小市(おいち)島にまつわる話(中島)

 釣島と二神島の丁度真ん中ところに小市島というお椀をふせたような小さな無人島がある。
 この小市島の名前にまつわる話。
 むかしは船といったら帆まい船(帆掛船)で、たくさんの荷物が運ばれていた。そんな船に、芳造という船方がいた。芳造は途中の港で『小市』という娘をみそめ「嫁にしちゃる。」と言って『小市』を舟に乗せた。ところが、この芳造、家にはちゃんとした嫁さんが居るのに『小市』にちょっかいをだしてしまったものだから何処かで『小市』と別れねばと考えていて、航海の途中の島に『小市」を置き去りにしようと思いついた。「船に酔ったのだったら島で一休みしよう」と芳造に言われ、『小市』は島に上陸してのんびりしてる間に置き去りにされてしまった。哀れな『小市さん』。声を限りに芳造の名を呼び続けていた。呼べど叫べど船は戻って来ない。船影はだんだんと小さくなって見えなくなってしまった。食べ物も無く、水もろくに無い無人島だったので『小市』は、騙した芳造を呪い、置き去りにした船を怨み、とうとう狂い死にしてしまった。
 それからのこと、この島の近くを船が通ると、怨めしそうな女の声で《水をください…水をください… ・・・》と呼びかけながら何処までも追いかけて来る【船ゆうれい】が出るようになった。船方が、柄杓(ひしゃく)に水を汲み渡そうとすると、女は、にたぁ…と笑って柄杓を取り上げ、船の中へどんどん潮水を汲み、船が沈んでしまうまで止めなかった。また、闇夜や嵐の夜には、近くを通る船が沈んだという。そこで【船ゆうれい】が出た時には、柄杓の底を抜いて渡していたが、何時の頃からか誰か知らないが、この島に小さな祠を建てて『小市さん』の霊を弔ったいう。それ以来【船ゆうれい】は出なくなり、誰言うとなく、この島を【小市島】と呼ぶようになったという。


 

        (地図)松山市 (中島)小市島