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星と宇宙の話

あとがき

 あれは私が6歳の時であったと思う。当時、師範学校の生徒であった兄に連れられて裏山に登った。

 長い春の一日が終わり、真紅の太陽が瀬戸内海の彼方に沈んでいく。薄もやに包まれた谷あいの寺から夕べの鐘が響いてきた。太陽の下縁は島の頂上に接し、やがてゆっくりと島かげにかくれていった。荘厳とか静寂とか悠久とか幾多のことばを知った今日においても、あの日の感動を表現するすべを知らない。

 天体と宇宙の神秘にふれた最初の経験であり、無限悠久なるものに対する限りない憧憬の原体験ともいえようか。以来、星にあこがれ星を見つめて幾歳月、いつしか天命を知るべき年齢を過ぎた。

 ここに収めたものは、昭和38年以来「愛媛自然科学教室」の機関紙「愛媛の自然」へ毎月掲載したものであり、他に若干「愛媛新聞」等に掲載されたものもふくまれている。

 交通地獄、物価高、各種公害など息苦しい社会の騒音はもとより、幾多の内心の苦悩にあえぐ人間界にあって、しばしの安らぎを星空に求めるよすがともなれば幸いである。

 私をして星の世界に目を開かせてくださった山本一清先生、野尻抱影先生、村上忠敬先生をはじめ幾多有縁の方々に深く感謝する次第である。