さいとうよし子ちゃんのボール 第二球「ごまめちゃんの涙NO.2」 

「ごまめちゃん、逃げるんだ。ここで捕まったら、お母さんを探せないよ」
「ボール君、海に潜るわよ」
海の中にごまめちゃんの身体は垂直になった。そして、スルスルと海水をかきわけ海底に 消えて行った。
「ごまめちゃん、そっちじゃないよ。そっちに行ったら飛行場だよ」
「じゃ、こっちね。ボール君」
ごまめちゃんはぐるりと反転すると、あっという間に方向転換をした。シューと微かに泡 が炭酸水のように広がった。
さらに先に行くと、そこはドロドロのヘドロが海底を埋め尽 くしていた。
「うわー、汚い」
「ごまめちゃん、見えるかい?」
「よく見えないよ」
「海面に行ってみよう。さぁ、こっちに行こう」
「ねぇ、ボール君。光がみえるよ」
「あれはアクアラインだよ」
「なにアクアラインって?」
「海底トンネルだよ」
「ごまめ、見たいな!そのトンネル」
「じゃ、このまま行ってみよう」
「ボール君、あのぴかぴか輝いているところが奇麗だね」
「海蛍だ。建物に近づいてみよう」
「人がたくさんいるよ。ボール君もっと、そばに行ってみようよ」
「ごまめちゃん、危ないよ」
「大丈夫よ。また、潜ったら捕まらないもん!」
ふたりは海面からそっと顔を出した。すると、デッキにいる女の子が見えた。
その女の子は、よし子ちゃんが着ていたピンク色の服を着ていた。
「よし子ちゃん、よし子ちゃんだ」
とボール君は叫んだ。
ボール君はその子がよし子ちゃんに見えた。
クリットした大きな瞳、ピーチのような頬、 そして、ぴょん、ぴょんとバンビように走っている姿は二年前のよし子ちゃんそのものだ。
「よし子ちゃんだ。よし子ちゃんに間違いない」
ボール君はごまめちゃんのことをすっかり忘れて、デッキの近くまで行ってしまった。 「ねぇ、ボール君!待ってよ」
「ごまめちゃん、あの子、さいとうよし子ちゃんだ!」
「あの子がよし子ちゃんなの」
「そうだよ。よし子ちゃんだ」
ボール君は力いっぱい弾んで、よし子ちゃんのいるデッキに飛び上がろうと身体の中に空 気を思い切り吸い込んだ。
そして飛び上がろうとかまえた。そのときだ。
「萌ちゃん、帰るわよ」とやさしい女の人の声がした。すると、ピンクの服を来たバンビ のように走る女の子はデッキから姿を消してしまった。
「あの子、萌ちゃんだよ。よし子ちゃんじゃないよ。萌ちゃんと、お母さんに呼ばれてい たよ」とごまめちゃんは大きな声で言った。
「萌ちゃんなのか・・・・」
とボール君は、力いっぱい吸い込んだ空気をしょぼしょぼと 吐いた。
おだやかな春の海はボール君を包み込むように漣がたった。
ごまめちゃんはあの子がよし子ちゃんでなくて萌ちゃんで、良かったと思った。