さいとうよし子ちゃんのボール 第二球「ごまめちゃんの涙NO.6」 

洞窟に近づくと潮の流れが突然早くなり、あちこちに小さな渦巻きが現れていた。
ボール君は目に前に見える三日月の洞窟が不気味に見えた。そして、この洞窟から流れて くる冷気が嫌な予感を抱かせた。
「ごまめちゃん、気をつけないとあぶないよ」
「だって、おかあちゃんの匂いがするんだ」
「なにもしないけど、それよりこの洞窟、気持ち悪いよ」
「何言っているのよボール君。今度こそ、おかあちゃんに会えるのに変なこと言わないで よ」
「変なことじゃないよ。僕は思ったことを言っただけだよ。ごまめちゃんには分からない かもしれないけど、嫌な予感がするンだ」
「おかあちゃんがこの中にいるンだもん!早く会いたいよ」
「ごまめちゃん、落ち着いてよ。ごまめちゃんの気持ちは分かるけど・・・」
「ねえ、ボール君、はやく行こうよ」
「この洞窟、なんだか奥が深くなっているみたいだよ。もう、暗くなったし、やっぱり明 日にしようよ。ごまめちゃん」
「ボール君の意気地なし。こんな洞窟どこにでもある普通の洞窟よ。ごまめのおかあちゃ んが待っているから、早くいくよ」
「分かったよ。でもな・・・・」
「もう、ボール君はここにいればいいでしょう。ごまめ一人で行くから!」
その時だ。
今まで感じたことのない冷たい潮の流れが広がってきた。そして流れは洞窟に向かって行 った。ボール君は身体がピンと強ばり流れに乗らないように岩場に身体を寄せた。
ごまめちゃんはこの冷たい潮の流れにながされ、暗い洞窟の中に吸い込まれるように行っ てしまった。すると、大きな波しぶきが上がり、海面から黒いおおきな影が浮かび上がっ た。ボール君は岩陰からこのえたいの知れない生き物の影が見えた。
「何だよ。これ!ごまめちゃんが危ない」
ボール君は大きな声で叫んだ。
ごまめちゃんを追うようにその黒いおおきな影は洞窟に入っていった。
そして、ボール君もごまめちゃんを助けるために暗い闇の中に入った。ボール君は洞窟に 入るなり、天井からぶら下がっている白い石灰石の鐘乳の大きさにびっくりして息を飲ん だ。月明かりも届かない暗闇で、ボール君はごまめちゃんをどうやって探そうか途方にく れた。ましてや幾つも分かれている水路のどこにごまめちゃんが流されたのかまったく見 当がつかなかった。
ボール君は耳をすまして、ごまめちゃんの声が聞こえるのを待った。不思議なくらい洞窟 は静まり返っていた。
「それにしても、あの化け物はどこに行ったのだろうか?」
ボール君は誰とはなしに呟いた。すると、
「おまえ、こんなところで何しているんだ」
「えぇ、君はだれ?」
ボール君は振り向いて声の主を探した。