甃(いし)のうへ (三好達治)

いしのうへ


 あはれ花びらながれ

 をみなごに花びらながれ

 をみなごしめやかに語らひあゆみ

 うららかの跫音あしおと空にながれ

 をりふしにひとみをあげて

 かげりなきみ寺の春をすぎゆくなり

 み寺のいらかみどりにうるほひ

 廂々ひさしびさし

 風鐸ふうたくのすがたしづかなれば

 ひとりなる

 わが身の影をあゆまするいしのうへ



三好達治みよしたつじ 測量船そくりょうせんより>





 

 甃(いし)・・・石。

 あはれ・・・作者が命のはかなさを思う感嘆詞。

 をみなご・・・若い女の子。

 うららか・・・天気が良くて穏やかな様子。

 をりふしに・・・ときどき。たまに。

 跫音(あしおと)・・・足音。

 瞳(ひとみ)・・・眼の中心にある黒い所。



 翳(かげ)りなき・・・変わりのない。

 み寺・・・古い立派なお寺。

 甍(いらか)・・・かわらぶきの屋根。

 うるほひ・・・しっとりとしたさま。

 廂(ひさし)・・・軒(のき)に差し出た小さな屋根。

 風鐸(ふうたく)・・・軒につってあるつり鐘型のもの。

 あゆまする・・・進める。