1. 出会い

 1998年、11月6日金曜日。私は友人のTさんとその愛犬カールと、車でお出かけしました。
カールがいると、自然、犬の話題になります。車を運転しながら、言いました。 「私もカールみたいな、おとなしい犬を飼いたいわぁ。でも、犬を飼うと今までの自由がなくなるよね。そんな事を考えると、 決心がつかなくて、積極的に探す気にはなれないのよ。子供の頃、犬を飼っていたこともあって、犬は大好き。 飼いたい気持ちも強いのよね・・・。」そういう私に、Tさんは言いました。
 「きっとそのうち、縁のある犬に出会うよ。カールもそうだったのよ。そろそろ犬でも飼いたいなっておもっていたら、 娘の友達が拾った犬を、その家で飼ってもらえないからと、連れて帰ったのよ。」
カール
この小屋の前にハルが
 そんな話をしているうちに、目的地に着きました。
 山の中にある、陶芸家の工房です。
駐車場に車を止めると、生後6ヶ月くらいのビーグルが座っているのが、見えました。そのビーグルは、 カールを見てうれしかったのでしょう。飛ぶように走ってきて、カールにまとわりつきました。
私とTさんは、突然可愛いビーグルが現れたので、大はしゃぎでした。さっきの話もあって、Tさんは、 「この犬が野良犬だったら、連れて帰れば?」私はまさかそうだとは思わなかったけど、「そうね〜。」と、 軽く答えました。
 工房を訪ねて、陶器を見せていただきながら、お聞きしました。
「あの可愛いワンちゃんは、こちらで飼われているのですか?」
「いいえ、今朝からこの辺りをうろついていて、困っているのです。この辺りはよく捨て犬がいて、 以前にもうちで飼ったことがあるのですよ。」
Tさんと私は、来るまでの会話をそこの奥さんに話し、縁のある犬かもしれないって、私がつれて帰ることに 決めました。
 車に乗せるため、抱き上げました。 首輪もなく、毛も汚れて悪臭がしているのに、よく肥えていて、ずっしりしました。 また、全く躾ができていないけど、人なれしているらしくて、おとなしく車に乗りました。 家まで帰る車の中で「ハル」と名づけました。前々から、犬の名前は考えていたのです。
 「ハルちゃん、臭い〜!」車の中は、今までにないような匂いがこもっていました。 ハルは車の中で、草やバッタの肢のような物を吐きました。お腹がすいているに違いないと、 帰る途中で買ったドッグフードを、家に着いてすぐ与えました。食べる食べる食べる・・・ 仔犬とは思えないほど食べました。少し眠った後は、シャンプーです。蚤やダニがいました。 シャンプーの泡は、黒くなって流れました。

2. 第一夜

 ハルとの出会いにすっかり感動したTさんも、夕方にはカールと帰ってしまいました。
 ハルは、カーペットの角に座って、私をうかがっていました。洗濯物を取り込みに行こうとすると、 吠えながらついて来ようとします。吠えるとしかり、カーペットに座るとほめて、頭なでなでを繰り返すうち、 通じたかのように、寝転んで甘え始めました。ほめながらネンネよ、と離れると、そのままおとなしくなりました。 それから私が家事をする間、すやすやと眠ったのです。夜は外につないで寝かせました。
 深夜、鳴き声で目をさまし、出てみると、 ハルがじゃれかかってきました。しばらく相手をして中に入ろうとすると、大きな声で吠えます。 近所迷惑になるので、ヒヤヒヤしながら、「だめっ!」ハルをしかります。 そんな繰り返しをして、再びお布団に入り、うとうととして目が覚めると、静か過ぎます。 様子を見ると、ハルがいないのです。首輪をするりと抜けて、出て行ったようです。時刻は午前3時ごろ。 急いで服を着替えて、ハルを探しに出ました。遠くに行ってしまったら、見つけられない・・・そう思いながら、 近辺を一周して我が家に近づくと、近所のお庭から黒い影が走り出てきました。 暗がりでもハルだと分かります。抱き上げるのと、ハルが飛びつくのが同時でした。

3. ハルの飼い方

 翌朝、私は睡眠不足で、ボーッとしながら朝食を食べました。
 ハルをどういう飼い方をするのか、主人と相談しました。庭で放し飼いということに、一致しました。
早速、ガーデニング用のフェンスなどで柵をして、ハルができるだけ庭で自由でいられるようにしました。 それから5日後、ペット病院で健康状態を診てもらいました。お腹に寄生虫がいたのは予想していましたが、 目の中にも寄生虫がいたのには、驚きました。麻酔をかけて、先生が一匹ずつ取り出し、
70匹もいたそうです。 他は問題がないようでした。
しばらくして、不妊の手術もしました。これで私達には、ハルに対して大きな責任が できました。ハルを世界一幸せな犬にするつもりで・・・なんて、思いました。 でも、幸せにしてもらっているのは、主人と私かもしれません。 ハルが我が家に来てから、私が頭を抱えていたことでも、いつも上機嫌のハルが、気持ちを やわらげてくれました。又、いつの間にか私は、笑顔でいることが多くなりました。
 「ハルが来た」日から、我が家ではいつも、「春が来た」と、感じています。

4.2003年 あれから5年

一年に少なくとも2回は、ハルと出会った佐礼谷窯さんの 作品を見せていただきに行っています。(左の写真は、私が初めてハルを見た場所を、4年半後のハルが、クンクンしているところです) 訪れる度に、ハルと出会ったあの場所を、私は懐かしい気持ちで見ています。
又、毎年11月6日になると、自然とあの日の事を振り返ります。初めて抱き上げた時の重さ、感触、臭いなど。ハルには 首輪やオモチャなど、小さなプレゼントをして、夕食のフードの上には、ささやかなご馳走をのせます。 もう二度とバッタや草などで飢えをしのがなくていいように。 でもハルは、もうそんな自分の過去を忘れたかのように、すっかり我が家の家族になっています。
私の老母が我が家で過ごす時、ハルは、おばあちゃんの良いお友達です。
母が来ると、ハルは尻尾フリフリ、ニコニコ笑顔で大歓迎するので、母もとても歓びます。 (右の写真は、おみかんを食べている母に、おねだり中のハルです)
ハルを見ていると、主人も私も母も、自然に笑みがこぼれてきます。
ハルは今、推定5歳半です。まぶたの毛が、少しだけ白くなってきたように見えます。 いつまでもおバカで悪戯好きの、子犬のようなハルでいてほしくて、ちょっと寂しい気分です。

5.2008年 あれから10年

早いものです。もう10年経ってしまいました。 ハルと出会った日、一緒にいたカールは、今年、14歳で旅立ってしまいました。 又、ハルがきっかけで知り合ったワンコ達が、旅立ったお知らせがある度に、寂しい思いがしています。 ハルの推定年齢は10歳と6ヶ月。頭の毛はずいぶん白くなりました。 子犬の頃は、おでこに蝙蝠のような黒い模様があったのに、 今ではその名残もありません。でも嬉しいことに、まだまだ元気な悪戯っこです。 一緒に旅行をするのがとても楽しみです。 あとどのくらい一緒に暮らせるでしょう。ハルの暖かい体温が幸せです。
「2013年 あれから15年」が書き加えられますように・・・。

6.2011年 13年経って

(2011.11.06更新)
ハルの推定年齢は13歳6ヶ月、あの悪戯っ子が、すっかり老犬になってしまいました。 厳しい残暑が続いていた頃から衰えが目立つようになり、 涼しくなれば、また元気になれるかもしれない・・・そう期待していましたが、 秋になってもハルの老化は止まりません。今は歩くのもやっとになってしまいました。 かかりつけのペット病院で、詳しい血液検査をしてもらっても、 お薬で改善できる病気は見つかりませんでした。
10月には計画どおり、九州へ旅行しました。 ハルと一緒の旅行も、これで最後になるでしょう。 ハルに負担がかからないよう、何度も休憩を取り、ゆっくりと行きました。 意外にも、まだこんな力が残ってたんだ!って嬉しくなるほど元気に歩き、 久しぶりに吠える声を聞くことができました。
旅行から帰った夜も、いつものように二階へ上がり、自分の寝床で休みました。 そしてその翌日、ハルは二階へ上がるのが一段と辛そうでした。 「ハル、頑張って!」そう声をかけながら見守っていたけれど、 ハルは上がることができませんでした。 もう二階で寝るのは無理でしょう。その夜から皆で一階で寝ることにしました。
ついこの間まで元気だったハルを思い浮かべては、寂しく悲しい気持ちになりましたが、 今まで以上に大切にして可愛がり、幸せな老後にしてあげなければ・・・そう考えることで、 私の気持ちも少し楽になりました。
今はハルと過ごす一日一日を大切にして、それ以外の事を考えないようにします。

7.2011年12月4日 別れ

(2011.12.08更新)
11月12日、日ごと弱りつつあったハルが、元気に見えた日でした。 ハルも体調が良いと感じたのか、二階へ上がった主人を追っかけようとしたらしく、 ずっと避けていた階段を2段ほど上がったところで、私が見つけたと同時に 滑り落ちてしまいました。駆け寄って抱き上げましたが、怪我はありませんでした。 今思えば、ハルが元気に見えた最後の様子でした。
11月16日、夜、立ち上がることも寝返りをうつこともできなくなりました。
11月27日、それまで痛みも苦しみも見せなかったハルに、初めて発作のような苦しみが襲いました。 いよいよもうダメかと思いましたが、治まれば何事もなかったように静かに眠りました。 その後、ハルは一層衰弱したようです。食欲を見せても、わずかしか飲み込むことができません。
12月2日から、何も食べず、少量のお水を飲むだけで、ほとんど眠ってばかりでした。
12月4日、夜、しばらく私の膝の上に寝かせていると、気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていました。 私の膝の上はハルの体温でとても暖かでした。 ハルをマットに寝かせ、10分か15分ほど目を離した間、ハルの呼吸は止まっていました。 出会った日から13年と29日。静かな旅立ちでした。楽しい思い出ばかりです。ハル、ありがとう。 ハルのお話は終わりです。