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HITOMIKUYOU(人身御供5) 白井が権藤総業の今までの悪事を社長に直接、暴露しようと覚悟したのはそれからまも なくの事だった。忠司は白井があれから何も言ってこないことが不安になってしかたなか った。同期入社の白井は善悪の拘りが異常なくらい激しかった。 そして、時々、探偵まがいなことをして命を狙われそうになっていた。 その度に警察さたになり、五年ほど関連会社に出向になっていたが、 神戸支店の営業第一課に戻ってきた。 忠司はここで白井に勝手な事をさせないように注意を払っていたが事態はとんでもない 方向に進んで行こうとしていた。白井がどんなことをしようが、権藤が保険金詐欺をした という確証は掴んでいないと思っていた。 しかし今回の倉庫火災に関して忠司は権藤を守りきる自信がなかった。 それは、あまりにも権藤がラフに放火したからだった。 十二月三十日の深夜に権藤の妻が経営している輸入家具の倉庫が全焼した。 埠頭の倉庫が立ち並ぶ一角から少し離れて閑散としたところにその倉庫はあった。 人気(ひとけ)の無い深夜の火災は放火と断定されたが目撃者もなく、捜査は難航していた。 警察は権藤が多額の負債を抱えている事から保険金詐欺の可能性も視野に入れて捜査を はじめたが、権藤にはアリバイがあった。 十二月二十九日から三十一日まで権藤の妻と二人で北海道へ旅行に出かけていた。 年の瀬になぜ北海道にでかけたのかと警察に厳しく訊かれていたが、 そこはしぶとい権藤の口が刑事に喋り勝ったのかスンナリと疑いが晴れたように見えた。 バブルが弾けてからジワジワと庶民にまで借金苦は裾野を伸ばし襲い掛かってきていた。 バブル期に手広く商売をしていたところは軒並み出口のない借金地獄へと転がり落ちて行 った。権藤も狂った波の中でもがき苦しんでいる一人だったが、蜘蛛の糸にぶら下がりな がらも確実に汚金を手にしていった。 信じられないような大企業や大手銀行の倒産が続き知らず知らずに暗く混沌とした世の 中が何年も続くとは誰も思っていなかった。 そしてこんな時期だからこそ悪党どもが巧妙な手口で吸血鬼のように金を毟り取ろうと甘い蜜に群がっていった。 年が明けて、忠司は権藤の妻がやっている店に顔を出した。 「片桐さん、このドレッサー見て欲しいわ。イタリアのフェレンッエで私が見つけてきた のよ。あのナポレオンが妻にプレゼントしたものと同じデザインなのよ」 「それは凄いですね。そういわれてみれば、重厚なデザインがナポレオンを感じさせます ね。こんなゴージャスなドレッサーは見たことがありませんね」 「そうでしょう。片桐さんはアンティークが良くお分かりになるのね。ここにいらっしゃ るお客様はみなさん御目が高い方ばかりで、私がお薦めしたお品物をお買い求めになるの よ」 と、妻の勝江が少しばかり興奮した様子で忠司に話した。 暮れに起きた倉庫の火災をすっかり忘れているように平然とした態度で忠司に接した。 忠司はもう一度、店内をゆっくりと見渡した。この店の商品は、バブル期に金にものを 言わせて買い漁っただけあって、かなりの金額になるようなに忠司は思えた。報告書通り 倉庫にこれらの家具があったなら億という金が動く事になる。 しかし、この丸焼けになった倉庫には、幾つか納得に行かない問題があった。それに警察が気づくのもそう遠いことで なくなるだろうと、忠司は思った。 そして、このことに白井はもう、気づいているのだろうか? もし、気づいているのなら、権藤に何らかの知らせがあると思った。 売れる見込みのない豪華なダイニングの椅子に持たれながら忠司は、権藤が現れるのを 待った。 そんな忠司の心境を知ったか知らずか、勝江は忠司に小ぶりのキャリオカを薦めた。 「片桐さん、これ、どうかしら?」 「いいですね。ウォルネットの材質が生かされていてお洒落な感じですね」 「そうでしょう。御買いになりません」 「欲しいですね」 「ほんとう。これ私のお薦めよ」 勝江はパッと顔を輝かして値段を忠司に見せた。 「値段も高いですね」 忠司は少し肩を落としてみせた。勝江は忠司が引き気味になった様子に落胆することもな く話題を変えて話を続けた。 勝江は前もって連絡もなしにぶらりと店にやってきた忠司が一語とも権藤の話をしない ことが何かおかしいとやっと気づき、慌てて夫の権藤に連絡をするように店の女の子に頼 んだ。 「奥さんがすぐに店にきてほしいと言っています」 「何かあったのか?」 「ジャパン火災の片桐さんが・・・・」 「わかった。すぐに行くよ」 権藤は受話器を置きながら、忠司が一体何の為に店に来たのか? そして、警察が疑っている事も、ジャパン火災が保険金の支払いを渋っている事もす べてが、いままでの自動車事故の時のように事が運んでいないように思えていた。 |