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続 山頭火句五題話 再び殺か放か 高村 昌雄 H13・12・25 9号
 再び殺か放か
 「鉢の子第8号」の「山頭火句五題話」の「その三・殺か放か」で、毎日新聞社主催の「山頭火展」の図鑑に収録された

 大きな蝶ゝを 殺したり 真夜中

の句の読みが「ー放したり真夜中」となっており、書評に「殺したり」は「放したり」の誤りであると記されているが、山頭火のペン書き文字から見てやはり「 "殺したり"ではなかろうか」と書いた。それに対して、山頭火ふるさと会俳句大会の選者を務められている藤原嘉久さんから「俳句の実作者としては、やはり“放したり“ だと思う。山頭火は心根の優しい人だから、やたらに殺したりすることはしなかったと思う。」という意見がよせられた。
大きな蝶
ゝを 殺したり 真夜中
大きな蝶
ゝを 放したり 真夜中
 また、富永鳩山さんからは「短冊の文字の“つくり" の部分へ殳〉の書き方から見て〈殺〉とは読めない」といわれた。実は書評を書かれたののは、富永さんである。富永さんほどの書道の大家が、自信を持っていわれのだから、〈放〉と見るのが本当だろうとは思う。しかし、富永さんに楯突くつもりはないが、私は、まだ左半分の部分の第一画の書き方が〈メ〉になっているように見え、〈方〉ではなく、〈〉ではないかと思っている。
下の字のうち、(a)は問題の字、(b)は昭和56年に毎日新聞社の行った「山頭火展」の図録に出ている「天われを殺さずして」から採った「殺」、(c)は「句日記」昭和15年8月5日の「自殺せる弟を憶ふ」から採ったペン字の「殺」、(d)は「くずし字解読辞典普及版-近藤出版社」から採った「殺」、(e)は前掲の図録83頁に出ている「句日記抜粋」のうち「放哉墓前」から採った「放」、(f)は前掲くずし字解読辞典から採った「放」である。見比べてもらいたい。
 また、前号で述べたようにこの「蝶」は「蛾」であったと思っていることも「殺」にこだわる所以である。蝶はめったに夜間飛翔したりしないものである。たぶん「クスサン」ではなかったろうか。山頭火といえども気味の悪いものは殺してもいる。いずれにしろ、どちらかに決めておかねばならない。誰か納得できる説明を聞かせてほしい。