境界はきっちり確認しておこう

  民法234条は「建物を築造するには、境界線から50cm以上の距離を保つ」と定めている。一方、建築基準法65条は、自治体が防火地域や準防火地域と定めた域内については、外壁が耐火構造であれば境界線に接して設けられるとする。

両者の矛盾から建築現場ではトラブルが絶えなかったが、最高裁は1989年9月「建築基準法65条所定の建物については、民法234条の適用が排除される」という判断を下した。つまり、民法と異なる慣習がある場合、慣習が優先する」と解説する。

つまり狭い敷地いっぱいに家を建てることが常態化している都市部では、50cmルールは適用されないのだ。

慣習は時代によっても変化もする。以前は隣と離して家を建てることが当然であった地域でも、相続などで土地が分割されるうちに50cmルールが無視して建てられ、時間の経過とともにその地域の慣習とみなされる場合もある。

他人の物でも、10~20年間(善意は10年、悪意は20年)平穏かつ公然と占有した場合は、その所有権を取得できるという規定が民法162条にある。これを「取得時効」といい、例えば隣家がAさんの土地に越境して塀を建て直した場合、黙認していると、将来的に食い込んだ範囲の土地の所有権を失うことになる。越境に気づかず放置した場合も同様だ。

Aさんが先に境界に塀を建ててしまう防御策はどうか。自分の土地の中に建てるのであれば、相手の許可は要らない。だが、通常塀には幅があり、「都市部では数十年前に建てられた塀を巡り、境界線が塀の端なのか中央なのか、数cmの違いで紛争になる」といわれる。

将来のトラブルの芽を摘むには相手と話し合い、境界線について合意を取り付けておくのが得策だ。両者立会いの下で境界線を設置し、測量図や印鑑証明を添えた確認書や同意書を交わす手続きは「民々境界確認」(行政所有地と私有地の境界確認は「官民境界確認」と呼ぶ)と呼ばれる(土地家屋調査士がこれらの専門家である)。

法律上、境界には「公法上の境界」「私法上の境界」の二種類がある。前者は行政の定める区画(地番)の境目で、所有者同士で勝手に決めることはできない。公的な境界は自明なものと考えがちだが、公図は明治時代の測量などを基にしており、あいまいなケースが多い。

また「境界標は設置されていないことの方が多い」。宅地造成などで境界標が紛失する、標であった木などが成長などで動くといった場合もある。

地番の境界を確実にするには「境界確定訴訟」を起こす必要がある。ただ、裁判所は公図や占有状況から決めるため、当事者には不本意な境界に定まることもある。

一方、私法上の境界は所有者や借地権の境目。当事者同士の話し合いで決められる。民境界確認も私法上の境界を確認する作業だ。それで公法上の境界まで一緒に動くわけではなく、公私の境界が分離するケースもある(通常は境界確認書を基に更正登記をするので公私の境界が一致することになる)。

地番の境界とは別に、占有している側が「長期間占有している事実がある」として境界確定ではなく土地所有権確認訴訟で争うこともあり得る。感情的な対立が深刻化する前に、地元の土地家屋調査士会や弁護士会などの無料相談の利用を考えたい。

境界紛争に関連する法律

【所有権の取得時効】(民法 162条)

 20年間、所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の物を占有した人は、その所有権を取得する(占有開始時に善意かつ無過失であれば10年間)

【境界標の設置】(民法 223条)

 土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界標を設置できる

【境界標損壊】(刑法 262条の2)

 境界標を損壊、移動、除去、その他の方法によって境界を認識できないようにした場合、5年以下の懲役または50万以下の罰金

【不動産侵奪罪】(刑法 235条の2)

 他人の土地であることを認識していながら、越境して侵略した場合、10年以下の懲役

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●筆界特定制度が発足

 平成17年春、不動産登記法が改正され、公法上の境界を巡る紛争の新たな解決手段として「筆界特定制度」が発足。平成18年1月20日に運用が始まった。

 筆界とは、公法上の境界のことだ。対象となる土地の所有者などが法務局に申請すると、専門知識を持つ調査員が測量などの事実調査を実施。その結果に基づき、筆界特定登記官が筆界を特定する。

 ただ同制度には訴訟のような強制力はない。裁判に比べれば簡便だが、双方が納得しなければ結局、境界確定訴訟で最終的な解決を目指すことになる。