さいとうよし子ちゃんのボール 第二球「ごまめちゃんの涙NO.5」 

ボール君は、タマちゃんからごまめちゃんのお母さんと別れた洞窟の場所を聞いた。
そこは房総半島だった。
ボール君はごまめちゃんとの約束をはたそうと房総半島に行くことを決心するが、よしこ ちゃんに早く会いたい思いはかわらなかった。
「ごまめちゃん、おかあさんを探しに行こう」
「ボール君、ほんとうにおかあちゃんのいる洞窟にいくの」
「そうだよ。洞窟にいこう」
「今度こそ、おかあちゃんに会えるね」
ごまめちゃんは身体をぐるりと回りながら勢いよく泳ぐと水面に飛び上がった。
「ごまめちゃん、そんなにうれしいの」
「だって、おかあちゃんに会いたいンだもん。ねぇ、タマちゃんも一緒にいこうよ」
「ごまめちゃん、ごめんね。私は行けないわ。ここに残るわ」
「どうして?」
「うん。ちょっとね」
「タマちゃん、いっしょに行こうよ」
とボール君もタマちゃんを誘ってみた。
すると、タマちゃんが大きな溜息をついた。
「ボール君、ごまめちゃん、私の話を聞いてくれる」
「うん」
「私ここに残って、私を助けてくれた鯉のおばさんの看病をしたいのよ。私が帰り道を間 違えて、この多摩川に来てしまったときに親身になって励ましてくれたおばさんなのよ」
「タマちゃんは優しいんだね」
「ありがとう。ごまめちゃん、早く洞窟に行くのよ。ボール君、ごまめちゃんを連れて行 ってあげてね」
「タマちゃん、元気でネ」
川原には早朝から人々が集って来ていた。タマちゃんがこの多摩川に来てからのフィーバ ーぶりは異常なものだった。その中をボール君もごまめちゃんも見物人に見つからないよ うに多摩川の河口に急いだ。
 東京湾まで泳いだふたりはぷかぷかと波に乗りながら、身体を休めた。
「やっと、飛行機が見えるところに来たね。ごまめちゃん」
「ねぇ、ボール君。おかあちゃん、洞窟にいるのかな?」
「きっといるよ。もし、いなかったらお家に帰っているよ」
「そうだね。おかあちゃんは死んでないよね」
「生きているに決まっているだろう」
「生きているよね。ボール君」
「心配しなくて大丈夫だよ。ごまめちゃん」
「それよりも、釣り舟に見つからないように気をつけていこう」
「うん」
そして、ふたりは房総半島の先端へと泳いで行った。どこまでも果てしなく続く太平洋が 見えてきた。
ごまめちゃんは今度こそ、おかあちゃんに会えると思いながら西の空に沈む夕日をあびな がら力強く泳いだ。
「ごまめちゃん、タマちゃんが言っていた三日月の形をした洞窟が見えるよ」
「あの洞窟?」
岬の先に見える三日月の洞窟の周りにはいくつもの漣が立っていた。