10月度 講演要旨(小沼 大八 氏(一遍会代表 愛媛大学名誉教授) 「山人の世界」)
1.どんな生活様式にもそれに見合った生きぎま、モラル、気質が求められる。
2..狩猟採集
・強運、蹄争心、剰悍さ、大胆さ、動物的勘‥・人間の原始心性
狩猟採集では、よい獲物に出会う出会わぬはまったく偶然に委ねられる。勤勉、真面目、誠実だからといって、よい獲物に出会える保障はなにもない。
3.農業
・勤勉、忍従、計画性・・・訓育・自己陶冶を必要とする。
・農業は飼育・栽培を営む.人類が獲得した最初の大掛りな生産活動である。  
.わが国に定着した水田稲作農業は労働集約型農業の典型である。
4.農業を経験した民族のみが現代の高度文明社会に文明人として生き残っている。農耕社会に較べて、格段に生産性の高い社会を実現した現代の工  業社会は、農耕社会以上に勤勉、忍従、計画性といった高度な道徳を必要とする・
5.人類の歴史は基層に狩猟・採集社会があり、そのうえに農耕社会が実現した。
・人類は新石器時代初期(約1万年前)に、ようやく農業に出会った。それは勤勉、忍従・計画性といったモラルを身に付けた新人類の出現を 意味する。
・日本の水田稲作農業は縄文晩期〜弥生初期〈約三千年前〉に始まった。だから、縄文人の基本は狩猟採集民、弥生人は農耕民である。
6.農業が始まると、狩猟採集民はその多くが農民化することになった。かくして、分厚い農民層が形成されるにつれて、勤勉、忍従、計画性といった農民道徳が社会の隅々にまで行き渡る古とになった。
7.狩猟・採集は農耕とは反対に、人間の原始心性に支えられた生活様式である。窮屈な農民道徳を好まず自由奔放で無頼な生き方を好人間はいつの時代にも絶えることはない。非農耕民の存在=縄文人の生き残り。
8.農耕社会が広がり、土地の囲い込み(土地所有)が進むにつれて、これら非農耕民は無主の地である山を住み処とし、山人の世界を形成することになった。
9.わが国では山(奥山)は太古以来、無主の地であり、それは神々の所有する世界であった。農民である里人にとって、山は鼻界であり畏怖の対象だった。
 ・日本列島はその70%が山岳地帯であり、津軽半島の先端から長門の小串まで、平地に降りることなく往来できた。
10.山人たちは里人からさまぎまな名で呼ばれた。
・住む地から 蝦夷、クマソ、隼人、土蜘蛛、国栖、悦色等
・生業から 木地師、山師、マタギ、狩人、サンカ、山賊等
・容姿・風体から 山男、山女、山童子、山姫、山丈、山姥等
神話・童話から 鬼、天狗、雪女、妖怪、沸、仙人、人さらい、紳隠し等
11.太古の列島では生業が違うと祀る神が違った。そして山人たちが所属する生業集団はそれぞれ固有の神をもった。そうした山人の神々は天津神に対する国津神=荒ぶる神の系統を形成した。国津紳神社の一例・・・丹生神社、大山祇紳社、白山紳社.
12.山人の世界は農業を営む里人(農人)からは隔絶しており、修験者や山岳修行者といった特殊な人々だけがかれらと接触をもった。
・高野山守護の二大神=高野明神(狩場明神)と丹生津比売紳
・慈覚大師円仁は磐次、磐三郎兄弟の狩人に導かれ、山寺立石寺を開山
13・山人世界の解体
@江戸幕府の強権による農民化と帰厳による同化
A討死
B子孫断絶
C土着混合
D残余は山人として近代以後も生き残った
14・一遍の16年間にわたる遊行生活はこうした山人たちと絶えず接触を保ち、かなりの援助をかれらから受けていたのではないか。
  浅山円祥師の議L「一遍は幕府と密接な係累関係をもっていたために、日本国中を宗徒を連れて遊行することができた」。こうした見解は一遍が河野氏   出身という貴種であることを強調するきわめて時宗教学的発想といえよう。けれども、こうした発想では「捨型一遍」を正確に捉えることはできない。
15.一遍はなぜ「捨て聖」となったか・・・下根の自覚   
「念仏の機に三品あり。上根は妻子を帯し家にありながら、着せずして往生す。中根は妻子を棄つるといえども、住処と衣食とを帯して、着せずして往生す。下根は万事を捨棄して往生す。我らは下根の者なれば、一切を捨てずば定めて臨終に諸事に着して往生し損ずべきなりと思う故に、かくの如く行ずるなり.よくよく思量すべし」  (一遍法語集)
16・「捨てる」とは、一切の所有を捨てることであり、そのことは無主の世界に生きることを意味する。ちなみに、稲作本位の日本の社会では、家も家族も財産もすべての所有は土地所有のうえに成り立っていた。そして、そうした土地所有の世界を支配したのが河野氏などの守護・地頭であり、その頂点に立ったのが鎌倉幕府である.
してみれば、「捨てる」とは土地所有のうえに成り立つそうした一切の所有体系を捨てることであり、そのことは必然的に山人たちと同根に立つことであり縄文人的、山人的生き方を選ぶことを意味するといえよう。
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