出典 「たぬき日記」前田伍健著(愛媛タイムス社)昭31刊
新春、伊予の八狸めぐり
前田伍健
 寒くても、雪がちらついても、新春という名は、うれしものである。日々紅梅のつぼみが、ぼつつりからあづき粒になり、大杉たぬきの祀あたり即ち松山城山の北側雑木林くまささの茂みには、チヤツ、チヤツと笹なきの声がする。一歩一歩、春が近づいてくるわけであろう。
 この気分が風の穏やかな日などは自然外出を誘う。そこで、新春「八利(八つのたぬき、伝説名跡)めぐり」など如何であろう。もちろん松山近郊のみで、一日の運動あるき且つ、たぬき他ぬき、徳利の福、通帖の徳、大きな腹の.度量、よくきく眼玉の威力、大金玉の財と正直の隠さぬ尾 七変八化の智力等々とたぬきの持つ、おかしみ、軽味、皮肉味、縁起味を味うための八利めぐりである。
県庁前八つ股お袖榎
六角堂
荏原の金平社
 まず、県庁前八つ股お袖榎からふり出し、次は杉谷町の 大杉社、三は六角堂、四は石手へんろ橋のむらさき、引き返えして中村橋の赤幟、久米街道を南へ高井のおさん、続いて七番目は荏原の金平社へ少々くたびれた足を道後の温泉へ第八番順雅園の留守番たぬきを打ち納めとすれば,一寸面白いコースになると思う。もっとも、人数が多く婦人、子供、老人連中の都合で、トラック、バス、ハイヤーを用意してもよく、一句をひねり、弁当のいなりずしに丸八徳利から、お好きな液体を出して、一寸一杯、.小形の絵馬を奉納するのも粋なハイキングと申せよう。帰途一寸化かされて、奥様に叱られるのも一興、新春らしい円転滑稽ではなかろう!か。
 将来は文人連は勿論芸術家水商売、株屋さんなど綺麗どころ、金持ちどころ、風流人など、打交りて松山の一名所伝説めぐりとすれば、たぬ公も喜び、あくせく、りくつ好きお上品組の肩のしこりおとしにもなり、功徳無量、腹つつみ、ぽんぽんと賑うだろうと思うが、如何でござると、毘沙門たぬきの御託宣である。