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富田 狸通
狸 窟
私は過去約四十年を通じて蒐集した狸の器物が陶器、木竹、金物、紙布、牙骨、貝殻、果実、硝子、コケシ類等の諸材料によるもので千五百余種あり、そしてその種類を大別して酒買盤、和尚狸、腹鼓狸、分福狸、金玉狸とその他を一括して河童狸と称して六種類に分けている。
どの種類にもそれぞれの持つ味の特徴と諷刺があるが、今その酒買狸に一例をとって私独得の見解というか狸観というか狸窟を試みて見るとーー 酒賞狸というのは「雨がショボショボ降る晩に狸が徳利持って酒買いに・・・」という唄にある通り、破れた一文字笠を冠って貧乏徳利と通帳を提げペンペンたる太鼓腹を突き出し、そして大きな金玉をブラつかせて、ふとい尻尾を出して丸裸身のままよく料理屋や酒屋の門に立っている狸の姿である。アノ無恰好で剽軽で少しもこだわらない自然の姿の中に偽りも扮飾もないスキだらけで、つき合い易い憎めない親しみと、そしてその無言のうちに教えられる教訓というか処世訓というか円転酒脱の禅味をさえ感得するのである。即ち、
一、破れ笠
破れ笠を冠ったところは「人間上え見リャキリなし下た見てくらせ」の例えで、脚下照顧の戒めである。といって何時までも下たばかり見て暮らす時は向上が失われるので時には上えの方を覗き見て理想と向上心を忘れぬよう必ず破れた笠を冠らせているのである。
二、通帳
片手に提げている通帳は記入せぬ通帳で常に現金払いを心掛け決して無駄費いをせず勤倹貯蓄を慫慂している。
三、徳利
また片手にブラ提げている貧乏徳利には天下の玉箒である美録、即ち百薬の長を貯えて倦むことを知らぬ気力を蔵している。(飲めば心配を払い除くからいう
酒の異称。)
四、太鼓腹
腹つづみを思わせる腹の大は肚の力を表わす大人物の象徴で「よしッわかった」とポンと腹をたたくと万事OKの太ッ腹。
五、金玉
ダラリとのびた金玉の大は気前えのよい前え金で、しかも延びる広がる包むの八畳敷の縁起に通ずる融通性と大度量を表わす大金袋である。
六、眼
狸寝入りが出来て調法な大きな眼玉は観音の慈愛を示し眼光の鋭きは紙背に徹する達観と洞察刀を表わす天下見通しの炯眼。
七、尻尾
トンと突けば引っくり返えりそうで頼りない不安定な恰好だが、どっこいそうはいかんと、でっかい尻尾でどっしりとキマリをつけているところは用意周到で、めったに振ったり巻いたりつままれたりする尻尾ではない。男らしく謝まる時には尻尾を出して陳謝する位いの度量は心得たいものであるが、常垂れに出す尻尾は大根や人参の尻尾にも劣る使いみちのないものであることを知ってもらいたい。
八、丸裸身
誰に遠慮もなく臍も金玉も丸出しの裸身の平気で突っ立っているところは巧言令色を知らず、また不平不満もいわぬ最低の生活に馴れた姿である。
以上の狸窟を考えると、この酒買狸の姿こそ真に人生哲学の妙諦ともいえるたくましい信念の大ポーズであることがわかる。
高浜虚子先生も俳誌「いそな」の昭和三十四年六月号に信楽焼の狸像の由来と題して、
(一)狸は晴雨にかかわらずいつも笠を冠っているのはこれ即ち要心深いことを表わす。
(二)狸の睾丸の大きいことは古来有名でこれ即ち大金持ちになることを表わしている。
(三)狸は人間に最も信用厚く、みそか払いの通帳を提げているのはこれ即ち信用の大切を表わすもの。
(四)狸はいつも徳利を提げている。これ即ち世の中は徳だけでは立ち行かず、一方に利が伴わなければならぬことを表わすもの。
(五)狸の腹鼓もまた有名だが、狸の腹はあくまでも白く塗ってある、これ即ち太っ腹で且つ腹黒からず善人であることを表わしている。
(六)狸は尾が末広がりに開いていて人間のように立っているのはこれ即ち将来益々発展大成することを表わしているのである。と狸窟を付けて狸を礼讃している。
また日本狸宗同人の蘭洞道人は狸公八相として
笠、後援者、指導者であり不時の災を避けるために朝の備えと夜の護りを物語っている。
目、四方八方に注意の瞳をくばり物事を見極め、またすべてを正しく見ることを表わしている。
顔、向上心と世は広く愛想よくつき合い面子をつぶさない表現。
徳利、飲食の恵みを感謝し我利を離れ徳と利益とGは飲 食八分の長命を教える。
通帳、神に通じ人道を守りすべて信用を重んじ経済の発展を期す。
腹、大度量と満足明朗と気力に富み不動万難解決を物語っている。
金袋、身につく金銭を自由自在に大きく広く活用し、天真野趣よくものを生ずることを物語っている。
尾、終りは大きく身を立て八利九利上手に物事を処理し不要の要を物語っているものである。
と、うそかほんとか狸礼讃者は何れも狸窟を付けて自らよろこんでいる次第である。