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さいとうよし子ちゃんのボール 第二球「ごまめちゃんの涙NO.1」 海の波間に青いボールが跳ねながら泳いでいる。 そして、そのボールと一緒になって、 ザブン、ザブンと遊んでいるゴマフアラザシの子供がいる。 「ねぇ、さいとうよし子って、そこに書いてあるけど、ボール君の名前?」 「うん。でも、よし子ちゃんは僕の大好きな女の子なんだ。ここにはいないけどね。その 子の名前だよ」 「じゃ、ボール君はごまめとおんなじだね。だって、ごまめはおかあちゃんと離れ離れだ し、ボール君はよし子ちゃんと離れ離れなんだ!」 「そうだね。でも、ごまめちゃん、もうすぐお母さんに会えるよ。だって、もうすぐ、日 本だよ」 「ボール君、待って、待ってよ。ボール君が日本に早く帰りたいのは分かるけど、そんな に急いで行かないでよ」 「ごまめちゃん、だってもうすぐだもん!ほら、あそこが東京だよ。そして、ちょっと西 に行くと多摩川があるんだよ」 「わかったわ。ボール君は、よし子ちゃんに早く会いたいのね。ねぇ、ボール君ってば、 よし子ちゃんって、どんな女の子?」 「どんな女の子って?それは、とっても可愛くって、愛らしくて、なによりも僕とたくさ ん遊んでくれて、僕を大切にしてくれたんだ」 「ふーん。そうなの・・・・・」 ちょっぴりだけ、ごまめちゃんは淋しくなった。 それはいっしょに旅をしてきたボール君 が日本に着いたら、よし子ちゃんのところに行ってしまうのではないかと心配になったか らだ。 「ねぇ、ごまめちゃん、心配しなくて平気だよ。僕はごまめちゃんのお母さんが見つかる まで、よし子ちゃんのところには帰らないから」 「ほんとう?私のおかあちゃんを一緒に探してくれるのね」 「そうだよ」 二〇〇二年の秋、多摩川の川原に置き忘れられた「さいとうよし子ちゃんのボール」は、 台風10号とともに北上して、太平洋を偏西風の波に乗り、北の海を日本からアメリカに 渡ったのだ。 そして、辿り着いた海岸はアメリカ、オレゴン州のフローレンスだった。 よし子ちゃんのボールは海岸で遊んでいたメアリーちゃんに拾われ、メアリーのお家で暮 すことになった。 あの時の仲間だったコーラのペットボトル君は、ハッポースチロールの蓋君と一緒にオ レゴンのゴミ再生処理場へ、そして丸たんぼうのおじさんは、オレゴンコーストの浜辺に うちあげられたままだったが、その年の暮れには日本に帰っていった。 よし子ちゃんのボールはメアリーちゃんに大切にしてもらったけど、どうしても「さい とうよし子ちゃん」に会いたくて、大好きなメアリーちゃんに別れを告げると一人で太平 洋を渡って日本に帰ることにしたのだ。 そして、アラスカ沖から来たアザラシのごまめちゃんとひょんなことから一緒になり、 旅をすることになった。 ごまめちゃんはアラスカ沖から樺太、北海道と広い範囲に生息しているゴマフアザラシの 女の子だ。ごまめちゃんのお母さんは六ヶ月前にアラスカを襲った大嵐に飲み込まれて、 流されてしまったのだ。 ごまめちゃんは、お母さんが日本に流されたとカモメさんから聞いて、ひとりで探しにき たのだ。 「ボール君、東京って、見た事も無いガチガチした高い岩山がたくさん見えるよ」 「ごまめちゃん、あれはビルって言うのだよ。ごまめちゃんたちのいる浜辺のお家みたい なものだよ」 「ずいぶん尖がっているよ」 「でも、こんなところばかりじゃないよ。ごまめちゃんのお母さんはきっと多摩川にいる よ。だって、丸たんぼうのおじさんが多摩川にアザラシが迷い込んできたって言っていた し、きっと多摩川にいるよ」 「ほんとう?そのアザラシがおかあちゃんだといいんだけど・・・・」 「きっとごまめちゃんのお母さんだよ」 羽田沖の海にはアナゴやハギ、そしてボラが泳いでいた。春の日差しが穏やかな海には 幾つかの釣り舟が浮んでいた。 「あれ、タマちゃんじゃないか?タマちゃんがいたぞー!」 と釣り人が叫ぶと、いっせい に釣り舟がふたりに近づいてきた。 さぁ、たいへん!! |