12月度講演  要旨 「太宰治〜人間失格の文学〜」  菊池 佐紀
@日本文学の変遷
 江戸文学 (西鶴・近松)→ 明治文学 (尾崎紅葉・領口一葉)→ 自然主義文学(田山花袋・藤村など)言文一致体 (二葉亭四迷)→ 芥川・漱石−人道主義文学(志架直哉)→戦後 (太宰治・三島由紀夫)→現代文学への移行(村上春樹からモプ・ノリオ (介護入門) 叙情性・透明感のある文章の否定・ドライマウスの文学)→。
太宰の時代 (昭和八年−二十三年・異常な時代)
Aその生い立ち (明治四十二年)
 津軽屈指の大地主の六男坊として生まれる。大勢の召し使いに囲まれて育つ。父は貴族院議員。中学四年修了で弘前高等学校へ進む秀才。その頃から遊蕩児を気取る.マルキシズムに心酔→組織から逃亡。
B自殺志願
 芸妓、小山初代と知り合う。東京帝大に入学後、初代と同棲。実家より義絶される。カフェの女給、田部シメ子と鎌倉海岸で心中を図る。女だけ死亡。初代とともに谷川温泉で心中未遂。(三度未遂をくり返す)
C昭和十四年、石原美知子と正式に結婚。「富嶽百景」「女生徒J など文筆活動に励む。太田静子を知る。「晩年」によって認められ第一回芥川賞侯補となる。(佐藤春夫への手紙) バビナール中毒にかかり幻想と禁断症状に悩む。
D昭和二十二年、「斜陽」を発表し爆発的な人気を得る.(太田静子の日紀を元にして、女性の一人杯で書く) 太田治子誕生。
  「海はこうしてお座敷に座っていると、ちょうど私のお乳の先に水平焦がさわるくらいの高さに見えた」
  「かず子や、お母さまが今、何をなさつているか当ててごらん」
  「直治の遺書ーぼくは自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然、わからないのです。生きていたい人だけ生きるがよい。人間には生きる権利があると同様に、死ぬ権利もあるはずです。ぼくという草は、この世の空気と陽の中に、生きにくいんです」 (太宰が一生持ち続けた悩み)
E昭和二十三年、 「人間失格」 を発表。 道化−人を笑わせ、相手から軽く見られることでいじめから逃れる人間に対する恐怖感一団体生活がどうしてもできない人間の弱さを売りもの 「グッドバイ」 執筆途中、山崎富栄と玉川上水で入水自殺。
F太宰の文体
 調子の良さに釣りこまれるリズム感。若い読者の感覚に訴えかけてくる−虚 しい明るさー 切ないことを軽く書く−読んで分かりやすい−人を興奮させる魔力を持つ−リアリズムの平易さ。
G三鳥由紀夫の太宰嫌悪
H太宰治と三息由紀夫の比較
○太宰ーパッシヴ(受身) 倫理観の欠如、自殺賛美−自己喪失−道化−女好き、甘ったれ、男にきらわれる。−生れてきてすみません。−人同恐怖症。社会性に欠ける。
〇三鳥由紀夫ーアクティブ (攻撃性) 意志の強固さ−倫理観(几帳面) 女性蔑視−徹底したロマンティシズム
I太宰文学の特色
○心酔と嫌悪−の両極端を持った文学−万人向きではない−吐き気に似た嫌悪感と陶酔感の二派の評価に分かれる。百年に一人しか出ない天才作家。
○時空を超えたふしぎな存在、一般性・現代の作家よりももっと今日的な切実さー自分の心の秘密の代弁者、人間の弱さ、悲しさの根源的なものを赤裸々に描き出す。