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42ND STREET(フォーティーセカンド・ストリート)No.11 「シュウとの恋は終わった」と呟く私は悲しかった。 私はシュウのことを忘れてしまいたかった。 この街のどこかにシュウがいると思うだけで太陽が降り注ぐ夏の日が寒々しくなっていく。 彼が今どこにいて、何をしていて、どうなっているかとあれこれ考えたくなかった。 「私には関係のない話だ」 と自分に言い聞かせながら暮らすことが、卑怯者のすることだ と分かっていた。 今にして思えば、あの時、なぜ私はシュウを探さなかったのだろう。 私はこのことを何度も、何度も歳を重ねるたびに問いただしてみた。 この恋がこれで終わりを告げたなら、これほどまでに苦しむことはなかったのにと言い聞 かせた。どんなことをしてもあの時、私はシュウを探すべきだった。 そして二人でブロードウェイを走ったようにしっかり手を繋いで二人でマンハッタンを 駆け抜けるべきだった。 しかし、私にはそれができなかった。 子供の時から、嫌なことがあると逃げることしかできない私はこうするしかなかったのだ。 七月になると私の傷はほとんど痛みを感じなくなった。 私は稽古だけでは物足りず、久しぶりにダンススクールに行ってみた。 マリアたちのクラスを覗いてみると、いつものメンバーが集まっていた。 「ヨーコ、どうしていたのよ」 とスタジオの隅にいたマリアが飛んできた。 私は思わずマリアに抱きついた。 彼女のぬくもりは変わらなかった。 「心配していたのよ。ヨーコ」 「マリア、ごめんなさい。心配かけて」 「ミュージカルの稽古が大変なのでしょう」 「うん。でも、怪我をしてしばらく稽古もお休みしていたのよ」 「それで、もう大丈夫なの?」 「マリア、今夜、時間ある?相談したいことがあるのよ」 「いいわよ。うちにおいでよ。彼は仕事でいないから、ゆっくり話そう」 私はアッパーウエストにあるマリアの家に着くなり、夢中でシュウのことを話した。 「マリア、夢の中で二発の銃声が聞こえるよ。ひとつは私の肩に中り、残りはシュウの頭 に中ったような残像がいつまでもあるのよ」 「それって、シュウが撃たれたってことでしょう。確かめることはできないの」 私の記憶の中で、シュウが私を庇おうとして撃たれたことを認めたくなかった。姉と同じ 犠牲者をもう作りたくなかった。 「私、怖くて行けない。それに銃弾が恐ろしくてシュウを探しになんかいけないわ」 姉のことを思うだけで、私は震えが止まらなくなる。 私が急に道に飛び出し車にひかれそうになったときに、助けてくれた姉の二の舞にシュウ をしたくなかった。 「それでも、助けたくれた人を探すのはあたりまえじゃない」 「夢だと言っても、気になるのでしょう。彼のことが」 「私、怖いのよ。彼がどうなったか知るのが怖いのよ」 「でも、シュウのこと愛しているんでしょう」 私はマリアにこう問いかけられても、愛していると答えられなかった。 結局、私はマリアに話すだけでどうしてよいのか分からずに言えに戻った。 私は稽古に没頭しようとしたが、結局アルコールに溺れていった。 私は42NDにある稽古場に毎日に通ったが、すぐ近くにある香織さんの店には、あの日 から一度も行くことはなかった。 もう、私はシュウが夜中にドアを叩く音で起きることも、Make love でシーツがグチャグ チャになることもなく、ひとりで夜を過ごすことに次第となれていった。 ただ、いつまでも口癖のように「シュウはどうしているのだろう」 と、つぶやくのだった。 「来週からヨーロッパ遠征だ。実力を認められたものだけが行ける。君達はこのブロード ウェイで光輝くスターだ」 プロデューサーのジェームスが話し出した。 私の頭の中は深い靄に包まれていた。 私は自分の名前を呼ばれなかった記憶が蘇ってきた。 手のひらは汗ばみジェームスに声が遠くなっていくのがわかった。 私はそっと呼吸を整えた。 ドクドクと真っ赤な血が私の身体中を凄い勢いで流れる。堪らないほどの興奮だ。 そして、一瞬にして毛穴が逆立ち、驚愕した。 名前が呼ばれた。ジェームスが「ヨーコ」と呼んだ。 「ヨーコ・アリカワ」と呼んだ。 私は立ち上がりながら、大きな声で「やったー」と叫んだ。 「たかがダンサー、されどダンサーだ」 歓喜の渦は果てしなく広がった。 アパートに帰ると、すぐにシャワーを浴びた。 いつもよりゆっくりと身体を丁寧に洗った。 シャンプーも頭皮がごしごしと音を立てるほど洗った。 シュウのことが泡のように流れてバスタブの排水溝へと消えていくような思いがした。 |