眠り月

エロです
いちゃいちゃです
でもある意味寸止めです

































































酔い


酒を飲み、肴を摘まみ、ようやくつんけんとした妙な空気がなくなった頃。他所からもにぎやかな宴会の声が聞こえて来るせいか、こちらもなんだか陽気になってきていた。
その油断を吐くように、上機嫌に口を開いたのは眼鏡だった。
「んで、」
と呟きながら盃を置いて、眼鏡は古泉に、
「お前のところでよく売れるのは何だ?」
と言った。
その時には、俺もまだ油断していた。
古泉の仕事については、俺もちょっと興味があったから、止めもしなかったのだが、それが大きな間違いだった。
古泉は少し考え、
「それはまあ……白粉や紅がよく売れますかね」
「なんだ、肥後ずいきじゃないのか」
さらりと言われて、俺は思わず酒を噴出した。
「っ、こ、こらっ!」
「あん? なんだ、お前もちゃんと分かってるんだな」
ニヤニヤとスケベったらしい笑みを浮かべ、
「うちの女どもにはあれが評判らしいぞ。具合がいいとか、あとは処分が簡単だとかいう話でな。消耗品ってのが残念らしいが」
などと付け加えやがる。
古泉はと言うとそれをにこやかに聞いた挙句、
「おや、そうでしたか。張型の方がよく売れる気がしますけどね」
ぬけぬけと言いやがるので、俺はもう目玉が飛び出るかと思った。
酔いも一瞬で醒めるというものである。
「こ、古泉! こら、お前……」
実は相当酔ってるだろ、と割って入ろうとしたってのに、スケベ眼鏡の野郎が、
「お前はどっちがイイんだ?」
などと俺に水を向けやがるので、反応が遅れた。
「んなっ…」
何を言い出す、と怒鳴る前に、横から古泉が、
「どちらもまだ使ってませんよね?」
「お前までなん……」
お前までなんだ、と言おうとして、古泉を見た俺は、古泉が真顔で質問してきているのに気付いた。
じっと見つめられて、おまけに質問の内容がそれでは、真っ赤になるしかない。
「それとも、使ったこと、あります?」
「あっ……あ、あるわけないだろバカ!」
「いえ、年末年始と寂しくさせてしまいましたから、そういうこともあるかと思いまして……」
だめだ、こいつ、顔もろくに赤くなってないくせして、完全に酔っぱらっている。
唖然としている俺の隙をつくように、眼鏡は古泉に遠慮の欠片もない質問をしやがる。
「何なら使ったことがあるんだ?」
で、また聞かれた古泉が素直に答えるんだ。
お前、最初の緊張と遠慮と嫌悪はどこにやったんだというくらいに。
「琳の玉はよかったですよね?」
ね、って俺に聞くな!
文句も言えず、口をぱくぱくさせる俺をよそに、
「ほう」
と頷いた眼鏡へ、
「今度お届けしましょうか」
「考えておこう」
と真面目な商談みたいな顔して言うな。
この変態ども!
真っ赤になって、怒りに震える俺に、古泉はにっこりと、それはもう極上の笑みを見せた。
それで口にされるセリフが、
「今度は何にしましょうか?」
なんてものじゃなければ、惚れ直しそうな笑みだった。
「んなっ…な、なにって……」
そんなことを聞くな、というか変なものは使いたくない、という文句を言おうとしたというのに、俺が具体的に何か分かってないとでも思ったのだろうか。
「おすすめはやっぱり張型ですかね。肥後ずいきでもいいですけど……ほら、この間話したあれ、もうそろそろ出来上がるんですよ」
「あれ、って……」
「僕のに似せて作りたがってる職人がいる、と言ったでしょう?」
「っ……!」
あれは本気だったのか。
驚く俺に、古泉はそれはもうぞくぞくするような囁き声で、
「材料はケチらなくていいと伝えたので、張型は水牛の角で作ってくれてますよ。使う時にはお湯で温めて、柔らかく、暖かくしてから使ってくださいね?」
「だ、から…使わんと……」
「使ってくれないんですか?」
そう言って古泉が俺を抱き寄せる。
その膝に載せられるような形で抱きしめられると、着物越しに体温が伝わる気がして、余計にこちらの体温が上がった。
「ちょ……古泉……」
離せって、ともがこうとする俺をきつく抱きしめて、
「忙しくて会えない時に、あなたを一人にしておくのが堪らないんです。あなたを寂しくさせてないかとも思いますし……あれだけ敏感で、素晴らしくいやらしいあなたを放っておいて、あなたがつらい思いをしていないか、心配にもなるんです」
しゃあしゃあと突拍子もないことを言った古泉は、赤くなった俺の耳に唇を寄せて、
「僕の代わりに、使ってくれません?」
「い……っ、やだ、断る!」
ぶんぶんと頭を振って、古泉の唇を振り切る。
「そ、そんなもん、必要ない! というかだな、そう思うならお前がさっさと仕事を片付けて、俺のところに帰ってくればいいんだ。それに、俺はこらえ性のないお前と違って、少しくらいしなくても平気だから、妙な心配してる隙があるなら真面目に働け!」
と怒鳴ったところで気が付いた。
すぐそばでにやにやしながらこちらの会話をうかがっている陰険スケベ眼鏡の存在に。
「……っ、もう、お前帰れ!」
いっそ蹴り出してやりたい、いや実際そんな勢いで、俺は眼鏡を追い返してやった。
後々考えると非常にまずいことをやらかしたようにも思うのだが、その時俺も立派な酔っ払いだったということで勘弁してもらいたい。
この時の俺には、これでようやく古泉と二人きりになれたということが嬉しかったのだ。
「…妙な心配したりするくらいなら、あんな奴、連れて来たりしないで、一人で来いよ」
そう言って俺は古泉の側に戻った。
眼鏡を追い出すためとはいえ、古泉の腕を振りほどき、装った姿ではもったいないほどの立ち回りをしてきたのだ。
叱られても仕方がないと思ったのだが、古泉は嬉しそうな顔で俺を抱きしめ、
「すみません、断りきれなくて……」
と謝りながら、俺の頬に口づけた。
それから、唇が重ねられる。
「あ………ん、そりゃ……お前にも、付き合いとかあるんだろうけどな」
唇の隙間から不平をもらし、俺は古泉の唇に軽く噛みついた。
「……俺のところに帰って来るなら一人じゃないと意味ないだろ」
「全くですね…」
「…おかえり」
ぎゅう、と力を込めて抱きしめてやると、古泉が満面の笑みを浮かべた。
「ただいま帰りました」
うん、いい顔だ。
それにしても、だ。
「…お前、飲み過ぎ……。俺も飲んだのに、酒の匂いが鼻につくくらいじゃねえか……」
「すみません…つい……」
「…そんなに楽しかったか?」
「その逆ですよ」
と古泉は苦笑した。
「あの人のことが苦手で、でも、だからと言って邪険にも出来ない相手なものですから……。お酒の力でも借りないと、堪らなくて……」
「……それにしちゃ、仲がよさそうに見えたけどな」
「そうですか?」
「ああ。…案外似てるんじゃないか?」
「…嬉しくありませんね」
とため息を吐いておいて、古泉は俺の耳をくすぐり、
「あなたこそ、仲がよろしいようではありませんか」
「ねえよ」
というか、そんなことあってたまるか。
嫌いとまでは言わんが、好んで近くにいたいなどとはつゆとも思わん。
「俺が一緒にいたいのはお前なんだから…もうあんな眼鏡のことなんか忘れろよ」
「……はい」
そう言ってふわりとほほ笑む古泉を見たら、もう堪らなくなった。
さっきは、こらえ性のない古泉と違って俺は少しくらいしなくても平気だなどと大口をたたいたものだが、実際はそうでもなかったということだろうか。
「…古泉」
吐息を含んだ声で呼び、体をすり寄せる。
「もう十分飲んだし、食っただろ? だったら………なぁ…」
そう言いながら手を滑らせ、着物の裾から手を潜らせる…って、俺の方が襲ってるみたいだな。
苦笑したのもつかの間、俺は思い切り眉を寄せる破目になった。
「……おいこら」
「…はい?」
「なんだこのふにゃふにゃの役に立たないのは」
思わず言葉を飾るのも忘れた。
握り潰せそうなそれをぎゅうときつく握ってみるが、酔っ払いは軽く顔をしかめたくらいだった。
「あ……すみません、飲み過ぎましたね……」
「…だからあんまり飲むなってのに……」
「どうしましょうか…」
と悠長なことを言っているのはなんだ。
まだ酔いが醒めてないってことか。
それとも、俺がしたがってるなどとは思ってもみないということか。
「…お前、最悪だな」
ぶすったれた顔で文句を言いながら、俺は何で体をかがめたりしてんだろうな。
古泉の着物の裾を遠慮なく乱して、膝を割り、そこに顔を埋める。
「ちょ…っ、あ、あなた、いったい何を……」
「役立たずを使えるようにしてやらなきゃ、どうしようもないだろうが」
贅沢な縮緬の越中をずらし、取り出したそれをやわやわと握り込みつつ、息を吹きかけてやると、流石にくすぐったいのか、古泉の脚が震えた。
俺は舌を伸ばし、古泉がこちらをじっと見つめているのを上目遣いに確かめた後、先端をちょっとだけ舐めた。
それだけで古泉の顔が赤くなる。
酒ではろくに赤くならなかったくせに、と笑ってやりたくなりながら、ちろちろと尖端をくすぐってやるが、まだ、それ以上はしてやらない。
散々に焦らしてやりたくて、唇を離し、指でつうっと幹をなぞった。
ゆるりと勃ちあがりかけてきたそれを見つめながら、根元の袋を指で弄ぶ。
柔らかく揉み込み、時々、悪戯でも仕掛けるように強く摘まんでやる。
「ん……っ」
かすかに聞こえる古泉の声が気持ちいい。
「…もっとか?」
意地悪く囁けば、いくらか悔しそうな、だが、気持ちよさそうな顔をして頷く。
俺はにやりと笑って、袋を口に含んだ。
舌の上で転がして、ちゅうと音がするほどに吸い上げると、古泉の腰がかすかに浮くのが面白い。
ようやく硬くなってきたものに顔をこすりつけると、先走りが顔について、気持ち悪いはずのそれに興奮した。
「…い…やらしい顔して……」
と言っているお前の声の方がよっぽどいやらしいが、今返すべきはそれじゃないな。
俺は、それこそ悪人みたいな顔で笑って、
「素晴らしくいやらしい俺が好きなんだろ?」
と言ってやった。
それのどこがどのくらい気に入ったのか知らんが、目の前で硬さをましたそれに気をよくして、俺はそれに横から吸い付いた。
「く…っ……」
艶っぽい呻きを聞きながら、幹をなぞるようにちゅ、ちゅと吸っていく。
甘噛みして、唇でしごいて、それこそ余すところなく味わってやる。
「…なんで、そんなにうまいんですか……」
息を荒くしながら問う古泉に、俺は苦笑するしかない。
「お前、俺がここで育ったってこと、忘れたのか?」
「……え、まさか習って…」
「違う!」
んな訳あるか!
俺は男だぞ。
「色々見たり、たまに練習台にされただけに決まってるだろうが」
「……それはそれで複雑なんですけど…」
ふん、と鼻を鳴らした俺は、先端をくわえて、
「してやるのは、お前が初めてだし……他の誰にする気もないのにか?」
「……っ」
「ん……またでかくなった…」
なんというか、俺の方こそ複雑な気分だな。
「な…何がですか……」
「これだけしてやってんのに、俺が何か言う方がよっぽど効くみたいじゃねえか」
「…そ…んなこと、ないですから……」
「…やめてほしくないか?」
迷いながらも頷く古泉が可愛くて、思い切り甘やかしてやろうなんて気分になったのが間違いだった。
その後乗っかるところまでやっちまったことについては、深く語りたくない。
……俺も酔っぱらってたんだ。
ああ、そうだとも。