42ND STREET(フォーティーセカンド・ストリート)No.6

「ただいま!」
とドアを開けるなり、
シュウが「お帰り」とドアの前から顔を出した。
部屋はお酢の匂いでいっぱいになっていた。
そして小さなテーブルには黄色や緑色そして、 茶色の具を中心に白い酢飯のがしっかりと海苔に包まれた巻寿司が花のようにお皿に盛り 付けられてあった。
そして、もう一つの皿にはピンク色のサーモンのにぎり鮨があった。
「お鮨作ってくれたのね。シュウ、ありがとう」
と私はシュウに抱きついた。
「ヨーコ、食べたがっていたから作ったんだ」
「美味しそう。早く食べたいわ」
お鮨を一つ食べるごとに日本を思い出して胸がいっぱいになった。
シュウの作ったお鮨は懐かしい味がした。
私は喋ることも忘れて食べた。ほとんど一人で食べそうな勢いだった。
お吸い物を飲んだら、少し落ち着いた。
もう、お腹がいっぱいになった。私は大きな溜息をつきながら、膨らんだお腹を押さえた。
そんな私をシュウは笑いながら見ていた。
「ヨーコ、スゴイ食欲だね」
「だって、おいしいだもん」
「じゃ、お茶のおかわり」
シュウは優しかった。優しすぎてシュウのことが心配になった。
「ねぇ、今日は仕事がお休みなの。シュウ」
「まあね」
私はシュウに就労ビザの話をはじめた。
「ねぇ、ベスから聞いたのだけど、不法滞在者の取り締まりが厳しくなってアジア人もた くさん摘発されたそうよ。シュウは就労ビザをもらえるの」
「そんなこと無理だよ」
「グリーンカードがないと、捕まってしまうわ」
「あぁ、捕まるさ」
「いやだ。他人事のように言って、捕まったら、強制送還されて、アメリカにはもう来ら れなくなるのよ」
「分かっているよ」
「今のお店は、ビザをどうして出してくれないの?」
「あんな店、ブロードウェイのポルノ街にあるレストランが出すはずがない」
「そんなところで、シュウは働いているの?」
「そうだよ。もう、この話はやめよう」
「なぜ、どうしてやめるのよ」
と私はシュウに食い下がった。
「ヨーコには分からないよ。俺だって、いろいろとあるんだよ」
「なんで、そんなこと言うのよ。店の主人が悪人なら、警察に言えばいいじゃない」
と私 は声を荒立てた。
シュウはすべてを遮断するように目を閉じた。
私だけが目の前にあるお鮨を黙って眺めた。シュウのにぎったお鮨を見ていたら、どう しても言いたくなってしまった。
「シュウはなぜそんな店で働くのよ。これだけのお鮨が作れるのだから、他の店に行けば いいのよ」
シュウの顔が強ばった。
「大事なことじゃないの!シュウだって、言っていたじゃない。嫌な店だって!」
「だからって、辞められないんだ。それができたら、辞めているよ」
シュウは吐き捨てる ように言うと部屋から出て行った。
ドアが壊れそうな音を立ててバターンと閉まった。
腹立たしい気持ちがドアの音のように大きくなっていった。
「どうして、シュウは怒るのよ。帰らなくてもいいじゃないの!」
と私はドアにむかって 怒鳴った。
そして、私の気持ちをシュウか分からないことが悔しかった。