2003年「カフェオーレ」 |
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春 |
初春のエプロンさらりと結びをり 悴みし手に鉛筆の固さかな つらら落ち微かに馬の嘶けり さくさくと刃に軽やかな春キャベツ 付箋貼る辞書の重さや多喜二の忌 ペン先のインク滲みて鳥曇 顔洗ふ猫の手くるりクロッカス 効能を述べて二月の薬売り 春うらら広目天の鼻柱 三月の雨の朝なりマーマレード 春の日や見知らぬ街の等高線 囀りに深く隠れて煉瓦館 春分の朝のオムレツふくふくと アネモネや胡麻入パンが焼けました 街中の景色丸めてしゃぼん玉 スイートピー夫婦二人の理髪店 ジーパンの裾の破れし遍路かな げんげ編む土の匂ひを少し混ぜ |
バケツには鮒が六匹こどもの日 ビー玉のころりきらりと夏立ちぬ ワイシャツのま白き初夏の郵便夫 麦秋や遥かな橋を一輌車 一村を燦燦と染め麦の秋 麦の笛風の強さに吹いてみる 童女にも鬼女にもならむ夏薊 枇杷の種ころんと孤独始まりぬ 妖精の落としたピアス蛇苺 暖簾より京の訛りや冷奴 片陰に放り出したるランドセル ゆうらりと貝のモビール夏館 落し文宛名は栗の木一丁目 晩夏光十七文字のひとり言 |
夏 |
秋 |
すつぽりと鎮守覆ひて蝉時雨 背に重き嬰児の眠りや稲の花 初秋やスケッチブックに旅土産 処暑の朝股下長きズボン干す 竿先のとんぼ左右に首を振り からつぽの校舎にあの日と赤蜻蛉 定食の皿をはみだす大秋刀魚 放浪の僧の踏みゆく白露かな ケーキ焼く秋の心をひとつまみ 呼吸する我は女よ鰯雲 二人の刻ゆるり過ぎ行くマスカット ふるさとの土手うつくしき彼岸花 故郷を呼ぶ汽笛あり秋の風 朝寒や二杯目は濃くカフェオーレ 猫抱けば木犀の香のほのかなり 醤油屋の娘十六みむらさき 烏瓜女のエゴのうつくしき |
冬 |
残菊や風ゆるゆると無縁墓 柚子ごろり母のお手玉ひいふうみい 屋久杉の鈴かろかろと秋惜しむ 木枯しやベイカー街の靴磨き 窓に置く硝子の林檎冬初め 短日や栞はさみし日本地図 ふかふかと仔犬眠りて霜月尽 今日の憂さぐたぐた煮込み葱散らす 湯豆腐や角の取れたる妻の声 手際よく新聞くるり焼藷屋 |