両方ともヤンデレ?
しかし温いです










きっと割れ鍋に綴じ蓋
  お題:ヤンデレ 手錠 カラオケ



僕は、彼と付き合っている。
そう、言っていいはずだ。
毎日のようにメールか電話をするし、好きですと伝える。
彼の方も、恥かしがりながらだけれど、ちゃんとそう返してくれる。
人には決して言えないけれど、僕たちは相思相愛で、だから、時には外で会いたくもなって、それで、今日のデートになった。
デート、と言っても大したことは出来ない。
ちょっと買い物をして、カラオケに行って、ファミレスで食事をして。
…それくらいの、友人の誰かとしても不思議じゃないような過ごし方しか、僕たちには許されない。
そんな過ごし方が嫌というんじゃない。
勿論、彼と過ごせて嬉しいに決まってる。
でもどこかにわだかまるものがあるのも確かなことで、もやもやしたものを抱えながらも暗くなった道を歩いていたら、不意に彼が口を開いた。
「お前って、ヤンデレっぽいよな」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかと思って反応が遅れた僕を、真っ直ぐに見つめ返しながら、
「ヤンデレっぽいって言った」
とはっきり告げられる。
そうして、爪先の方に視線を落としながら、彼はらしくもなく小さな声でぼそぼそと呟くように告げる。
「病的なくらい、俺に執着してるだろ? カラオケの時も、ファミレスでも、店員とはいえ、他人が俺に近づくと、それだけで嫌そうな顔して。…だからわざと奥の方に俺を座らせたんじゃなかったのか?」
そう言われて、一気に肝が冷えた。
どうして、と戸惑う。
必死に抑えていたつもりだ。
僕のこの醜い執着も、独占欲も。
抑えるのは苦しいけど、でも、それでまた大切な人に嫌われて、逃げられてしまうのは嫌だった。
特に、彼に見捨てられたら、僕はきっともう生きてなんていかれないほど、彼が愛しい。
これが、別れ話の始まりでないことを切に願いながら、僕はなんでもない顔を無理に作って、
「気付いてませんでした。そうだとしたら、気をつけなくてはなりませんね」
と誤魔化そうとしたら、彼は弾かれたように顔を上げて、
「なんでだ?」
と言った。
その顔に浮かぶのは単純な驚愕だ。
「なんでって……」
「そうする必要があるのか?」
困惑する僕に、彼は心なしか顔を赤くしながら、
「別に、そんな風に執着したんでいいって奴もいるんじゃないか? 執着するってことは、それだけ好きってことだろ?」
いつになく雄弁に彼は語りながら、じっと僕を見つめていた。
「そんな風に好きなら、俺はいいんじゃないかと思う。…拘束するだけして、そのくせ顧みないとか、自分は好きに浮気したりするとかじゃだめだろうが、お前ならそうはならん気がするし」
「……そう、でしょうか」
「ああ」
それなら、言ってもいいんだろうか。
僕は怯えながらも深呼吸をして、そっと口を開いた。
「…本当は、してしまいたいことがあるんです。決して許されないでしょうから、思うだけに留めていますけれど。……いえ、普段は思うことさえ、自分で許せないほど酷い願望です。叶わぬ夢にしても酷すぎる」
「どんなのだ? …俺には教えろよ」
彼に頷きを返して、僕は小さな声で答えた。
「閉じ込めてしまいたい、と思うんです。僕以外の誰にも会わせず、僕以外の誰の声も聞かせず、見せず、二人きりの世界を作ってしまいたい、と。手錠をして、足かせをして、その自由を奪って。食事さえ、自分ではさせてあげたくない。僕が何もかもして、僕だけのものにしてしまいたいと、そう、思うんです……」
ずっとそんなことを思ってはいたけれど、言葉に出したのは生まれて初めてだった。
酷い愛し方。
とても歪んだ愛し方。
それほどに僕の執着や独占欲は強くて、どうしようもない。
言葉に出すと、その恐ろしさに自分でさえ震えそうになった。
それでも、止まらない。
「何もしなくていいんです。させたくもない。ただ僕を見つめて、僕のためだけに笑って、僕のためだけに話してくれるなら、それで。他のわずらわしいことは全部僕がして、他のことを考えることさえ奪って、ただ僕のためだけの存在になってほしいなんて、願ってしまうんです」
泣き声みたいに声が震えた。
その僕の背中を、彼は優しく擦ってくれる。
そうして、ぽつりと呟いた言葉は、
「……いいな」
という、酷く楽しそうなものだった。
驚いて彼を見れば、彼は確かに笑っていて、そっと唇を舐めていた。
舌なめずりでもするようなその動きが、酷く色っぽくて、目眩がしそうなほどだ。
「…俺にもひとつ夢がある。誰にも言えないような夢だが、お前は聞いてくれるよな?」
そう、僕に流し目を寄越して、彼は薄っすらと濡れた唇を開いた。
「男のくせにそれもどうなんだと思いはするんだが、俺はどちらかというと囲われたいタイプらしい。好きになったりすると、他の何も要らないくらいの気持ちになる。食べることも、飲むことも、好きな奴のこと以外は何もかもがどうでもよくなって、投げ出したくなる。他のことを考えるくらいなら、いっそ寝るかどうかして時間を潰した方が有意義なんじゃないかと思えてくるくらいにな。だから、出来るわけないと分かってても、思うんだ。俺の好きな奴が、俺のことを好きで、しかも俺のことを囲ってくれたら、ってな。そうしたら、俺は何も要らない。そいつの部屋で、そいつの帰りを待って、他の何も考えずに過ごしたい。そいつが望むならなんだってするし、望まないことは何もしない。そうしてひたすら、そいつのためだけに息をして、食事をして、時間を過ごすものになってしまいたい。そいつが、俺以外の誰のことも考えられないくらいに、手間のかかる存在になりたい。そうして、逆にそいつを縛り付けたいのかもな。最終的に、そいつに飽きられて、捨てられでもしたら、俺はそのままその部屋で朽ち果てたい。そうすることで、そいつの人生に自分を刻み付けたいとさえ思う。そうでなく、そいつが本当に俺のことを愛してくれて、俺から他の何もかも、余計な、煩わしい全てを取り去ってくれるなら、俺はそのまま飼い殺されたい。そうしてもらえたら、この上なく幸せだと思う」
流れるようにそう語った彼を、僕は堪らず抱き締めた。
愛しい、と、こんなにも強く思ったことが、生まれてからこれまでに、一瞬でもあっただろうか。
他の誰にもない。
彼自身にさえ、これまで強く思ったことはなかったと思う。
それほどに、愛しい。
誰かに見られても構わないとさえ思いながら、きつく彼を抱き締める。
そうして、その耳元で、
「……あなたを閉じ込めてしまってもいいんですか?」
と問えば、彼は艶然と微笑して、
「ちゃんと養ってくれるなら、な」
と答えてくれた。
「とても残念なことですが、すぐには無理です。……でも、いつか、そう出来る日が来たら、そうしても、いいですか?」
「ああ」
「…その日まで、僕の側にいてくれますか?」
「お前こそ、離れてったりするなよ」
そう笑った彼が、僕の手を握り締めて、
「……愛してる」
といつにない熱さでもって囁いてくれた。
これまでが本気でなかったとは言わない。
でも、彼にも抑えつけていたものがあったのだろう。
それを解放したための熱が、心地好く染み入った。
「僕も、愛してますよ」
「ん……」
嬉しそうに、彼が笑う。
どこか暗く、でも、だからこそ愛おしい笑い声。
「…他の誰かにも、その話をしたことはあります?」
「あるわけねえだろ、こんなドンビキな話。……それに、こんな風に思ったのはお前が初めてだよ」
甘いことを呟きながら、彼は拗ねたように、
「お前こそ、どうなんだよ」
と言ってくる。
これまでなら見せてくれなかったような、あからさまな嫉妬に、嬉しくなる。
「ありませんよ。こんな話、誰にも出来ません。したくもありません。…あなただから、ですよ」
「本当か?」
「ええ、本当です。…あなたに嘘なんて吐けませんよ」
「…そうかい」
言葉だけなら、いつもとさして違いのない響きだ。
でも、違う。
酷く甘くて、柔らかい。
笑みを刻むその唇も。
それに引き寄せられるようにキスをして、二人して忍び笑いを漏らした。
互いにとって相手がベストな相手だと確信出来たことを喜ぶように。