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HITOMIKUYOU(人身御供4) 夜の街はいつ起きるか分からない巨大地震の恐怖を忘れさせ、忠司の歓迎会は盛り上が っていった。 「部長、片桐部長、静岡は良いところですよ。魚は新鮮で美味しいし、お茶は日本一だし 本当に素晴らしいところですよ」 「そうですね。このお店の刺身は鮮度があって美味しいです」 静岡最大手の代理店を経営している竹中厭之助に話しかけられた。 竹中は身体がガッチリしていてゴルフ焼けか顔が浅黒く、年格好からして六十歳ぐらいに見えた。 忠司は戸惑いながらも、地元の大物と言われている竹中に丁重に挨拶をした。 竹中と言葉を交わした瞬間に忠司は竹中から悪党の匂いを嗅ぎ取った。 それは忠司に対して竹中の妙な馴れ馴れしさが、 一度地獄に落ちて獣道を逃げ回ったチンピラを極道が受け入れるような奇妙な関係が生まれたからだ。 そしてそれは研ぎ澄まされた野獣の感覚で悪党しか感じない唯一の匂いだった。 忠司が闇の世界に足を踏み入れることになったのは神戸支店に転勤になって一年目のことだった。 営業第一課長で同期の白井亨が担当してい山本組系の代理店、 権藤総業に支払う保険金がそもそもの事の始まりだった。 「保険金詐欺か、これだけ巧妙な自動車事故なら警察も手出しができないだろう。 八千万円の保険金を支払うことになってもなんの問題は無い」 忠司はそう呟きながら、社長の権藤彬が待っているバーに向かった。 「片桐さん、今日はお一人ですか?白井さんはご一緒じゃないの」 ママの美紗が権藤の指図通りに聞いてきた。 それは忠司が権藤に従う意思があるかどうかを確認する意味だった。 「ママ、白井はこないよ。残念だね」 と忠司は美紗に答えた。 そして美紗はわざとらしく 「権藤さんがみえていらっしゃるのよ。片桐さん、こちらにどうぞ」 と権藤の席に忠司を案内した。 「やぁ、片桐さん、一緒に飲みましょう」 と偶然を装うように権藤は声を張り上げた。 忠司はここに来たことが、白井を裏切ることだと分かっていたが 「正義」を信じて権藤の悪事を暴くにはリスクが大きすぎると思った。 それは忠司が白井と違い権藤の保険金詐欺を見破れなかったら、 サービスセンタ―の課長職を失い左遷させられることは間違いないからだ。 それは劣悪な客でも、権藤はJAPAN火災の代理店として看板をかかげていのだ。 権藤の保険金詐欺を警察は単なる交通事故として取り扱い、 詐欺と不信がるような多額な生命保険や搭乗者保険に入っていなかったし、 なんの問題も無く済んでいた。 もちろん会社独自の調査でも、黒と言えるほどのものが上がってこなかった。 加入している保険が重複していたが権藤はJAPAN火災の代理店という立場を 逆手にとって契約内容をしっかりと把握して最大限に保険金を騙し取った。 事故は新車のベンツで必ず起こし、助手席の二十歳前後の女性が犠牲になる。 いままで権藤がやってきたこれが手口だった。 左ハンドルだからこそできるうら技で、運転している権藤や権藤の息子は無傷で、 助手席の女性が怪我をするようになる正面衝突事故だ。 もちろん、影の車の存在がありこの車が絶妙に動いて事故を成立させていた。 影の車の正体は権藤総業と関係していることも白井から聞いて知っていた。 それでも忠司はそれ以上のことをインスペクターに調べさせることをあえてさせなかった。 損害保険会社にとって代理店は大切なお客様でもある。 権藤総業は代理店として幾つもの大口の顧客を持っていてジャパン火災に貢献している表の顔と、 したたかに保険金を騙し取る裏の顔があった。 白井は権藤総業を代理店から外したがっていたが、会社組織の中で「正義」がどれほどの価値があるのか忠司は分かっていた。 それが真意を欠くものであっても忠司自身のリスクを考えたら深入りは危険だと察した。 ここで権藤の要求を呑んで保険金を支払ったとしてもどこも悪くない。 白井がこのトリックを暴いたとしても、 犯人の権藤を捕まえる事は白井にはできないと思っていた。 そして保険金は権藤に支払われて、何事もなかったかのように半年が過ぎた。 「片桐、あの時におまえがしっかりと権藤の悪事を暴くべきだったんだ。 今度は権藤総業の倉庫が火事で三億円だぞ!」 「白井、そんなに権藤を捕まえたいなら捕まえろよ」 「そんな言い方は失礼だぞ、片桐」 「白井は責任がないから、そう言えるのさ」 「おまえはそれでも人間か?」 「おまえこそ、失礼じゃないか。だいたい、まだ調査中だ。保険金が支払われたわけじゃない」 忠司は白井の正義感の後ろに見え隠れする白井の性(さが)に気が付いていた。 |