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祈り   宇都宮 玄秀(うつみや げんしゅう)
聖なる川ガンガー(ガンジス川)。太陽が昇ると、水面は一瞬に黄金色(こがね)に染まる。その中で一際(ひときわ)、赤味を帯びた一条の光の道が通り、巡礼者と太陽が線上で結ばれる。
この刻( とき)、西岸に立つ色とりどりのサリーをまとった女性たちや、腰布一枚の半裸姿の男たちは、それぞれに川岸の階段を降り、ガートと呼ばれる沐浴場で身を浄める。
ここベナレスの地は、ヒンズー教徒が一生のうちに一度は訪れ、ガンガーで沐浴したいと願う重要な聖地である。とりわけ、朝の光が川面でやわらかく融けあうこの時刻に、身を浸(ひた)し心身を浄めることは、法悦の極みであり最高の功徳があると信じられている。
紫色のサリーで、緑色の腕輪を幾重にもした女性が腰まで浸かり、両手で掬(すく)った水が光を反射し、宝玉をちりばめたように指の間からこぼれ落ちる。その動作を何回か繰り返した後、おもむろに両手を合わせ少し頭(こうべ)を垂れて、静かに祈る。人として最も美しく、尊い御姿である。

仏教の真の祈りは、自分勝手な欲得だけの小我の祈りではなく、執着を離れた他のために祈らずにはおられないという大我の祈りである。自分のことはさて置き、まずあなたからという思いやりであり、慈悲心である。

今、ここに感謝し、至心を込めて祈る。

 合掌

なにごとの おはしますかは知らねども 恭(かたじけ)なさに 涙こぼるる     −− 伝西行 −−

(大分・長福寺住職)