エロです
一応「ハーフムーン」の後日談です
「納得行かん!」 と俺は憤慨の声を上げて、おっさんから晴れて師匠に昇格した年上――聞いたら俺の母方の祖父様よりも上だった――のエルフを睨んだ。 そいつは自分の百分の一も生きていないような若造が相手だからというよりも、俺が珍しくて面白いハーフエルフだからという理由で、余裕に満ちた態度を消さなかった。 そのくせ、 「あんまり反抗的な態度だと、意地悪するよ?」 と笑う。 だが、そんなもんに怯みはしない。 「今の状況が既に嫌がらせみたいなもんだろうが…!」 「こんなに懇切丁寧に、しかもマンツーマンで、キョンのためだからって時間の許す限り指導してるのに、嫌がらせだなんて心外だな」 そのことには感謝してもいい。 おかげで、随分と早いペースで力をコントロール出来るようになってきていることは事実だからな。 しかし、だ。 「俺の休みはいつなんだよ…!」 平日はこれまで通りに通学し、部活もやって帰ってきたと思ったら、軽く夕食をとってすぐこちらに来て勉強というか修行をする。 休日は朝から晩まで修行かハルヒの不思議探索に付き合わされるかどちらかなんて言ったら、本当に休む暇もない有様だ。 「ていうか、キョンがほしいのは休みっていうよりデートの時間じゃないの?」 「ああそうだとも。それで何が悪い?」 やっとちゃんと付き合えることになったんだぞ? 出来ることなら一日中だってくっついてたいもんだろ。 なのに、デートどころかろくすっぽ会話やメールも出来やしねぇ。 これで付き合ってるなんて言っていいのか? 「とりあえず、妖精同士なら自然消滅状態と見なされるだろうね」 「だろ!?」 あ、いや、流石にあいつは人間だし、俺だって半分は人間だからそこまでは思っちゃいないが、それにしたって、会いたくて仕方がなくなっても不思議じゃないだろ。 というわけで、 「休みを要請する」 「却下」 「なんでだよ!?」 「だって、そろそろ半月だろ? 丁度力が強まってるんだから、修行して、抑えられるようにならなきゃいけない時じゃないか。それなのに、遊んでられると思う? 本当なら、学校に行く間さえ勿体無いんだからね」 「つってもな……」 「学校に行かなきゃならないってのは分かるし、部活に出なきゃいけないってのも分かるから、そこまで強要してないだろ? 僕らだって、あの女の子を向こうに回したりはしたくないんだし」 あの女の子、というのはハルヒのことだ。 妖精からするとハルヒは物凄いエネルギーの塊として見えるようで、とりあえずは当たらず触らずでいようという方針であるらしい。 ある意味その対応は正しいと思うのは、俺が余計なことをしたせいであいつと係わり合いになっちまったからだろうか。 「じゃあせめて、半月が終ったら時間を寄越せ」 「……90分とか?」 どこのラブホの休憩時間だそれは。 「しょうがないだろ? 本当ならもっと早く始めた方がよかったのに、そうしなかったのはキョンが全く興味を持たなかったからなんだし。そのくせ、古泉くんだっけ? 彼氏に力をもらうせいで前よりずっと力が強くなってるじゃないか。それを放っておくのは危ないよ」 「…親切めかして言ってるが、違うよな」 「いやいやそんなまさか」 と言ってる顔が笑ってる。 一瞬、殺意が湧きそうになるぞコノヤロウ。 「どうしてもって言うなら、もう一週間くらい待てば?」 その手には乗らん。 「そうしたらまた、もうすぐ半月だとかなんとか言い出すんだろうが」 「あれ? ばれた?」 「あんたは俺の邪魔をしたいのか」 「いやいやそんなことはないよ? ただちょっと、」 ちょっと? 「キョンみたいな可愛い子を人間なんかにやるのは面白くないなぁと」 「あほか」 そんなくだらんことで俺の邪魔をするな。 「帰る」 「だめだよ」 と師匠は俺の前に立ちはだかった。 「どうしてもって言うなら、非常手段がキョンにはあるだろ?」 「…は?」 非常手段? 「そうだな。それを今日の課題にしてみようか」 にっこりと無駄に愛想よく笑ったそいつは、 「二人に分かれてごらん? そうしたら、片方が修行しててももう片方でデートが出来るだろ?」 「……なるほど」 そういえばそんな手段もあったな。 そうした場合、残る方が物凄く不満を抱きそうな気もするんだが、この際そっちの方がマシだろう。 というか、 「あんた、なんでそんなことを思いつくんだ?」 「デートの予定がダブルブッキングしちゃった時とか、便利なんだよね」 ……そうかい。 「さて、それじゃやってみてくれる?」 「…つっても、前はたまたまそうなっちまっただけで、やり方が分からんのだが」 「ああ、そうだったね」 じゃあ、とそいつは一応の手順を教えてくれたのだが、これがまた…分かり難いというか面倒だ。 「課題になるわけだな、そりゃ」 ため息を吐きながらもやってみるのは、それだけ切実ってことだ。 修行はしなきゃならんし、して、ちゃんと制御できるようになりたいとも思う。 勿論、古泉ともう一度空でデートもしたい。 だが今は、とにかく古泉に会いたくて、古泉に触れたくて仕方がない。 そう思ったら、うまく行った。 軽い目眩でよろけた、と思ったら二つに分かれていた。 …しかし、 「何度みてもシュールだな」 「全くだ」 同じ顔と声して会話するのもな。 「じゃあ、」 と師匠はもう一人の手を引っ掴んだ。 軽く見えるがかなりの力なんだろう。 痛そうに顔をしかめるのが見える。 「君はこっちに残って勉強するってことで」 「げ」 「仕方ないだろ? 力のある方がいなきゃ。んで、そっちの人間寄りのキョンは、デートして来なよ」 へらりと笑った笑顔はいつもなら不快なこと極まりないのだが、今日ばかりは苛立つこともない。 「ああ、じゃあ、行ってくる」 背を向けた俺に、もうひとりの俺が叫ぶ。 「会って話して、それだけで満足してくるんじゃないぞ!」 「っな…!?」 かあっと真っ赤になった俺を睨みつけて、 「お前がやらなかったら、俺があいつを休ませてでも襲ってやるからな!」 とダメ押しする。 「ぅ、えぇぇ…!?」 「分かったな!?」 首を振ったらそのまま取って食われそうな勢いがあった。 その勢いに負けて頷いた俺は、そのまま逃げ出すしかない。 怖かった。 同じ俺とはいえ恐ろしい迫力だ。 びくつきながら逃げ帰ってきた俺を見て、お袋はにやっと笑った。 「お帰り。なんか足りないみたいだけど、半分置いてきたの?」 「そう、だ…」 「ああもう、慌てちゃって。何? 怖いことでもあった?」 こくこくと頷いて、差し出された水を一息に飲み干す。 が、そんな悠長にしている時間はない。 俺はグラスを放り出して自分の部屋に駆け上がり、携帯を引っ掴むなり古泉に電話を掛けた。 数コールで古泉が出る。 『もしもし? どうされました?』 今日もあちらだと知っていたからだろう、怪訝な声で聞く古泉に、 「今からそっちに行ってもいいか?」 と聞いた。 『僕は構いませんけど、あなたは、』 「じゃあ、すぐに行くから、鍵を開けて待ってろ」 そう言って一方的に通話を切る。 それだけで顔は赤いし、心臓はばくばくする。 「……こんな俺にあいつを誘ってどうにかしろって…?」 そりゃ、あんまりにも無茶じゃないのか? それでも、あいつを怒らせると怖いということは同じ人間なんだから分かるし、俺だって、そ、そりゃ、……し、たく、ないわけじゃ、…ないし……。 ただ、そんなことを考えるだけで、 「うわあぁぁぁ……!」 と叫びたくなるほど、恥ずかしいってのに。 ああ、いや、待てよ。 こんな遅くにあいつの部屋を訪ねるということは即ち、そういうことを、し、したいっていうことにならないだろうか。 実際そうなんだし、だから、察しがよくて気の利くあいつなら分かってくれる…よな? 一抹の不安を感じながらも、俺はチャリであいつの部屋に向かった。 最後に来たのは、宴会騒ぎになった後、したたかに酔わされたあいつを送った時だ。 それからずっと忙しくて、高校のあの部室でしか顔を合わせられなかった。 だからこそ俺も、こんなにもあいつに会いたくて、あいつに触れたくて、仕方がないんだと思う。 一度だけ、インターフォンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。 「お待ちしてました」 という言葉と共に向けられる笑顔は優しくて、眩しいくらいに感じられる。 「お、遅くにすまん」 緊張のあまり小さな声で口ごもりながら言った俺に、古泉は軽く眉を跳ね上げた。 なんだよ。 「いえ、話は中でしましょう、どうぞ、入ってください」 訝りながらも俺は勧められるまま部屋に足を踏み入れ、ソファに座った。 古泉はふわりとコーヒーの香りを漂わせながら、カップを俺の前に置き、 「今日は、どうして分裂なさったんです?」 「分かるのか?」 驚きの声を上げた俺に、古泉は楽しそうに笑った。 「ええ、さっき気がついたのはそれですよ。……今日は、人間寄りのあなたがいらしてくださったんですね。妖精寄りの方はどうなさったんです?」 「……あいつの方がよかったか?」 我ながら前言撤回を叫びたくなるほどのしょぼくれた声が出たのだが、古泉は間髪入れずに、 「そんなことを言いたいんじゃありませんよ。どちらでも、そして勿論、分裂されてなくても、あなたに会えたら僕はそれだけでも、とても嬉しいんです」 と言ってくれたばかりか、俺を優しく抱きしめてくれた。 その暖かさに、とろりとそのままとけてしまいそうになる。 古泉に身を預けたまま、眠っちまいそうだ。 「ん……、ありがとな」 「いいえ。それで、どうしたんです?」 どう言うのが一番いいだろう、と少しばかり思案した俺は、恥ずかしいからと顔を古泉の肩に押し付けたまま、 「……お前に、会いたかったから」 「…嬉しいです」 力を込めて抱きしめられることが酷く嬉しい。 この調子なら、俺がもうひとりに言われたような無茶をしなくてもいいんじゃないか? ……と、そう、期待したってのに、古泉は少しも動こうとしない。 いや、優しく俺の背中を撫でてはくれている。 だがそれは、子供をなだめるような、疲れた人を癒すようなそれでしかない。 そんなんじゃ、…足りないのに。 「古泉、は……?」 「なんですか?」 慈愛に満ちた目を見つめ返しながら、 「俺に、会いたいなんて、思ってくれなかったのか……?」 「思いましたよ。思わないはずがないでしょう?」 「だったら、」 ……だめだ、恥ずかしくて言えん。 「だったら?」 と首を傾げる古泉に、 「……なんでもない…」 ふて腐れたように、俺は古泉の肩に頭を乗っける。 そのまま、子供がするように、古泉の膝に乗って、体をぴったりとくっつけても、古泉は何も言わないし、何もしようとしない。 もうひとりに無茶を言われたと思っていたはずだってのに、気がつけば、俺自身も苛立ち始めていた。 もうひとりみたいに、上手に誘えない自分に。 それから、何もしてくれない古泉に。 どうすればいいんだ、と嘆きたくなってきたところで、古泉がかすかにため息を吐いた。 「…なんだよ」 「え? いえ、なんでも……」 「なんでもないなら、ため息なんか吐くなよ…っ! 俺、が、いるのに……」 じわ、と涙が込み上げてくる。 おかしい。 感情的な部分は全部もうひとりが引き受けてくれてるはずだってのに、なんでこうなるんだ。 「なっ、泣かないでください…!」 「ううううるさいっ! お前のせいだろ…!?」 ぼろ、と涙が溢れる。 「お前が、っ、俺になんにもしないから……!」 「……え?」 「っ、」 顔が紅葉なんかよりもずっと赤くなったのが自分でも分かった。 死にたいくらい恥ずかしい。 勢い余ってなんてことを言っちまったんだ俺は。 こんな、こと、言って、古泉に引かれて、き、嫌われでもしたら俺は……っ。 「や、だ…」 ぎゅっと古泉のシャツを掴み、しがみつく。 「嫌だ、き、嫌いに、なるなよ……!」 「え」 「嫌いに、っひ、っく、…なら、ないで……」 しゃくりあげながら古泉にしがみついて泣く俺に、古泉はしばらく目を白黒させていたが、 「ちょ、ちょっと待ってください。なんで僕があなたを嫌いになるとか、そんな、ありえない話になってるんですか」 「ありえな……?」 「ほら、落ち着いて。そんな風に可愛らしく泣かれたら、我慢出来なくなるでしょう?」 「我慢、なんて…」 「してますよ。…僕の方こそ、下手な真似をして、あなたに嫌われたくないんですから」 しなくていい、と俺が言うより早く、古泉の目が意地悪く光った。 「でも、しなくてよかったみたいですね」 「…ぁ……」 ぞくぞくする。 ちょっと怖いくらい熱を帯びた瞳にも、さっきよりも強く俺を抱きしめる手にも。 「…もしかして、最初からそのつもりで来てくれたんですか?」 耳元で低く囁かれ、びくんと腰が震える。 「そ、うだ…。そうじゃ、ないと、あいつが酷いことするって言うから……」 「じゃあ、あなたはしたくない…?」 それなら止めましょうかと言外に言われ、俺は慌てて首を振る。 「し、したいに、決まってる…! ただ、俺は、その…恥ずかしく、って……」 「可愛い」 そう囁く唇が俺の耳を掠めるようにして生え際に触れる。 「あ…」 「僕はあなたがそんなつもりでいらっしゃるなんて思いもしなかったものですから、今夜は大人しくしておくつもりだったんですよ? でも、そんなのは無駄なことだったんですね…」 「ん…、して、くれる、か……?」 怖々口にした俺に、 「喜んで」 と恭しく口づけた古泉の手は、いつだったかのもどかしいほどのそれとは違い、いささか性急に俺の服をまくり上げた。 「今日はさっきので忍耐力を使い果たしてしまったような気がします。…あまり優しくは出来ないかも知れませんが、それでもいいですか?」 「ん、いい、から…」 早く触れてほしかった。 早く触れたかった。 古泉がほしいのは、人間寄りだとかそんなことは関係ない。 ただ「俺」が、古泉を欲しているだけなんだから。 古泉の吐息が触れるだけで、突起が硬くなって勃ち上がり、震える。 「どうしてほしいですか?」 笑いを含んだ声で聞かれても、反発する気にすらなれなかった。 「さ、わって……」 「指で? それとも、舐めて欲しいんですか?」 「…っ、どっちでも、いいから…!」 早く、と急かす言葉ばかり溢れてくるほど、古泉がほしかったなんて、こんな状況になるまで思いもしなかった。 あるいは、こんな風に欲しがって見せられるなんて思わなかったというべきだろうか。 今日の俺はどこかおかしい。 「単純に、いつも同じように分かれるのではないのかもしれませんね」 胸の突起を指先で弄びながら、古泉は俺の耳元で囁いた。 「完璧に別の人格があるとか、そういうわけではなく、同じあなたの中で、その時々の状況によって、少しの間分かれるだけなら、そういうこともあるのではないでしょうか。たとえば、力のあるなしで分かれたり、そうでなくて、素直なあなたとそうでないあなたとで分かれるということも」 「…ひ、あ…っん、じゃ、ぁ…今日の俺は……?」 「人間寄り、ではあるようですね。でも、前よりもずっと扇情的で、素直で、……素敵ですよ」 そう囁いた唇が、俺の耳を食む。 「あっ…! ん、く、すぐったい…って……」 「万が一にも、僕を好きなあなたとそうでないあなたなんて分かれ方はしないでもらいたいですね。…たとえ一部に過ぎないとしても、そして、当然そんな風に僕を嫌う部分があっても不思議でないにしても、あなたに嫌われるのは嫌です。…そんな風に思えるだけでも、苦しいですから」 「ばか…」 ぎゅ、と俺は自分から古泉を抱き締める。 「お前のことを嫌いな部分なんて、あるわけないだろ。あるように見えても、間違いなく、お前がもてすぎて嫌だとか、そういう、…妬いてるって、だけのことに決まってる」 「…嬉しいです」 ちゅ、ちゅ、とついばむようなキスの音が耳をくすぐり、肌を滑る。 「あっ、ぁ…ん…っ……こい、ず、み……ぃ……」 「はい?」 「…ず、っと、会いたかったし、した、かった……」 喘ぎ喘ぎ、なんとかそう言って、古泉の頭を抱き締めると、 「…本当に、あなたって人は」 となんとも言い難い声で言われた。 呆れているようでもあるし、どこか嬉しそうでもある。 「…な、ん…だよ……?」 「…いいえ、本当に可愛らしい人だと思いまして」 そう言いながら、古泉は胸の突起を口に含んだ。 「ひゃっ…! あ…!」 「愛してます。…僕だって、同じでしたよ。何度、どこかの空き教室にでも連れ込もうと思ったことか」 「そ……んな……」 「ええ、あなたを困らせたくありませんから我慢してますよ」 「…本当に?」 そんなこと思ったのか、と戸惑う俺に、古泉は意地悪く歯を立てて、 「本当ですよ」 と言う。 「ひっ、あ…! い、痛……」 「あなたが疑ったりするからです」 そんなことを言っておいて、 「でも、痛くしてすみません」 と今度は優しくそれを舐める。 「ん…っ、ぅ……ふぁ……」 「…気持ちよさそうですね」 「ん……気持ち、いい…。お前にされるの、好き……」 だからもっと、と精一杯にねだると、 「ねえ、僕以外の誰にも、そんな風におねだりなんてしないでくださいよ?」 「するわけ、…っふ、ない…! お前以外には、触らせもしない……っ…から……」 「から?」 「…お前も、俺以外に触るな……」 見っとも無いほどに執着を露わにしちまったってのに、古泉は俺の醜悪な唸り声さえ睦言に聞こえるようで、 「ええ、言われるまでもなく、喜んでそうします。…だから、あなたが全部引き受けてくださいね?」 「…んぁ……?」 「僕の熱も、執着も、何もかも全て」 「……ばぁか」 俺は過ぎる快感に視界を歪ませながらも笑った。 「俺にくれずに…っ、他の誰にやるつもりだよ…」 返事は目眩がするほど長いキスだった。 酩酊感にも似た感覚にくらくらしながら、 「…なぁ……」 と熱っぽい声で呼びかけながら、古泉の手を腰へと導く。 俺からの誘いなんて、これくらいが精一杯だ。 これで通じるだろ、と思ったってのに、古泉はにやにや笑いながら、 「なんです?」 と聞いてくる。 「い…っ、じ、わる……」 涙目で睨んでも効果があるはずもないが、それでも睨まずにはいられなかった。 「すみません。あなたが恥かしがるところを見るのも楽しくて仕方がないくらい、あなたに夢中なんですよ」 「あ、ほか…っ…!」 声が震えたのは、古泉が俺のズボンをずり下げたせいだ。 それだけで、期待に体も震える。 自分から腰を突き出すようになりながら、俺は古泉の首に腕を絡め、縋りつく。 「こ、いずみ…っ、ひ、あぁ…!」 「凄いですね。こんなに、潤って……」 ちゅぷ、と音がしたのは気のせいだと思いたい。 思いたいってのに、 「ほら、聞こえるでしょう?」 と古泉は囁く。 「や…っ……」 「何が嫌なんです? 開き直ってしまえばいいでしょう? 妖精の血のせいなんだって。それとも…違うんですか?」 「ち、が……っ、けど、そ、うじゃ、なくて…っ、ひ、やぁん…っ、っ、…!」 くちゅくちゅといやらしい水音を立てるそこを泡立たんばかりに掻き混ぜながら、逃れるように足を立て、古泉にすがりつくしかない俺に、古泉はあえて敏感な喉元や首筋に吸い付きながら、 「どうなんです?」 「…っ、から、そんな、なるのは、…っ、お前だからぁ…!」 「それなら尚更、恥かしがらなくていいじゃないですか」 ちゅ、と胸に吸い付かれ、体が跳ねる。 限界が近いことを示すように硬くなり、昂ぶった俺の中心が反り返る。 「…あっ、あ…古泉っ…!」 「このままイってしまいそう?」 「んん…っ」 こくこくと頷けば、 「イってもいいですよ?」 と昂ぶりの先端を指でつつかれ、 「ひぃあ…!」 と声が上がる。 「や、だ…っ、やだぁ…」 べそをかく子供のように声を上げて首を振れば、古泉は薄く微笑み、 「どうしてです? イきたいんでしょう?」 「い、きたい…っ、イきたい、けど…っ! や、だ……、お前が、ほし、い、のに……」 「……堪りませんね」 まるで独り言のように呟いて、古泉は俺の中から指を引き抜いた。 「ぁ……?」 「少しきつくても、大丈夫ですよね?」 その言葉の意味を改めて問う必要はない。 俺はこくんと頷いて、自分から手を伸ばし、古泉の窮屈そうなズボンを寛げた。 飛び出すような勢いで現れたものは、俺のそれと同じか、それ以上に昂ぶっていた。 「…痛く、ないのか……?」 「痛いくらいですよ。…あなたがあまりにも魅力的だから」 そんなことを恥ずかしげもなく言いながら、古泉はそれを擦り付ける。 「ん、ふぁ……!」 「いれて、いいですよね? それとも、あなたが入れてくれます?」 「…い、れて……」 ねだりながら古泉の肩に手を置くと、古泉の両手が俺の腰を捉えた。 融けそうに熱い昂ぶりに震える腰を逃さないようにしながら、古泉は俺の腰をひき下ろした。 「ひっ…ぃ、あぁぁぁぁぁ……!」 悲鳴染みた声が俺の喉から絞り出される。 だがそれは、悲鳴に似てはいても違う。 「…くっ、…大丈夫、ですか……?」 「あ……っぁ…」 ひくりと震えたのはどこだろうか。 古泉を受け入れた場所だろうか。 それとも全身が震えたのか。 それさえ分からない。 ただ、身の内に埋まる熱だけが全てのようにさえ思えた。 「い、…あ、っ、あ……こい、ずみ……」 「ここにいますよ」 優しく囁きながら、古泉は苦しげに眉を寄せ、 「すみません、動きますからね」 「ま…っ! や、あぁ…っ! そ、んな……っひ、うぅ…!」 激しく揺さぶられて、仰け反る体を古泉が抱き寄せる。 そのままキスをして、唇と唇の間でいやらしい音を立てながら、それでも腰は動き続けていて、 「ひっ、ぃ、あぁ…っ、ん……」 言葉なんて出なくなった。 それくらいの激しさも、古泉が俺を欲しいと思っていてくれた証しかと思うと嬉しくて、涙が出た。 「すみ、ません…苦しい、ですよね……」 「い、いいから…っ、もっと…して……」 猥らがましくねだる俺に、古泉は今日一番じゃないかと思えるような笑顔をくれた。 そんなわけで、大変満足して家に帰り、そうして改めて登校したはずだったのだが、俺は非常にぶすったれた顔をしていた。 どれくらいかと言うと、谷口が近づかず、国木田が怪訝な顔をし、ハルヒが呆れた顔で、 「あんた、どうしたの?」 と聞いてくるくらいだった。 このままじゃやってられん、と判断した俺は昼休みになるなり古泉を呼び出した。 場所は屋上だ。 鍵くらい開けられるだけの力なら、もう普通に使えるし、目くらましも同様だ。 「どうしたんです?」 不思議そうな顔をする古泉には答えず、ただ、その頭を引き寄せてキスをした。 深くて息が切れそうなキスを。 唇を離してから、 「…っは……」 と息を吐いたのは古泉だ。 「どうしたんです…?」 いくらか赤い顔で問う古泉に、 「……したかったんだよ、俺も」 「……ああ」 と古泉が笑ったってことは、理解してくれたってことだろうか。 「もしかして、戻ってから、不満が出ました?」 「…出たっつうか、……満足してる部分と不満だらけの部分があると言った方がいいのか? ……我慢して修行に精出して来たんだから、これくらいのご褒美があってもいいだろ?」 そう言った俺を古泉は抱き締めてくれる。 「これくらいでいいんですか?」 「……いいわけないだろ」 俺はもう一度キスをして、思う存分貪って、それから宣言してやる。 「やるべきことが終って、我慢しなくてよくなったら、それまで我慢した分も取り戻してやるから、お前は精々体力とか精力とかつけてろ!」 「喜んで」 と古泉は昨日と変わらない笑顔をくれた。 |