遥かなるオレゴンコースト4



李紗はその日からアレックスとのミックスダブルスの練習をするために毎日のようにテ ニスコートへ出かけた。
ボブとのシングルスの練習を少しばかりやると、すぐにダブルス の練習試合をしながらボレーやスマッシュの練習に励んだ。
李紗はアレックスのことでハートが一杯になっていた。
もう、すべてに落ち込んでいた李紗の姿はどこにもなかった。
  就職先を探すためにインターネットと睨めっこをすることもいつのまにか少なくなり、
テニスコートで過ごす時間がふえていった。
だからと言って就活ができないと焦る事もなく、イライラすることもなくイーチン(易)の流れに逆らうことなく日々が過ぎていった。

そして、ついにスタンフォード大学テニス部がオレゴン大学にやって来た。
西地区最大のドーム型室内競技上はテニスだけでなく多目的機能を持ち、
この素晴らしいドームの柿落としに相応しい全米大学一位のバスケットやアメラグのチームが次々にやって来た。
学生たちの素晴らしいゲームを期待して大勢の客が連日ドームに押し寄せた。

李紗は舞い上がっていた。
アレックスと一緒にコートに立てるだけで胸が高鳴り試合に集中できずにいた。
あれほど練習したボレーやスマッシュがいつものように決まらずに拾われてしまい、
無理にきわどいコースを狙いアウトやネットをしてアレックスのサービスゲームをブレークされてしまった。
「アレックス、ごめんなさい」
「李紗、気にしないで楽しくやろう」
「ありがとう。でも、力んじゃうわ。どうしても硬くなっちゃうわ」
「得意のストロークでトーマスのサービスを返せばリズムに乗れるよ。李紗ならできるよ」
「やってみるわ」
李紗はそう言いながらレディーポジションについて、ラケットをクルクルと回して力みを取った。
李紗のリターンはサービスダッシュしてきたトーマスの足元に沈み、
チャンスボールとなりフワッと浮いてきたところをアレックスがボレーで決めた。
このリターンから李紗はいつもの李紗になり、それからは二人の息の合ったプレーで試合は快勝した。
エキシビションの李紗とアレックスのミックスダブルスをVIP席から熱心に見ていた
大手スポーツメーカー・ナイキのCEO(chief executive officer)が二人に握手を求めてきた。
これこそがIncease(益)だ。
ついに大河を渡るときが李紗にめぐってきた。
そしてそれは李紗だけでなくアレックスのも関わるナイキのCEO(社長)ナイト氏との 出会いとなった。

六ヵ月後、李紗はオレゴン大学を卒業してナイキに勤める事になり、アレックスはプロテニスプレイヤーとしてナイキがスポンサーになった。
もちろん、李紗の淡い初恋はアレックスに通じて二人は恋におちていった。
そして若い二人は夢中でと大河を渡り始めたドリームカムトゥルーを信じて・・・・。

李紗は会社に入ってすぐにナイキJAPANとの販売促進会議ために日本に行く事になり、
週末を母の寛子と妹の美紀が暮らしている世田谷の家で過ごす事になった。
「李紗ちゃん、また綺麗になったわね」
「お母さんこそ、ぜんぜん変わらないわ」
「そんなことないわ。もう歳よ。いつのまにか五十歳すぎちゃったわ」
「美紀もNY(ニューヨーク)の音楽学校に行く事になって良かったわね。お母さんもアメリカに来ればいいのに?」
「おばあちゃま、おじいちゃまのことはどうするのよ」
「二人とも元気だし、なんの心配もいらなじゃない」
「そうはいかないわよ。あれで二人ともトンチンカンなところがあるのよ」
「それは、お母さんがお世話しすぎよ。それに卒業式も来てくれなかったし、どうしても来て欲しいのよ。お母さんにアレックスを紹介したいのよ」
「李紗ちゃんがいつも話してくれる皇子様ね。お母さんもアレックスに会いたいわ」
「ほんとうね」
「今回は李紗ちゃん、アメリカにとんぼ返りでしょう?」
「そうよ。だってボスのロバートと日本に仕事で来ているから無理よ。大丈夫だからお母さん、一人で飛行機に乗ってアメリカに来てみてよ」
「それが嫌なのよ。英語が苦手だし、ダメダメ・・・」
「そうだわ。美紀がNY(ニューヨーク)に行く時に一緒に来ればいいわよ。それならNYで待ち合わせをして」
「八月の末に行くような事を言っていたわよ。美紀ちゃん」
「美紀はまだ寝ているの?」
「あの子、夜が遅いから十時過ぎまで起きないわよ」
「そう、もう私は出かける時間だから今晩でも美紀と話すわ」
「そうしてくれる」
と寛子は答えた。