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42ND STREET(フォーティーセカンド・ストリート)No.7 喧嘩別れをした私は稽古場とダンススクール、そして英会話スクールと詰め込んだ日々を 過ごした。 でも深夜になるとシュウがアパートに来るのではないかとずっと待っていた。 結局、シュウがアパートに来たのは一週間後だった。 「この前は、ごめんな。あれから本気で考えたンだ。俺、あの店を辞めるよ」 と言うと、 シュウは今までのことをぼそぼそと話し始めた。 シュウは青森の中学を卒業とすると、東京築地にある「みどり鮨」に就職した。青森県 五所川原のりんご農家の三男坊には高校に行く学費がなかった。六人兄弟の三番目のシュ ウは青森に残りたくてもそれはできなかったのだ。二人の兄たちも中学を卒業すると東京 に働きにでた。 田中角栄が日本列島改造論を打ち上げ、日本は驚くほどの経済成長をとげたが、そんな 日本経済から取り残された青森のりんご農家は貧困に苦しんでいた。 シュウは兄たちが働いている東京の印刷工場には行きたくなかった。 鮨職人なら修業を積んで一人前になったら、五所川原で店が持てると思ったのだ。そして、 母親に鮨を食べさせたかった。 しかし、上京してから半年ぐらいは、修業が辛くて上野駅に何度も行ったが、同郷の緒方 光司と知り合ってからは、そんなこともなくなっていった。光司は大学を卒業して商社で 働いていたが、鮨職人になろうと二十四歳でこの「みどり鮨」にやってきたのだ。シュウ よりも八歳年上で大卒の光司を兄のように慕っていった。 そして三年が経ち、シュウが十八歳になった十二月にアメリカで一旗揚げようとする光 司に誘われ、二人でロサンゼルスにやってきたのだ。 もちろん、二人はロスの鮨屋で働くことになっていた。しかし、入国許可がおりず、ロス の空港で二日ほど足止めをくった二人だった。結局、光司が頼りにしていた身元引受人は 空港に現れなかった。 そして、光司が気転をきかせて観光ビザということで入国ができた。 (観光ビザはビザが必要ないので入国できるが三ヶ月しか滞在できない) 光司が頼りにしていた鮨レストランのオーナーと連絡が取れて、鮨職人として就労ビザ を申請するという話になった。しかし、三ヶ月過ぎても就労ビザはもらえずに不法滞在を 強いられることになった。 あの頃のロスは、日本を含むアジア人やメキシコ人、そして南米人の不法労働者がたく さんいた。それはロスだけでなく、サンフランやニューヨークも同じだった。そして、シ ュウは三年以上も捕まることなくロスで過ごした。不法滞在でも不便な生活をしていたわ けではなかった。 しかし、光司は学生時代からやっていた空手がちょうどアメリカで大ブームになり、た またま出た大会で優勝したのだ。すると光司は空手の世界で活躍するようになってしまい シュウを残して、鮨レストランを辞めてしまった。 シュウは光司が店を辞めてしまったので、どうしていいのか先が見えなくなった。そし て、店を辞めようとした。だが、マスターにパスポートを取られたままだった。シュウは パスポートを取り返そうとある晩、店に忍び込んで金庫からパスポートを盗み出した。 もちろん、ロスから離れようと覚悟をしていたが日本に帰ることはできなかった。光司は そんなシュウをかばおうとしたが、ラスベガス行きのバスの切符を用意するのがやっとだ った。 そして、シュウがラスベガスからニューヨークに辿り着いた時には所持金もほとんどなく なっていた。 二十一歳のシュウにとって、ニューヨークまさに地獄だった。ロスを逃げ出して、ラス ベガスからニューヨークのペン駅に着いた時、シュウはまともな鮨レストランで働くつも りだった。 「すみません。この店で雇ってもらいませんか?」 とすぐに日本食レストランを訪ね歩い た。どの店も不法滞在のシュウを断わった。 八十年からアメリカは不法労働者の取締りが厳しくなり、摘発が相次いだ。それは雇った 側にも罰金がかかることから、就労ビザのないシュウを雇うところはなかった。 シュウはブロードウェイを途方にくれて歩いていた。そして、ふらふらと横道に入って いった。 それはまるで、映画のように仕組まれた。あっという間にシュウに銃が向けられ、そし て、二人組みの黒人男性がシュウを羽交い絞めにすると、ポケットからお金を奪い取った。 「なにするんだよ」 「静かにしろ。もっと金を出せ!」 「それしかない」 そう言うと二人は呆れた顔をした。そして体の大きな男が、シュウの顔 を足で蹴り上げた。その場に倒れこんだシュウは二人に蹴り続けた。シュウはそのまま意 識を失っていった。 そのまま、野垂れ死ところをかおりが助けたのだ。 彼女はポルノ街のレストランを経営しているチャイニーズアメリカンの日本人妻だ。三 十代後半の彼女がどうしてそうなったのかは、シュウも知らなかった。だから、話してく れなかった。ただ、彼女が命の恩人であることだけは何度も話した。だからこそ、シュウ はそこのレストランを辞めることができないのだと私は勝手に思った。 しかし、理由は別にあった。 |