。
「…ん………ふ…」
くすぐったそうに鼻から息を抜く彼の、心地好い響きを聞きながら、彼の脚に触れると、一瞬身動ぎした彼が覚悟でも決めるみたいに目を閉じて、それからそろりと脚を開いた。
膝頭に口付けると、彼の唇がかすかに動いた。
「…なんですか?」
「……っ、はや、くって、言ったんだ…!」
恥かしそうにしながらも答えてくれることがどんなに嬉しいか、彼は分かってくれてるんだろうか。
僕はもう、言葉さえ囁けなくなって、彼の望むように、先を急いだ。
溢れ出た先走りの雫をすくって、小さなすぼまりに半ば強引に指先を押し入れると、彼の体が怯えるように竦んだ。
「大丈夫ですか…?」
「っ、痛くは、ない、から…っ、」
「痛かったらちゃんとそう言ってくださいね? ……あなたもおっしゃった通り、今日しか機会がないわけでもないんですから」
「…ん…、あほ……か、こんな、なってて、途中で放棄出来るか…」
そう言いながらも彼は辛そうに眉を寄せていて、僕は少しでもその苦痛を和らげたくて、ただそれだけの理由で、彼のものを口に含んだ。
「んなっ、こ、古泉!?」
驚く彼のものを刺激して、そちらに意識を向けながら、じわじわと中を解していく内に、彼の唇からは甘い吐息ばかりしか出なくなった。
「っふ…、ぁ……っ、あ…」
吐息に紛れたかすかな嬌声に気をよくしながら、僕は彼の中を指で掻き混ぜた。
狭くきついその場所もいくらか挿入感に慣れたのか、淫らがましく吸い付いてくるようだ。
時折、彼が声を上げる場所を狙って、ぐっと力を込めてみると、
「ひっ、ぁ…!」
と鋭い声が上がった。
「…痛みません…か?」
「いた、くはない、けどっ…あっ、そこ……やだ…」
普段は年齢以上に落ち着いている彼が、子供のように声を上げるのが愛おしくて、僕はそこを何度も執拗に刺激しながら、
「調べたなら、知ってますよね? 前立腺ですよ」
「あぁっ、ぁ、やぁ…っあ!」
嫌と言いながら、その体は僕を離そうとしない。
おまけに、僕が埋めていた指を引き抜くと、彼自身、心細げに僕を見つめ、
「ぁ……なんで…?」
なんて無防備に言う。
「指を抜かないと、入れられないでしょう?」
親切めかして言った僕に、彼は改めて羞恥を覚えた様子で顔を赤らめ、
「……そ、そう、だよな…」
なんて言うのもかわいくて愛おしくて、
「愛してます」
と馬鹿のひとつ覚えみたいに囁いて、自分の高まった熱を押し当てた。
「…俺も、だから……」
きゅっと抱きしめてくるその強さに、彼の思いの強ささえ感じられる気がした。
「入れます、ね…」
「ああ…」
覚悟を決めるように目を閉じ、歯を食いしばった彼の眉間にキスをすると、彼は驚いたように目を見開いた。
「息を止めないで、体の力を抜いてください。…出来る限り、優しくしますから……」
「…ん」
努めて呼吸のリズムを保とうとする彼を抱きしめ、僕はゆっくりと彼の中に押し入った。
「はっ…、あ、……く、ぅぅん……!」
彼が苦しそうに声を上げるので、僕はゆっくり、少しずつにしようと思ったのだけれど、
「っ、も、いいから早くしろ…! 半端にされる、方が、よっぽど辛い……!」
「…あなたって、」
「なんだよ?」
僕は難しい顔で僕を睨む彼にキスをして、そっと囁いた。
「本当に男前ですよね」
「そりゃ、ありがとよ」
苦笑混じりに頷いた彼に、
「なぁ、早く」
と促され、
「爪を立てても、噛み付いてもいいですからね?」
と言っておいて、ぐっと腰を進めた。
「ひっ、ん…、ぅあ……!」
びくんと跳ねる彼の体を押さえ付けて、無理矢理に納め切った時には、僕も彼も汗だくになっていた。
「大丈夫、です…?」
「…ぁ、ああ……」
「切れたりしてませんかね…?」
怖々と指を這わせて確かめると、
「ひゃん…っ!」
なんてかわいらしい声を上げた彼にきゅうっと締め付けられ、そのまま持って行かれそうになった。
「っ、」
「は…、ぁ……、なぁ、古泉……」
「なんで、しょうか…」
「…泣いていいか?」
「えぇっ!?」
どうして、と戸惑う僕に、彼は本当に泣き出しそうな顔で笑った。
「嬉しいんだ……」
背中に回されたままの腕に、力が込められる。
「どうしたらいいか、分からんくらい、嬉しい……」
「ほん、とうに……?」
「ああ…」
「…僕も、嬉しいです」
言葉では足りなかったというわけでもないはずなのに、こうすることが出来てやっと、本当に思いが通じ合ったように思えた。
「俺もだ」
そう言っておいて、彼は恥ずかしそうに、
「…もうひとつだけ、言っていいか?」
「え? ええ、どうぞ……?」
「…お前のが入ってるってだけで、気持ちいいんだ」
「っ……!?」
あまりにも思いがけない言葉に、僕が驚くと、彼は僕を睨み付けて、
「引くなよ」
「引いてませんよ。でも…本当ですか……?」
「ん…、熱くて、気持ちいい……」
酔った時でも聞けないような、うっとりした声で彼は囁いてくれた。
「なのに、もっとほしいと思うなんて、俺もよっぽど欲が深いよな」
「もっとって……」
どぎまぎしながら問えば、彼は小さく笑って、
「お前に、俺の中でイってほしい…」
なんて言われて、大人しくしていられるわけがない。
「いくらだって…」
と告げて、僕は腰を引き、また突き上げた。
「ひっ、あっ…! ぁっ、あ…っ、こい、ずみ……!」
彼の顔が喜悦に染まる。
求められるままに口づけて、望むままに突き上げて、僕は彼の願った通り、彼の中に欲を吐き出した。
「ぁ……」
余韻に四肢を震わせながら、恍惚とした表情を浮かべる彼を抱きしめて、僕は思うままに彼の唇を貪った。
そこから溢れる吐息も声もなにもかもが、とてもとても甘い、その唇を。

翌日、いつもなら時間に余裕のある終業間際にやってくるはずの彼が、昼前に現れたと思ったら、
「古泉っ! このばかっ!! 目立つところにキスマークなんかつけるな!」
といきなり頭ごなしに怒鳴られた。
「あ、ばれちゃいました?」
「最悪だ…っ」
聞けば、同僚に見つけられた上で、「そんなところにはんこもらってどうするんだ」と笑われたらしい。
「これから当分からかわれるぞ…」
恨みがましく僕を睨む彼に、僕は小さく笑って、
「いいじゃないですか。受領印じゃなくて、所有印なんですし」
「う」
一瞬顔を赤らめた彼だったけれど、すぐに怒りの表情になって、
「そういう問題じゃない!!」
と怒鳴った。
本当は、嬉しくないわけじゃないくせにそんな風に言う。
そんな、素直じゃないところがまた可愛くて、
「愛してます」
と告げたら、今度こそ蹴られた。

日々あちこち駆けずり回って鍛えられたSDの脚力は、なかなかのものでした。