辻堂峠の天狗さん

 むかしむかし、中島の東の里から西の里へ通じる峠の辻にお堂が建っていた。何時の頃からかこの辻堂に鼻が高くて顔の赤い天狗さんが済みつくようになった。天狗さんは、ここを通る人を捕まえて、難しい問題を出して、問題が解ければ通行できたが、問題が解けないとヤツデのような大きな羽団扇を扇ぎ、人を海の方へ吹き飛ばし、ここを通る人は恐れ難渋していた。
 ある日のこと、ここを通りかかった酒売りの『吉つっあん』が天狗さんに捕まっていまった。「ど、ど、どうぞ、おた…お助けください。」と震えながら言うと、天狗さんは笑いながら
「わしの問答に答えりゃお前のいうことを聞いちゃろう。じゃが答えられなんだら海の中じゃぞう。ええか。」
「ところで、お前は酒売りじゃが酒は持っているか」と大きな声で尋ねた。
「はい・はい。この通り一斗樽にいっぱい持っておりまする。」
「なるほど、ところで、どんな枡を持っておるのじゃぁ」
「はい。7升枡と3升枡を持っておりまする。」
「それはちょうどよい。お前はその酒を2つの枡だけ使って、5升づつに分けてみよ。一刻以内にできりゃあよし、できなけりゃあお前は海の中じゃぁ」
はじめはタマゲテ(驚いて)いた『吉つっあん』もだんだん落ち着いてきて天狗さんと約束をした。
「はい、はい、ようございます。その変わり一刻以内に出来ましたなら、あなたはここから立ち退いてくださいませ。
「よし、よし。せいぜい考えて海の中に飛ばされんようにせえ。」
そこで『吉つっあん』は一生懸命考え出した。1斗は10升じゃ。7升枡に一杯汲むと3升残る…。7升枡から3升汲むと6升と4升に分かれる…これじゃいかん…ええと…ええと…「出来たぞう」半刻ほどして『吉つっあん』は大声を上げ、枡を取って6回出し入れをしてちゃんと5升ずつに分けた。
それを見ると天狗さんは、黙って辻堂から姿を消して、二度と道行く人を困らすことはなかったという。

 さぁーて『吉つっあん』はどのようにして、5升ずつに分けたのか。
回答
 @3升枡に3回酒を酌んで7升枡に移すと、3回目には2升残る。
 A一杯になった7升枡の酒を1斗樽に戻す。
 B3升枡に残った2升の酒を、7升枡に入れる。
 C1斗樽から3升汲んで、7升枡に移す…7升枡には5升の酒…1斗樽にも5升残る。





 

        (地図)松山市 中島 辻堂トンネル(峠)