嫁が石 (北条 立岩・才之原)

  昔のこと、尾儀原(おぎはら)の郷に親孝行の息子と母親の二人が住んでいた。ある日のこと、美しい娘がこの親子の家を訪ねてきた。親子は不思議に思い娘にいろいろと尋ねたが、娘は「ただ一夜の宿をお願いしたい」という言葉だけだった。親子は一晩だけならと思って泊めてあげたが、娘は翌日も翌々日も…またまた次の日も…次の日も…娘は帰ろうとしない。やがて息子は美しくて気立ての良い娘に恋をして結婚した。
 嫁になった娘は人一倍の働き者で、夫婦仲睦まじく暮らしていた。 ところが、息子の母親は仲睦まじい二人の仲を妬み、二人の仲を裂こうと思うようになり、息子の居ない時を見計らって嫁を家から追い出すことにした。泣く泣く家をでた嫁は、村はずれの大岩のところまで来て、もう一度家に帰ろうと迷っていた。息子の母親は執念深く大岩の所まで追って来て、嫁を追い立てたという。
 その時、嫁の姿がパッと消え、息子の母親のチリ草履が岩にくい込み離れなくなってしまった。そこへ息子がやって来て、権現様に離れるようにお祈りをするとチリ草履が岩から離れたという。それからこの大岩を誰言うともなく「嫁返し」【嫁が石】と呼ぶようになったという。今も【嫁が石】には草履のあとが残るといわれている。
 この大岩近くの立岩川に架かる橋は《嫁が石橋》と呼ばれている。





 

        (地図)松山市尾儀原